起業について
Q. Dots forの立ち上げ・事業運営でどのような苦労をなさっていますか?
Dots forを立ち上げたときは、プロダクトはお客さんには刺さっているものの、それを事業としてどう成り立たせるか?が課題で、Product Market Fit (PFM)に向けて手を変え品を変え頑張る中で、お金が減っていくのは精神的にすり減る経験でした。やはり苦しいのは資金調達で、売上もお客さんも急激に増えているのになかなか進まない。今の投資家はほとんど日本人ですが、そもそもアフリカの市場環境とは?みたいなところから説明が必要なので大変ですし、さらに農村市場という世間にもあまり情報が出ていない、かつフランス語圏西アフリカという場所。と、色々と世間的にあまり馴染みがないマーケットで戦っている苦労の一つです。
Q. Dots forのサービスは初めから市場ニーズをとらえていると感じていたのですが、それでも試行錯誤があられたのでしょうか?
Day 1からPMF自体はしていると感じていました。製品とも言えないような稚拙なプロトタイプでも、お客さんは1日中動画見ていてほとんどがお金も払ってくれました。でもそれは続かなくて、数週間後には「もうお金が払えない」と全員離脱してしまった。それで方針転換しようと色々試したんですが、動画見放題、というのをエンタメ動画から職業訓練動画まで広げてみたら、それを見て、例えばヘアカットの動画を見て床屋さんを開業する、みたいに仕事を始める人が出てきました。そこにチャンスを見たのですが、開業する人は少なくて、なぜか聞いてみたら、「開業したいけど開業資金がない」と。じゃあ、それもサポートするよということで、開業支援の金融サービスを考えて、でも動画を見るためには端末がいるよね、ということで、週単位の分割払いでスマホを売りました。ちゃんと教育動画を見て、きちんとスマホの返済支払もしてくれる人ほど、自分で開業をしてお金を稼いで開業資金の返済もしてくれる。じゃあ、そういうきっちりしている人にクレジットスコアをつけて、金融サービスだけじゃなくて、他のサービスも優遇する形を取り、サイクルが回りだしました。
サイクルが回り出した。とはいっても、村の中で稼げる額にも限界がある。次に我々が取り組んだのは、せっかく通信とデジタルという物理的な距離をキャンセルできる環境を作ったのだから、世界中から仕事を持ってきて村の人に作業して、世界中からお金を稼いで貰おうというのを始めました。AIアノテーションやゲームのデバッグの様なBPOの仕事を海外の企業から請け負っています。これによって、これまでの仕事と全然違う額が稼げるようになる。通信が繋がらないために孤立していた村が、全世界の経済活動の中に組み込まれました。

図:創業直後、ベナンの最初の村に設置
Q. ある村にDots forが入ったとして、村の人口の村の何%くらいがユーザーになるのでしょうか?
5%くらい、つまり1000人くらいの人口の村だと50人くらいが契約します。仕事まで繋がるのはもっと少なくて、そのうち3人に1人(≒人口の1.5%程度)くらいでしょうか。サービスの拡販や顧客対応は、村ごとにコミッションで動くDots forエージェントを採用しています。彼らエージェントは、元々村に住んでいて、自分たちの村のご近所さんにDots forのサービスを届けています。住民がサービスを契約して、その人が使い方を覚えて稼ぎだすと、稼いだ額のいくらかがエージェントに入る、みたいな形で、そのエージェントが村での普及を頑張るほど稼げるモデルにしています。
Q. インターネットがこれまでなかった村で営業しようとすると、まずインターネットとは?という議論から始まって難しいのではないでしょうか?
みんなインターネットとかスマホ自体は知ってるんです。でもお金もないからスマホは買えない。頑張ってスマホを買ったとしても、そもそも通信自体が繋がらないから電話くらいしか使い道がない。そこで僕たちは、スマホを分割払いで買いやすくして、更にスマホで利用できる様々なサービスによってスマホを買う理由も提供できるのが武器です。

Dots forのこうした取り組みは、NHK Worldで2027年1月まで配信中ですhttps://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/2103031
ベナンでの事業について
Q.なぜ事業をする場所としてベナンを選ばれたのでしょうか?これも偶然の出会いか、それとも計算ずくなのでしょうか?
意図してベナンを選んでいます。これまでの経験を踏まえると、前職で知見があったタンザニアで始めるのが普通なんでしょうが、僕はゼロベースで考えました。ベナン自体は人口1,200万人の国ですが、経済的に非常に重要な位置にあります。東隣にはアフリカ屈指の経済大国・ナイジェリアがあり、西隣には、CFAフランというユーロと固定レートで為替リスクのない統一通貨を使う人口1.4億人の経済圏が広がっています。確かにCFAフランは、自国での金融政策を取れなかったり、フランスへの依存性など批判も多いですが、事業をする上では確実にメリットはあると思っています。特に通貨の安定性は大きくて、隣のナイジェリアの政策金利が20%近くあるのに対して、ベナンの政策金利はわずか4%程度ですよ。
図:ベナン共和国の位置。公用語はフランス語で、主とはポルト・ノボ(近隣の経済都市・コトヌーが実質的な中心地)。アフリカ開発銀行Webサイトより転載。
Q.つまり、これまで縁のなかったベナンにゼロから入っていったことになるわけですが、最初のきっかけはどう作られたのでしょうか?
ベナンで事業をやろうと思って、日本とベナンのつながりを探した時、日本政府が行っている優秀なアフリカの若者を日本の大学院に留学させるプロジェクト「ABEイニシアチブ」という制度で日本に留学中のベナン人と知り合い、彼に手伝ってもらうところから始めました。彼の実家の村で最初のテストを重ね、そこで実績を積んで口コミで近隣の村々に広げていきました。
Q. アフリカ全体的な問題として、例えば開業するのに賄賂を払ったり、何か月も時間が必要だったりのような政治面のリスクがあると思うのですが、そこはどうクリアなさったのでしょうか?
そうしたリスクを排除するために、政府に全く頼らない、ライセンスも必要としない事業の仕組みを初めからデザインしました。例えば私たちのWifi機器は2.4GHz(Wifi、Bluetooth、電子レンジ等で使われる、免許不要の周波数帯)ですし、サービスもインターネットでないので通信事業者ライセンスも要りません。開業支援についても、お金を貸すのでなく事業に必要なモノを分割払いで提供しているだけなので、金融ライセンスもいりません。だから政府との調整もいらないし、他国展開もしやすいビジネスモデルです。あと、政府がわりとまともというのもベナンを選んだ理由で、他の国だと開業に半年がかりとか聞きますが、ベナンはオンラインで直ぐに会社が作れる国なんです。
今後の見通しについて
Q. Dots forの将来的な展開について聞かせてください。例えば、今普及していないインターネットがベナンで普及したら、それは会社にとってチャンスでしょうか、それとも脅威なのでしょうか?
インターネットの普及は全く脅威でなく、はやく村々が繋がってほしいくらいです。私たちは、村の中で顧客接点もデータもノウハウも持っています。なので、ネットワークがつながれば、もっと効率的に事業の基盤を固められますし、データや顧客接点を活用したオンラインサービスを展開できると考えています。今、Dots forには競合がいないんです。本当ですかと言われるんですが、西アフリカの地方に行ったらわかります。本当にいないんです。むしろ今のマーケットは、Dots forのサービスでお金が稼げると説明しても信じてくれないので、「村の人たちが理解してくれないこと」や「無消費」との闘いの方が大きな競合だと考えています。
それに、僕たちの僕らがやってることって世界でも例がないことだと自負しています。村の中のイントラネット、ローカルサーバでサービスやコンテンツを配信して、アップデートはバイクでインターネットの使える街までサーバを持って行ってアップデート。このモデルの説明だけで30分かかることもあります。一時期ネット記事で「データ転送、インターネット回線と伝書バトはどちらが早い?」というのが話題になりましたが、我々はまさにその伝書バトみたいな感じです。実際、伝書バトを使うことも真面目に議論しました。現場を知っている人間からすると、アフリカの通信インフラの不足はStarlinkでも解決しません。Starlinkのモデルって、5年くらいの寿命の低軌道衛星を何万個も飛ばして、寿命が来たら交換してというコスト構造ですが、この所得水準のアフリカで、採算性をもってサービスが提供できるかは疑問です。

図:バイクで村と行き来
また、将来の展開だと、今は治安もよく、開発拠点もあるベナンが本拠ですが、これからトーゴやコートジボワールにも進出していきます。南部アフリカにも展開を検討しています。
Q.将来構想を考えるうえで、最新技術の展覧会であるMWCに参加なさって、いかがでしたか?
ものすごい規模のイベントでしたが、あれだけデジタルと通信の力を知ってる人たちが、まだネットワークにつながっていない世界の半分近い人たちを無視していることには憤りを覚えました。アフリカの話はなかなか出なくて、アフリカからきた人でも、通信がある前提で話をしているので、まだまだ道のりは遠いと感じました。
インタビュアー:
Class of 2025 尾島 泰介:NTTコミュニケーションズで約10年勤務し、国際通信サービスのマーケティングやプレセールス・エンジニアリング等に従事。社費留学。東京大学経済学部卒。
https://www.linkedin.com/in/taisukeojima
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