インタビューの趣旨について
私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。
今回は、バルセロナにおいて、FCバルセロナアカデミーキャンプコーチ、サッカー留学生支援等、サッカーを軸に様々な立場で活躍する小堺さんに、キャリア観、海外ビジネス、アントレプレナーシップ、チームマネジメント等をテーマにインタビューをさせていただきました。
小堺さんのご紹介
小堺(こざかい)めぐみさん。2011年に慶応義塾大学を卒業後、スペイン女子サッカー2部C.E.エウロパに選手として所属。その後、スペインサッカー指導者ライセンス最上級レベルを取得し、現在は、Women’s Soccer School BarcelonaのU-16女子チームの指導、FCバルセロナのアカデミーキャンプの指導等を行っている。また、日本人サッカー選手のスペイン留学支援を行う等、サッカーを軸に多方面に活躍中。
https://megu-style.com (公式サイト)
https://note.com/megumikozakai/n/nf3d2d7fd274c (小堺さんのNote)
Photo by Kento Higuchi
スペイン移住について
Q. はじめに、そもそもなぜ、スペインで、サッカーの仕事をすることをキャリアとして考えられたのでしょうか?
まず、海外に興味を持ったきっかけですが、高校時代に第二外国語がある学校で、第二外国語としてスペイン語を選んだことがはじまりでした。と言ってもスペインに何かこだわりがあったわけではなく、先輩に「発音が簡単だよ」って聞いたからでした笑。その頃、将来何がしたいかを考えていて、当時打ち込んでいたサッカーを仕事にしたいと思っていました。でも、仕事にするとしても、それは選手としてではないかな、とも思っていました。
それから、大学生の時スペイン語を真面目に勉強しようとして、大学3年生の春にバルセロナに来ました。語学学校に行きながら、サッカーチームを見つけてサッカーして、とにかく楽しかったんです。就職活動もしていたのですが、自分が本当にやりたいと思ったのがサッカーに携わることで、そのためにスペインに移住したいと思ったのが経緯です。
Q.海外で生活するぞと思ってから実際に来て、生活するというのはギャップがあると思いますが、実際不安はありましたか?
何もない状態で行くのは不安でしたが、自分の居場所はここ(スペイン)だって思えたことがモチベーションでした。親にも「スペインに行って何になるのか?」と言われましたが、「行ってみないと分からないんじゃん!」と根拠のない自信で押し通しました笑。
それに、その年(なでしこジャパンが女子W杯を優勝した2011年)にスペインに来たおかげで、例えばメディアの仕事でなでしこJAPANに携わったりすることができました。確かに選手としての収入だけでは生活はできませんでしたが、興味を持って色んな人と繋がることで、サッカーを軸にした今のキャリアに続く可能性が開けたんです。
キャリアについて
Q.スペインに来た時、最初からサッカー選手を目指していたんですか?
いいえ。サッカーをやりたいという思いはありましたが、最初に勧誘されたチームが無給だったため、語学学校に通い語学力を向上させながらサッカーをしていく、ということをメインに考えながら生活をはじめました。
Q.今は日本からのサッカー留学生支援、翻訳、サッカーの指導者と様々な仕事をされていますが、そのような働き方、ビジネスは最初から構想していましたか?それとも後から見つけたんでしょうか?
後者です。ぼんやりとした目標として女子サッカーのために貢献できる人になりたいというのがあって、目標のためにできることをやる、人と繋がる、とやっているうちに自然と話がつながってきて、今のような働き方のスタイルになりました。最初は他の方がやっている仕事のサポートから始めて、経験を積んでいくうちに、今度は自分でコーディネートする立場にシフトしていっている状況が現状かなと思います。
Q.長期的なキャリアのゴールはありますか?
ゴールは、「今」です。長期的なゴールを考えようとすると、例えばなでしこジャパンを目指したとして、「なれなかったとき、そこまでの時間はどうするんだ?」って考えてしまうんですね。それよりも今できることをしていって、そうしてやってきたことのつながりがどんどん広がっていって、それが仕事となって回っていくという生き方が私にフィットすると感じていますし、実際そのように生きられているかなと思います。キャリアという意味では、今を大切にして、その延長線上で出来ることを最大限頑張ることが一番大事だと思っていますし、私の仕事を通じたゴール、ターゲットという意味では、他の人が、思い思いのパッションで生きていけるサポート出来るようになるのが私にとっての理想です。
Q.パッションで生きていきたいけど、実際問題できないという人は多いと思います。めぐさんができたのはなぜだと思われますか?どこから自信やパワーが湧いてきていますか?
夢中になれることが無い人もいる中、サッカーに出会えたのが私にとってとてもラッキーなことでした。両親のおかげもあって、たとえば幼少期、私の興味の向くままに毎日違う習い事をさせてくれて、色んな事に取り組んでみたい幼い好奇心を潰さないでくれました。ただ、甘やかすということはなくて、両親は、私が何かをやりたいと言ったら、わざと一回否定してみて、歯向かうくらいの本気度があるかどうかを見ていたみたいです。
例えば英語を習ってみたい!と言ったら最初は渋られて、少し間を置いてそれでも英語を習いたいってプッシュしたら通わせてもらえました。
後は自分の信じる道を突き進むという信念を持てたことです。高校生の時、本田健さんという方(※経営コンサルタント、著述家。代表作は『20代にしておきたい17のこと』等。)の講演会「大好きなことを仕事にしよう」に誘ってもらい、その方の言葉から「好きなことを仕事にしていいんだ」って思えたんです。
Q.好きなことを仕事にしてしまうと(もし上手くいかなかったときそれを嫌いになってしまって苦しむから)かえってよくない、という話がよくありますが、ここまで来るのに大変な思いをなさっても、サッカー変わらずに好きでおられているのですね。
たしかにそういう考え方の人もいるかもしれないですが、嫌いになったらそれまでのことです。それに私は、もし壁にぶつかったら何とかして乗り越えるよりも、色々別のことをやって、違う角度から迂回できないか考えるタイプなんですよね。
選手・指導者としての経験について
Q. 今おっしゃられた、壁を超えるのでなく迂回する方法を考えて突破したような体験談は何かありますか?
スペインに来てから、サッカー指導者を目指そうと思って指導者の学校に行ったんです。指導者の資格は取れたのですが、実際にサッカー指導者を仕事にしてみると難しいことが2つありました。
1つは経済面。指導者としての仕事でもらえた給料はお小遣いくらいにしかなりませんでした。スペインに13年いて、最初の10年は選手と指導者をやっていましたが、稼いだお金を計算してみて、「これだけしかもらえないんだ」と思ってしまいました。
2つ目は指導面で、語学ができても、コミュニケーション能力、文化のギャップに苦しみました。例えば、とあるティーンエージャーにからかわれたとして、そこから巻き返して指導する能力が必要だったんです。最初はスペインサッカーの戦術を勉強すればうまくいくと思っていたのですが、それだけで指導が出来る訳でなく、指導者として選手たちの心をつかめないと意味がないなと思いました。
そういうコミュニケーションのギャップで躓いたことが三度くらい。アシスタントコーチ時代の話ですが、代理でコーチをやったところ選手が全く言うことを聞いてくれず、シュートばかりしてボールをまったく拾わないということがありました。また去年のバルサのキャンプでも、選手たちをまとめきれなくて挫けそうになることがあったんです。一旦は他のコーチと指導するチームを入れ替えるという対処をしましたが、指導者としては、何か抜本的にやり方を変えないと同じようなことが起こり続けてしまうと思いました。
色々考えてみた結果、指導スタイルを変えようと思い、例えば最初にルール(選手同士、コーチに対して、そして道具やグラウンドに対してリスペクトを持つこと。それができていなければ何度もリマインドする)をしっかり決めたうえで、何かあった際にはそれまで以上にメリハリをつけて言うべきことは強く言うというスタイルにしてみたところ、その後のキャンプではうまく指導できたということがありました。
Q.そのスタイルの転換は、めぐさんが自分で考えられたのですか?誰かに学ばれたのですか?
両方です。自分で分析して考えましたが、ある程度相談したりもしました。特に同僚に気づかせられたのが、上手くいってないチームに対するウォーミングアップの仕方を考えていた時のことです。私は手を使ったボール回しをウォーミングアップに取り入れようとしたのですが、歯車が合わないチームでこれをやると体がぶつかるから荒れているチームになってしまうんですね。その時同僚が、「めぐ、本当にこれやるの?荒れてるチームでコンタクト(選手同士の身体の接触)取るようなメニューをするの?」と言ってくれて気づいて。
そういうところから学んで、自分でしっかりと分析もしつつ、他の人の意見も取り入れてちょっとずつ自分のやり方を変えていってみたら、チームもうまく回るようになってきましたし、指導者としても評価されるようになりました。
Q.日本とスペインを比べた際、文化によって指導方針は違いますか?
日本人は言われなくても自然に片付けるか、「片付けろー」っていうと小走りですぐ取りに行きます。逆にスペイン人は必ずしも日本人ほどにいうことを聞いてくれる訳でないので、人の話や指示を聞く姿勢は異なるんだという点を意識して指導をすると思います。日本人は指示を聞いて伸びる力は一般的に高いかなと思います。
Q.逆に日本人に足りていないものはなんだと思いますか?
前の質問に通じますが、プレー中のルールを守りすぎてしまうところ、コーチが絶対的な存在になってしまっているところですね。スペインの選手は、確かに言うことは聞いてくれないこともありますが、その代わり自分で考えたプレーをする選手が多いです。悪いところが良い方向に働くときもあります。
仕事観について
Q.これまで一番のリスクテイクはなんですか?
実はリスクとかあんまり感じたことがないタイプなんです。何かあっても何とかなるだろうという精神なので。振り返ると、スペインに来たのが最大の冒険かなと思います。環境を変えて、国も変えてって時だったので。知り合いもほぼいない、お金もない中よく来たなって思います。
Q. 今のビジネスを始めたのはあまりリスクテイクに感じられなかったのですか?
今の働き方はフリーランスでして、基本的には知り合いから相談が来たら案件として受けるって形でやっており、色んな縁もあり上手くいっていたので、すごいリスクを感じながらやっていたという訳ではないです。いま自分がやってることをまとめてみよう、人に発信できるようにしようという意図で去年自分のwebサイトを作りました。
そのWebサイト作成も、Webサイトを作る会社の社長さんがたまたまバルセロナに1か月くらい遊びに来てて知り合って、そこでの縁で作ってもらいました。色んな人とのつながりのおかげで仕事が出来ているなと感じます。
Q.人とつながる際、気を付けられてることはありますか?
気を付けないように気を付けています。ビジネスライクな関係性は好きでないし、見返り等を考えたら上手くいかないと思ってしまいます。そういう考え方の人に会った時に苦手意識を持ったことがあって、自分はそういうタイプでないなと気づきました。損得関係なくとも、フィーリングが合えばまた一緒にやろうってなるじゃないですか。なので、そのように自分らしく関係を築くことが一番大事なのかなと思っています。
(インタビュアー)ビジネススクールで学んでることも、最終的には人だよねって話に至ることが多いです。例えば投資ファンドをやっている人がゲストスピーカーで来てくれたことがあって、どうやって投資する相手を見極めているかというと、いっしょに食事して、食事での振る舞いを見たり、人として信頼できるかだよねって話がありました。
Q. サッカーでもビジネスでも、強いチームと弱いチームがあると思うのですが、ビジネスだと、優秀な人がそろっているチームだけじゃなくて、そうでなくても全員が同じ目的に向かっているチームだと大きな成果が出ることがあります。サッカーでも同じではないのかと思うのですが、バルサ等トップのクラブと接してみて、素晴らしい組織/チームだなと思うときはどういうときですか?
まず、リーダーシップとフォロワーシップがあるチームはいいチームだと思います。その意味でバルサアカデミーはいいチームだと思います。皆が全力です。アカデミーのスタッフたちは皆がお互いに助け合おう、誰かに手を差し伸べようとします。
それはチームの中だけでなくて、例えばホテルで食事をしているときに、片付けをしているホテルのスタッフがいて、チームのコーディネータが「なにかやれることはないか?」って声をかけるんですね。泊ってるホテルのスタッフの方まで、ここまで気を遣うんだという、徹底してバルサのイメージを高めようとするプロ意識と、助け合いの精神が浸透していることにも驚きました。これに限った話ではなく、自分がつらかった時も助けてくれましたし、独特の業界用語とかわからないときもフォローしてもらえました。
Q.そういう助け合う文化は、どうやって醸成されるのだと思いますか?
コミュニケーションじゃないかなと思います。チームだとコーチがいて選手がいてってなるのですが、チームのコーディネーター(※)は選手やコーチはどんな問題抱えているのかに耳を傾けて、相談に乗ってくれます。サッカーアカデミーで私が教えていた子に、スペイン語圏出身で言語の問題はないのだけれど、ガンガンいく性格でないため全然皆の輪に入れず、ホームシックでずっと泣いている子がいました。どうしようかコーディネーターに相談したら、「その子友達いるかな?同じ言語で似た性格の子と話させよう」ってアドバイスを貰いました。
そういう子とマッチングさせて、その子たちと三人で長い時間散歩して、「2人で質問大会するよ!」ってどんどん会話させたら、次の日ふたりが一緒に歩いてたんですね。その子はもう泣かなくなりました。
※コーディネーター:選手・コーチと、ディレクターやクラブ代表とのパイプ役。チーム戦略立案・管理を担う
Q. ビジネスにスポーツの経験が生きることは多々あると思います。めぐさんの場合、サッカーの経験が仕事に活かされていると感じますか?
サッカーってチームスポーツなので、チームに入ったらいきなり20人と知りあってコミュニケーション取ることになるわけです。サッカーを通して色んな人の色んな性格を知って、また色んな人と関わるようになりました。その経験から色んな人と仲良くなれるようになって、その経験や人脈が今の仕事につながっています。
最後に
Q.海外サッカーに挑戦してみたいけど悩んでいるという方へのアドバイスはありますか?
基本的には、「自分のやりたいこと考えて」としか言わないですね。そういう相談をされた場合、アドバイスをするというよりは、質問を通して真意を引き出すという会話をすることが多いです。「何故スペインなの?」「なぜ海外なの?」とか。
私のケースは結構特殊だと思っているので、人の参考にはならない気がしています。誰かに「めぐさんみたいに生きたい」と言われてもそのように出来ないでしょうし、私自身もう一回この人生を生きろと言われても難しいと思います。でも、好きなことを仕事にして生きる、という私の人生のコンセプトは伝えられるかなって思いますし、真意を聞く中でそれがその人の役にたてばと思います。
おまけ
Q.どういうサッカーが好きですか?
パスサッカーが好きです。監督でいうとグアルディオラ!彼の先見性のあるち密なパスサッカーとサッカーに対するパッションが大好きです。
ありがとうございました。