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通信とデジタルの力で、アフリカの小さな村々を世界とつなげて劇的に変化を起こしたい - アフリカスタートアップ・Dots for 創業者/CEO 大場さんインタビュー

 私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回は、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)でMBAを取得後、Amazon、リクルート、スタートアップを経て、現在は西アフリカ・ベナン共和国で、通信インフラのない農村にスマホで利用できるデジタルサービスを提供するスタートアップ企業・Dots forの創業者兼CEOの大場カルロスさんに、アフリカでの起業や農村のデジタル化による社会的インパクトというテーマでお話を伺いました。

また、大場さんはバルセロナで開催された世界最大の通信業界のイベントであるMWC(Mobile World Congress)に出展者として参加なさっており、IESEのキャンパスで対面で交流させていただきました。

大場カルロスさんについて

科学技術振興機構(JST)を経て米国カリフォルニア大学サンディエゴ校でMBA取得。

Amazon、リクルート、スタートアップ2社を経て2021年にDots forを創業。100か国以上を旅するバックパッカーでもある。カルロスはMBA留学中に名乗りだしたニックネーム。

Dots forについて

ベナンを中心とした西アフリカの農村部にWifiによるネットワークとスマホで利用できる様々なデジタルサービスをサブスクリプションで提供し、収入向上のための開業に必要なファイナンス支援や職業訓練動画や、スマホでできる仕事そのものの提供等、農村がデジタル化し世界と繋がっていくことを支援するスタートアップ企業。https://dotsfor.com

Q. まず、Dots forはどういったことをする企業なのでしょうか?

Dots forは、通信インフラのない村にWifi機器とサーバーを設置して、スマートフォンから分割払いECやクレジットスコアの付与、動画コンテンツ配信などが利用できるサービスを提供しています。

サーバーやWifiルーターはソーラーパネルで給電していますし、Wifi機器同士はメッシュネットワーク(網目のようにWifi機器同士が繋がり、通信中継ができる仕組み。どこかが故障してもすぐ迂回できるため、障害に強い。)で繋がっているので、インフラが整っていない村でも安定して利用できます。また、現地の経済水準を鑑み、スマートフォンは週払いの分割販売で提供しています。サーバーやサービス、コンテンツも、毎日オペレーションによって更新されます。

図:村全体を効率よくカバーする、メッシュWifiネットワークのイメージ

図:村に構築したWifiイントラネット(組織内ネットワーク)上で、割賦販売で手に届きやすくしたスマホから、動画コンテンツにアクセスできるビジネスモデルのイメージ

サービスの一つである動画配信サービスにはエンタメ動画もありますが、ヘアカットの仕方、靴の作り方等の職業訓練動画もあり、それで勉強して新しく商売を始める人もいます。さらに、商売を始めたいが元手がない人向けに、商売道具(理容師ならハサミやバリカン、靴屋ならミシンや革等)を週払いで提供する開業のための物品が購入できるECも提供しています。さらに、最近はブラザー工業と提携して印刷・コピーサービスを展開したり、アフリカの外の会社からゲームのデバッグ作業など業務アウトソースの案件を会社が請け負い、農村にいるDots forの顧客に作業してもらうことで何百倍もの収入増加ができるなど、Dots forの村でのデジタルプラットフォーム上で利用できるサービスのコンパウンド化も進めています。

なので、Dots forは通信の会社というわけではなく、強いて言うと農村のデジタル化の手伝いをする会社でしょうか。

Q. アフリカでの起業を思い立ったきっかけはどこにあるのでしょうか?

 前職はタンザニアの未電化地域でLEDランタンをレンタルするスタートアップで働いていた際に、「事業をやるならアフリカの農村」だと思いました。確かに貧しい地域ではありましたが、価値のあるものやサービスにちゃんとお金を払っている。それなのに誰もこのマーケットを見ていないんです。未だに、散々事業の説明をした後に「Dots forは非営利団体ですよね」と聞かれることもある。アフリカの農村マーケットの規模って数十兆円もあるとの試算もあるくらい大きな市場なのに、通信のインフラがないために打てる施策が限定的になってしまう。このような地域に、爆発的なインパクトをもたらすには通信とデジタルしかないと思いました。

 日本では90年代半ばごろからインターネットが出だしたわけですが、その頃の私は茨城の田舎で中高生をしていました。それが、20歳前後にインターネットで調べたら、例えば中学校受験の様な選択肢が世の中にあったり、中高生までの自分にはもっと沢山の選択肢があったんだとわかりました。、それを知らなかった為に、10代までの自分は不利益に気づきもせず、限られたエリアの常識に従って生きていたと気づきました。同じような分断による情報格差や機会格差が、今まさに先進国と途上国、途上国の都市と農村で起きていて、世界の人口の60%が世界の広がりを知らない状況で生きている。そういう状況を、自分は変えることができると思ったんです。

Q.アフリカのスタートアップでの経験がきっかけだったのですね。しかし、 アフリカで仕事をしようと思われたきっかけは何なんでしょうか?

 前職で働いて、こういうところに人生を賭けたい、と触発されたのがきっかけです。もともとMBAでも社会起業を勉強していて、カルロスと名乗りだしたのも中南米で起業することを考えていたからです。40歳を過ぎたことから死に方を考えるようになって、どうすれば後悔しない死に方ができるかを悩んでいたんです。

 私の父は若くして亡くなっていて、母も私が25歳くらいで急死しています。その後、母の人生について、生きた証は何だろう?と考えました。母は学校の先生だったので、その教え子達がそうだろうと思うし、息子である私自身がまさに親の生きた証で、私が残した世界へのインパクトの大きさが両親への親孝行だろうと考えて、人生インパクト最大化をできる場所を探していました。

Q. Dots forのアイデアの原型はどこにあったのでしょうか?

10年程前にバックパッカーとしてキューバに行った時、ハバナの街でキューバ人たちがインターネットを利用しようと多大な努力をしていたのがきっかけでした。当時のキューバでは、民間人が使えるインターネットは首都ハバナの公園に2か所だけWifiホットスポットがあるだけだったんです。それも、5ドル払って30分使える程度のモノでした。キューバ人の収入は平均月収わずか20ドル程度。そこからたった30分の接続のために5ドルを支払っている。「世界と繋がりたい」という想いの強さを強烈に感じました。こういう状況のキューバで、インターネットをどう普及させようかと考えたとき、キューバ全土に光ファイバーや通信基地局を張り巡らせるのは相当の投資と時間が必要ですよね。もっと安く、もっと直ぐに通信ができないか?と考えて、今のDots forのサービスの原型を考えました。

 Wifi機器によるメッシュネットワークという技術は当時から目星をつけていましたが、まだ全然普及しておらず、自分がやりたいことを満たそうとするとオリジナルでルータを設計・開発しないといけませんでした。エンドユーザーが使うデバイスのスマートフォンやパソコンも当時は何万円もしたので、事業として採算がとれなさそうなのであきらめました。しかし、近年ではスマホは1万円くらいで買えるし、メッシュネットワークが組めるルーターもほとんどのルーターに最初から組み込まれている様になってきました。今だったら採算も取れると思ってDots forの事業を始めました。それがタンザニアで仕事をしていた4年前の話です。

MBAについて

Q. MBAを目指されたきっかけは何でしょうか?

 もともと独立行政法人で働いていて、将来的にビジネスを学んで起業したいと思っていたのですが、その前の基礎力をつけるため、MBAで力をつけてビジネス界で通用する人間になろうと思ったのがきっかけです。当時のUCサンディエゴのビジネススクールは比較的新しい学校で、自由な校風に惹かれたのと、中南米にも近いロケーションから選びました。学校生活はひたすら貧乏だったんですが、休みがあったらとにかく中南米をバックパッカーとして旅行していました。

Q. MBAの経験で生きていることはありますか?

 正直内容はあまり覚えていないのですが、起業家育成が売りの学校で、ビジネスプランやプロトタイプを作る授業を覚えています。当時やったことは知識として分かっているつもりでしたが、起業した今になって実際にやってみると、改めて「こういうことか!」というのがわかってきました。例えばビジネスプランを作る時の投資家への見せ方だったり、プロトタイプを見込み顧客にあててみたり、インタビューの一連の流れとかです。

 Dots forのプロトタイプも自分で作りました。ソーラーパネル、Wifiルータを何台かと、あとパソコンにコンテンツをいくつか入れてたのをWindowsの標準機能のファイル共有アクセスできるようにして、ベナンの農村で試してみたら、みんな1日中動画を見てお金を払ってくれて、めちゃくちゃ当たりました。

図:サンディエゴMBA時代の起業ピッチ

Q. MBA卒業後、Amazonやリクルートで働かれたのはどういう経緯でしょうか?

 起業を考えていたものの、Amazonの面接でいつか社会起業をやりたい、と言ったら、「僕らAmazonが生んでるのは社会の課題を解決する価値そのもの。社会起業と何が違う?」って言われ、確かにそうだなと思って、こういう考え方やカルチャーが浸透してる会社であることに惹かれて入社しました。

 未だにAmazonのカルチャーは好きなんですが、だんだん世界を相手に仕事をしたいなと思って、今度はリクルートのレストラン向けサービスを欧米展開する仕事の話をいただいて転職しました。1年の半分は欧米を飛び回ってましたね。次は女性向けの動画メディアのスタートアップで、タイ子会社の立ち上げと経営をしながら東南アジア事業全体の責任者をやりました。そのくらいで起業しようと思ったのですが、ちょうどアフリカでの求人に惹かれてまた転職しました。

Q. そうしたキャリアを、起業から逆算して積まれていったのでしょうか?

 全くありませんでした。結構行き当たりばったり。しかし、MBAをはじめとしてここまでの経験は全部繋がっていて、例えはリクルートでやっていたレストラン向けサービスも、POS端末と厨房のモニターやプリンターやとかをつなげるために、ロンドンやニューヨークの厨房の床を這いつくばりながらLANケーブルや無線のネットワーク設定をして。。。ということをやっていて、まさに今やっている村内通信インフラは、この時にやっていたことが役に立っています。タイの子会社のマネジメントも、今ベナンで現地スタッフをマネジメントしています。今まさに、これまで積んできた経験の総力戦をしている感覚です。

次のページ(↓)では、Dots Forの創業秘話について伺いました!

1大場さんのバックグラウンド 2Dots For創業秘話

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