IESE Co27のKと申します。
今回は、IESEの入学直後に実施される、Communication Weekでの経験を振り返りながら、IESE、そしてMBAという環境で学ぶことについて書いてみたいと思います。
IESEのCommunication Week
IESEでは、MBAプログラムの開始時期に「Communication Week」と呼ばれる期間があります。ここでは、単にプレゼンテーションのテクニックを学ぶのではなく、「どうすれば人を動かすコミュニケーションができるのか」を、実践を通じて集中的に学びます。
Logos(論理)、Pathos(感情)、Ethos(信頼)といった古典的な考え方から、声の使い方、間の取り方、身振り手振りまで。座学だけではなく、実際に何度も人前で話し、フィードバックを受けながら改善していきます。
そして期間の最後には、選出された10名ほどの学生が、1年生全員の前で学内の講堂に立ち、スピーチを行います。私も幸運なことにその一人として選ばれました。ちなみにその年は、選ばれた10人のうち2人が日本人という、珍しい年だったのではないかと思います。(IESEの1学年あたりの日本人比率は3%程度)
英語とは無縁だった「純ドメ」の自分
私は、いわゆる「純ドメ」です。
MBAに来るまで、仕事でも学業でも、リーディングを除けば英語を使う機会はほとんどありませんでした。留学や海外駐在経験もなく、英語で日常的に会議をするような仕事をしていたわけでもありません。
そのため、MBA受験でも英語には相当苦労しました。(勉強を本格的にスタートするまでのTOEICの最高スコアは700点-_-;)
必要なスコアを取るまでには約2年半。幸い、当時の仕事はいわゆる激務系ではなかったので、コンサルティングや投資銀行などで働きながらMBA受験をしていた人たちと比べれば、勉強時間を確保できる環境にはありました。私の場合、平日は仕事の前後に合計3時間ほど、休日は10時間程度勉強する生活を2年半ほど続けていました。
オンライン英会話で、毎日のようにモニター越しの初対面の先生と話す。発音矯正のスクールにも通う。うまく話せなかった表現をメモし、翌日また試す。
「これだけやっているのに、全然話せるようにならない」と感じる期間の方が長かったように思いますが、昨日より今日、今日より明日と、少しずつ改善を積み重ねていきました。
「Marginal Gain」を「Kaizen」で語る
Communication Weekのスピーチで何を話すか考えたとき、私はこの英語学習の経験を題材にすることにしました。
その際、ストーリーの中心に置いたのが、個人的に昔から大切にしている「Marginal Gainの積み上げ」という考え方です。これは、趣味である自転車競技を通じて知った考え方で、私がファンだったプロサイクリングチームのTeam Skyが、「あらゆる小さな改善を積み重ねることで大きな成果につなげる」という思想として取り入れていたことで知られています。

一回一回の改善は小さくても、それを長期間積み上げていけば、最終的には大きな変化になる。
ただ、「Marginal Gain」とそのまま説明してもよいのですが、私は、この考え方を日本語の「Kaizen」という言葉に結び付けました。
最初はほとんど英語が話せなかった自分が、オンライン英会話を毎日続け、発音を練習し、小さな改善を2年以上積み重ねて、最終的には英語でMBAをするところまで来た。
自分がしてきたことは、まさに「Kaizen」だったのではないか。
そんなストーリーです。
もう一つ、スピーチを作る上で意識したことがあります。
MBA受験時代、エッセイカウンセラーから何度も言われた言葉です。
“Don’t tell. Show it.”
「自分は努力しました」と言うのではなく、その努力が聞き手の頭の中に映像として浮かぶようにする。
例えば、「英語を一生懸命勉強した」とだけ言っても、聞き手にはほとんど何も伝わりません。
それよりも、仕事を終えて家に帰り、PCを開き、モニター越しに毎日違う先生と英語を話す。休日には一日のかなりの時間を勉強に使う。それを数週間ではなく、何か月、何年と続ける。
そうした具体的な情景を入れることで、聞いている人が自分の経験を追体験できるように意識しました。
なぜ、このスピーチは伝わったのか
Communication Weekが終わってから振り返ると、このスピーチが比較的多くの人に届いた理由は、大きく二つあったように思います。
一つ目は「共感しやすさ」です。
「自分が苦手なことがあり、努力してもなかなか上達せず、それでも続けた」という経験は、題材が英語でなくても、多くの人が何らかの形で経験しています。
IESEには世界中から学生が集まっています。当然、育った環境も、文化も、人生経験も大きく異なります。 Communication Weekでは一日に何本ものスピーチを聞きますが、その中で感じたのは、「良い経験だから良いストーリーになるとは限らない」ということでした。 本人にとって非常に重要な経験でも、文化的な背景を共有していない聞き手には、なぜそれが大変だったのか想像しづらいことがあります。また、ストーリーを綺麗に仕上げようとするあまり、まるで映画の脚本のようになり、逆にAuthenticではないように聞こえてしまうこともあります。
その点、「英語ができずに苦労した」という話は非常に単純です。
そして、その苦しさを抽象化せず、できるだけ生々しいディテールとして話したことで、英語学習そのものを経験していない人にも、「何かができなくて苦労した経験」として重ねてもらえたのではないかと思います。
二つ目は「わかりやすさ」です。
ストーリー自体がシンプルだったことに加え、「Kaizen」という一つのキーワードにまとめたことが大きかったと思っています。
MBAに来て感じることの一つですが、欧米では日本語由来のコンセプトが意外なほど知られています。Kaizenだけでなく、IkigaiやZenなど、日本ではそれほど特別に意識していない言葉が、海外では一つの思想やコンセプトとして受け止められていることがあります。多少romanticizedされている部分もあるとは思いますが、日本人としては面白い現象です。
多くの学生が次々にスピーチをする環境では、一つひとつの細かな内容をすべて覚えてもらうことはできません。
だからこそ、「英語学習について話した人」ではなく、「Kaizenのスピーチをした人」として記憶してもらえたことには意味がありました。
実際、Communication Weekから時間が経った今でも、それまでほとんど話したことのなかった同級生から「あのKaizenのスピーチをしていた人だよね」と言われることがあります。
今振り返ると、複雑なストーリーを、興味を引く一つのワードに結び付けられたことが、結果的にスピーチを覚えてもらう上で非常に大きかったのではないかと思います。
最後に:「知っている」と「経験したことがある」は違う
ここまで書いてきた内容をKey Takeawaysとしてまとめれば、おそらくそれほど目新しいものではありません。
「聞き手が共感できるストーリーを作ろう」
「具体的なエピソードを使おう」
「シンプルなメッセージにしよう」
「Don’t tell. Show it.」
こうしたことは、少し検索すればネットやAIで見つけらますし、コミュニケーションに関する本を何冊か読めば、おそらくすべて出てきます。
それでも、MBAでこうしたことを学ぶ意味はあると思っています。
それは、理論やフレームワークを「知る」だけではなく、それを実際にApplyし、結果を振り返り、また次の機会に試すというサイクルを何度も回せるからです。
Communication Weekでスピーチをする。ケースディスカッションで自分の意見をぶつける。グループワークでは、自分とは全く異なるバックグラウンドや価値観を持つメンバーと議論し、時には相手を説得する。授業外でもクラブ活動やイベントなど、手を挙げれば様々なことに挑戦する機会があります。
そして、IESEの特徴の一つは、他のMBAスクールと比べてもインテンシブなカリキュラムの中で、こうした経験を非常に高い密度で積める(積まざるを得ない)ことだと思います。
日々のケースの予習や授業、グループワーク、課外活動などが次々にやってくる中で、「十分に準備ができてから挑戦しよう」と考えている余裕はあまりありません。準備が不十分でもまずやってみる。うまくいかなければ、その理由を考える。そして翌日にはまた別の機会がやってくる。試す、失敗する、Reflectionする、もう一度試すというサイクルを、これほど短期間に何度も回せる環境もなかなかないと思います。
しかも、その多くを「失敗が許される環境」で経験できます。
仕事で重要なプレゼンテーションを失敗すれば、当然それなりの結果を伴います。しかしMBAであれば、失敗した後に「なぜ伝わらなかったのか」「自分にはどんな癖があるのか」と振り返り、次の日にはまた別の場で試すことができます。
今回、このブログを書くこと自体も、私にとってはよいReflectionの一つになりました。
このブログを読んでくださっている方の多くは、MBA受験を検討している方だと想定しています。
MBAに行くかどうかの判断軸は人それぞれで学業、キャリア、海外経験、ネットワーク、家族との生活など、何を重視するかによって答えは当然変わると思います。
ただ、今回のCommunication Weekの経験一つを振り返ってみても、多様な価値観を持つ優秀な人たちが集まる環境で、失敗することも含めて様々な経験を積むことは、私にとってMBAに来た大きな価値の一つになっています。

特にIESEは、インテンシブな環境だからこそ、自分から積極的に動く人はもちろん、「まだ準備ができていない」と思っている人でさえ、否応なく様々な場に放り込まれます。それは大変でもありますが、自分一人では選ばなかった経験や、自分でも気づかなかった課題に出会える環境でもあります。もし、MBAを通じて知識や肩書きを得るだけではなく、多様な人たちとの経験を通じて、自分自身の行動や考え方までアップデートしたいと思っているのであれば、IESEは非常に面白い環境だと思います。