コンサル御用達・パワーポイントの作成を効率化するアドインツールを開発するドイツのソフトウェア企業・think-cellの日本法人社長を務める松塚さんに、「日本の生産性の課題」、「外資系企業で活躍できる人材」についてインタビューさせていただきました。
特集

ファクトとデータで日本の生産性向上に貢献したい-think-cell Japan社長/二代目ミスター東大 松塚さん インタビュー

 私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回はコンサル御用達・パワーポイントの作成を効率化するアドインツールを開発するドイツのソフトウェア企業・think-cellの日本法人社長を務める松塚さんに、「日本の生産性の課題」、「外資系企業で活躍できる人材」についてインタビューさせていただきました。

think-cellについて

 2002年、2人のコンピューターサイエンティストにより操業。PowerPointのアドインツールとして、データを使った説得力のあるグラフ作成等を支援するソフトウェアを世界で提供している。

松塚さんについて

Q. これまでのご経歴を教えてください。

 東京大学大学院の工学系研究科を卒業後、博報堂に営業として入社しました。その後、Googleやその他ベンチャー企業数社を経た後、元々プロダクトを知っていて好きだったthink-cellに入社しました。キャリアのドメインとしては営業、マーケティング、デジタル商材が中心で、営業スキルとマーケティングに関連する知見で、日本・APACのマーケット拡大を実施してきました。

Q. 実は二代目ミスター東大であるとの噂を聞いたのですが、ミスター東大はどういった経緯で出場されたのですか?

 はい、実は二代目ミスター東大に選ばれています(笑)。今でこそ知名度のあるイベントですが、当時は全く知られてないイベントで、広告研究会の知り合いから「頼むから出てくれ」と誘われて、「壇上で一発芸をしないならいいよ」という約束で出場したんですが、結局一発芸をさせられる羽目となりました(笑)。SNSもまだ普及していなかったので、ミスター東大になったからといって人気者になるわけではなく知る人ぞ知る存在、食堂でたまに「なあ、あの人もしかしてミスター東大の人じゃないか?」囁かれていた程度です。

Q. 東大の非常勤講師もなさっていますが、どのような経緯で教えられることになったのでしょうか?

 アカデミアでの経験は自分のキャリアの差別化になるのではないかと思って、自分から学生時代の指導教官に提案し、授業を持たせてもらいました。どういうことかというと、まず「OBの仕事紹介」という1時間の講義シリーズに数年間参加しました。20-30人のOBがその講義に参加する中、各OBに対する評価でトップクラスが続いていたので、満を持して、自分に講義持たせてくださいと提案しました。結果、試しに全7回の講義を持たせていただき、学生評価も高かったので、その後正式に非常勤講師になって4年目という形です。面白い仕事なので、現在もやらせてもらっています。

Q. 学生との会話で新しい気づきを得ることはありますか?

 時代とともに変わっていくものと変わらないものがあると感じています。テクノロジーの使いこなし方は特に感じる変化で、当たり前のようにPythonは書けるし、アプリも作れるみたいな人が非常に多いです。一方で、(特に東大の学生は)賢いけど、コミュニケーションがまだまだ粗削りというのは昔から変わらないなという印象があります。テクノロジーのようなどんどん変わりゆくところでは勝負せず、コミュニケーション力みたいな普遍的なところで価値提供をすることを自分のキャリア戦略として目指していきたいと考えています。

think-cellについて

Q. コンサルティング会社でインターンした際に初めてthink-cellを使ったのですが、説得力のあるチャートがとても効率よく作れて、生産性が非常に高まったのに驚きました。コンサルティングファームだけでなく事業会社でも使われてほしいのですが、広く一般にthink-cellを普及させるために、どのような戦略を考えているのでしょうか?

 コンサルティング業界では既に普及しているので、それ以外で相性の良い業界、例えば金融、石油、自動車、製薬といった業界を重要ターゲットとして考えています。これらの業界は業務上パワーポイントを作成する頻度が高いため、ある程度の規模の会社であればアプローチを仕掛けています。他の業界は業界トップ3の会社に絞って営業して導入事例を作ることで、同業他社に更に広げていくというやり方を考えています。一つの目標として、日経225に入る会社が全社導入しているという状況を作りたいと考えています。

 なお、クライアントの部署は経営企画・財務・開発・営業及びマーケティングが中心です。口頭で、「パワーポイント作成の生産性が向上しますよ」と伝えてもクライアントの理解を得るのは難しいため、実際に利用していただいたうえで納得してもらえないと大きな商談にはならないですね。

Q. Powerpointや他のOffice製品にはAI機能が続々搭載されていますが、将来的な脅威としてお考えでしょうか?また、パワーポイントのデフォルトのグラフ作成機能がバージョンアップして、Thinkcellを脅かすというシナリオはどうでしょうか?

 AIに関しては、短期的にはまだ脅威だと感じていません。
 理由としては2つあって、1つはLLMは仕組み上、入力された指示をテキスト化することには長けている一方で、テキストをビジュアルに落とし込むのが得意ではないからです。人の脳はビジュアルをビジュアルとして理解するので、このビジュアル化ができるまではAIに代替されるリスクは低いと考えています。
 2つめは、優れたパワーポイントの資料は各社の機密資料であることが多いので、インプットとなる適切なデータが存在しておらず、質の高いアウトプットが生まれることは考えづらいと思っています。
 しかし、長期的にはインプットとなるモデルやデータが増えてくると、良いレベルになるのではないかと考えていて、そのスパンは5年くらいではないかと見積もっています。think-cellでもAIの研究はしているので、このスパンの中でどこまで自社のAIを活用できるかが重要になってくると考えています。
 
 たしかに、最も脅威として考えているのはMicrosoftが自社で機能をバージョンアップすることですが、Microsoftのターゲットはマスユーザーである一方で、think-cellは上位3%のパワーポイントヘビーユーザーを狙っています。彼らが望む機能は大多数のユーザーにはtoo muchであるため、Microsoft自体が脅威となるリスクはそれほど高くないと考えています。

Q.国ごとのthink-cellの普及率の違い、日本市場の特徴はございますでしょうか?

 本社がドイツなので、欧州の普及率は高く、次にアメリカ、APAC及び日本における普及率はまだそれほど高くないのが現状です。
 ドイツは労働人口の実に2.5%がthink-cellユーザーである一方、日本では労働人口の約0.1%、3万人程度です。普及率の違いとして、think-cellは2002年の創業以来、口コミのみで市場シェアを拡大してきたため、広がり方に時間差があるというのが理由だと思います。例えば、最初のクライアントはある戦略コンサルティングファームだったのですが、そういったファームの欧州オフィスから浸透しつつ、コンサルティングファームから転職された方々の口コミで広がっていったというのが実態となります。

 日本市場の特徴としては、ビジネスパーソンの多くが、パワーポイントの作成に多くの時間を投下しているという点です。時間を使ってパワーポイントを作成して、何度もミーティングを繰り返すため、その都度また作業を実施してという形で投下時間が多いです。その意味でthink-cellの導入効果は非常に大きいです。
 また、アドインツール、時短ツールをオフィス製品に組み込むといったカルチャーもあまりないという特徴があります。驚くべきことに、Office製品のアドインツールの欧州での導入率は30%(コンサル業界に限っては約80%)である一方、日本ではたったの2%です。日本ではアドインツールを使用することによる生産性向上について馴染みがないのかもしれません。

Q. think-cellはドイツの会社ですが、過去松塚さんが働かれてきたGoogle等米系の会社、Appier等アジア系の会社とカルチャーの違いは感じますでしょうか?

 一般化は難しいですが、米国は結果を出していれば問題なく、そのプロセスはあまり問わないという文化が強い気がしています。台湾の会社の同僚たちはハードワーカーで、職位が上がるほどその傾向が強くなるのと、各プロセスにおけるチェックなども細かい印象でした。think-cell(ドイツ)は米国より真面目で紳士的な印象です。ワークライフバランスはよく、長期休暇も頻繁に取得しているなという印象です。

Q. think-cellが日本で普及する際、コンサルティングファームに対して何か特別なコミュニケーションはとったのでしょうか。また、日本市場にマーケットインする際に意識されたことがあれば教えて頂きたいです(初期のカスタマー、プロモーションなど)。

 日本法人は2022年の6月にできていて、私が就任したころすでに10,000人くらいのユーザーを有していました。
 マーケットインの戦略としては、まず海外でよく使われている業界を攻めて口コミで広めていくことを狙いました。具体的には、まずCxO(CEO、CTO等の企業幹部層)に対してのアプローチを実施しています。作業の効率化ではなく、「think-cellを通したDX」という文脈で攻めて大きなプロジェクトとして予算を組んでもらうようなことを試みています。
 次に、think-cellは「B to B」と「B to C」の両方の要素を併せ持っているため、個人でトライアルを申し込んできた人を定期的にチェックして、もし攻める業界に所属している人であれば、そこにアプローチしていくことも試みています。
 また、既存のユーザーについては離脱率を減らす施策を工夫しました。私自身データ分析が好きなので、ユーザーの増減のデータを見てみて気づいたのが、一部のユーザはすごく使い、他方多くのユーザは使い方が良くわからないので離脱する、その結果契約更新の際にライセンス数がダウンサイズすることがままある、という構造が見えてきました。栓の抜けているお風呂にいくらお水を入れても意味がないですよね。なので、まずその穴をふさごうと思って、既存顧客の離脱率を減らすために、使用方法に関する研修などを実施することにフォーカスしました。

 後半では、外資系企業でのキャリア・日系企業の生産性について伺いました(↓)

1松塚さんとthink-cellについて 2外資系企業でのキャリア・日系企業の生産性について

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