Q.異文化&すさまじいプレッシャーの中で成果を上げ続けてこられたと思いますが、どのようにそれを乗り越えられたのでしょうか?また、ロールモデルとされている方はいますでしょうか?
 
 アリババ本社には日本でいう課長クラス(P7)で入社し、最終的には部長クラス(P8)まで昇進しました。



 当時私のいた部署では人事評価で上位3割を取ると、昇進試験を受けるチャンスが与えられました。1回目にそのチャンスを得たときは自信がなく受けなかったのですが、当時の上司にチャンスに手を挙げなかった姿勢をものすごく怒られました。チームも外部環境もKPIも頻繁に変わる中で昇進の面接を受けれるチャンスはそう多くはない、さらに面接を受けても一度で昇進できるかどうかはわからない、その気があるなら受けるべきだったと言われ、アリババではチャンスは自分で掴み、絶対に逃してはいけないんだ、と積極的でなかった自分の姿勢に猛省しました。、そして翌年も面接を受けられるように努力して、再度上位に入り、昇進の面接を受けました。この時の上司は今も尊敬しているロールモデルです。

 アリババ本社で部長クラスに昇進できたのはとても貴重な経験でした。昇進試験はとても大変で、自分のレポートラインではない役員3人に20分プレゼン、40分ぐらい質疑を受け全員がOKを出さないといけません。上位職のポジションは本当に少ないため、面接も簡単には通過できないものとなっていました。上司も昇進試験の大変さは知っているので通常の業務以外に上司にたくさん時間を割いてもらいプレゼン準備を頑張りました。自分が一度のチャレンジで昇進することができたのは、上司の手厚いサポートがあったからです。また昇進後も上位の管理職になると、部下を昇進させるのも一苦労で、上位三割しか取れない昇進面接を受ける枠を巡って部門間の競争になるのですが、その枠に自分のメンバーをいかに入れるか心を砕きました。

Q アリババ本社は社内競争が厳しい印象があるのですが、上司がサポーティブなのはなぜなのでしょうか。

 一つの理由は、優秀な社員は勢いのあるチームに行きたがるからです。メンバーが昇進するチームは人気になって良い人材が集まります。また、アリババ全体のカルチャーとして、昇進試験に関してポジティブでサポーティブな人が多いように感じます。競争は激しかったのですが、ギスギスした雰囲気はあまり感じませんでした。実際自分も部下が試験を受ける際は全力でサポートしましたし、部下が昇進した際は自分のことのように嬉しかったです。

Q アリババ本社で高評価を得られた理由はなんだと思われますか?

 1〜2年目に厳しい上司についていった結果、能力が上がったからだと思います。日中に色々上司から宿題が出て翌日上司に中国語でプレゼンする形で報告するのですが、帰宅後にパワポを作って(まだ中国語に慣れないので)中国語で話すスクリプト作成、次の朝にプレゼンする、というのを平日毎日繰り返しました。
 それだけでなく、アリババには週報があって、全社員が全員の週報を読めるので意地の張り合いみたいに論文みたいなクオリティのものを書いてくるので、私も週末一日かけてビジネスレポートを書く等あらゆる課題、あらゆる準備を手を抜かずにコツコツやりました。

Q.様々な分野で中国企業の成長が著しいです。特に勢いのあるアリババで働かれて、その躍進の秘訣のようなもの、日本企業に欠けているもの(制度やマインドセット)を感じられたことはありますか?
 
 アリババの躍進の秘訣は、①その場で決断する意思決定力、②男女・年齢関係なくフラットに評価する完全能力主義。③そして最後に、ジャック・マーが作ったハードワークカルチャーが20万人以上の全社員に浸透していて、数年アリババにかじりついて何かを成し遂げてやる、という気概にあふれていたことだと思います。

経営について

Q. CAINIAO(※アリババの物流事業)日本拠点の立ち上げ、SHOPLINEの日本代表と、アジア企業の日本トップを務められる中で、特にチャレンジだと感じられたことは何でしょうか?

 アリババという会社は、例えば予算とか目標設定の数字を持っていくときに、前年比4~5割り増しの数字を持っていくと、「ヒロさん、我々はアリババですよ。4~5倍の間違いですよね?」と言われるようなThink Bigの会社でした。絶対無理なような目標でもリーダーがThink Bigし続けると5倍は無理でも、結果的に3-4倍まで業績が伸びたのを目の当たりにしてThink Bigの重要性を痛感しました。ただ、CAINIAOで日本の顧客を相手にするとどうしても同じようには行きません。そのギャップを本社と折衝するのは大変でした。例えば本社で案件について最初のピッチをすると、いつまでにこれこれこうしろとフィードバックをいくつも貰うのですが、日系の大企業は当然社内の審査があって時間がかかるので、「何故こんなに顧客の対応が遅いのか?」と本社から言われるということもありました。

またアリババは本社のパワーが強い会社で、例えば契約は中国本社のフォーマットに添わないといけず、どうしても日本にローカライズ仕切れない部分も多々あり、常に板挟みで一つ一つ本社を説得して進めていく必要がありました。。一方で今のSHOPLINEでは真逆で、ほぼ全ての決定や方針はあなたに任せます、その代わり絶対に結果を出してくださいというスタイルで責任も大変重いですが、やりがいがあります。またSHOPLINEは日本市場で本格的に営業をしてまだ半年程度ですが、すでに競合がいるマーケットに新参者として入って、事業を伸ばしていかないといけないので、毎日全てをチャレンジに感じています。また、日本現地で決めたことに関して、本社がとてもサポートしてくれるのでとてもやりがいがあります。

Q SHOPLINEのカルチャーはどうでしょうか?

 台湾とシンガポールにルーツのある会社なので、あまりガツガツしておらず、日本と中国のIT企業の間くらいのカルチャーだと思います。社員のダイバーシティは、日本人と外国人、また男性と女性が結果的に半々くらいになっています。特に意識してそうしたわけではなく、能力主義で取っていた結果そうなりました。

 SHOPLINE本社もアリババ本社の雰囲気とは違いますが、それでも顧客のためにハードワークをする雰囲気があって、会社としてはそうした雰囲気にフィットしそうな人をゼロイチで採用しているフェーズです。社内では皆常にフラットで、顧客第一でスピーディーに動ける会社にしたいです。(写真はSHOPLINE台湾支社にて)


Q. 今後、SHOPLINEをどのように成長させていこうとお考えでしょうか?

 まずマーケットの状況ですが、日本だとECカートというジャンルに分類されますが、外資日系企業含めて多くの競合会社がいるのは事実です。しかしながら半年間やってみて、私たちは外資でありながら完全日本語対応のカスタマーセンターを有していることと、後述する私たちにしかない機能も多々あり、中小企業に関しては強い需要を感じています。

 次に私たちのサービスの機能面では、得意分野はアジアで流行しているソーシャルコマースやライブコマースなのですが、日本ではまだ流行っていません。その理由は数百万くらいかかると言われるツール導入費用が足枷になっているのが大きいと考えているのですが、SHOPLINEは無料で提供できるので、例えば中国だとインスタライブで入札して飛行機売ったり、家を売ったりみたいなことが行われているのですが、『お祭り的なインスタ×ライブコマース』を日本でも流行らせることができる可能性があると思っています。

 また、インバウンド旅行客対応を強化することも必要と考えています。今日本は円安傾向にありますが、多言語対応したWebサイトは少なく、検索してもなかなかヒットしません。たとえばSHOPLINEで多言語Webサイトを作り、多言語でSEO対策できるようにしたり、Web予約・POSシステムでデータを取って、帰国後の旅行者にも気に入った商品を変えますよみたいな形でリーチできるようにしたら面白いんじゃないかと思います。
 最後に、AI機能。SHOPLINEでは最低三つの商品データを入力するとAIが自動でECサイトを作ってくれる機能など、様々なAI機能があります。日本にはWeb制作会社が無数にありますが、中国や台湾ではWeb製作は委託よりAI活用が盛んで、お店側が簡単にWeb・ECサイトを作ることができます。

ライブコマースとは?
インバウンドを狙う戦略

Q.MBAでの学び・ネットワークはどう経営に生きておりますか?

 経営者になった今、マーケティングの教科書を学び直したりしていますが、MBAで学んだ内容が生きている感覚があります。内容だけでなく、同級生のカリスマ性から学んだり、憧れたりしていました。人から学ぶというのはアリババに入った後も同様で、アリババの同僚にウォートン(※米名門ペンシルバニア大学のビジネススクール)出身のイギリス人がいたのですが、多忙な中、たった2−3年の勉強で中国語をマスターしていて、彼の時間の使い方を聞いてコピーしてみたり日々刺激を受けていました。

Q.サーチファンド(※買収を通じた事業承継の仕組み)投資家もなさっていると存じていますが、どのような経緯で始められたのでしょうか?

 実家が中小企業を経営していて、継がないとは決めていたのですが、少し手伝いをしたことがあります。その際に大企業では当たり前の常識に考えられていた考え方ややり方が、中小企業ではなされておらず、外部からやり方を知ったり導入することは非常に有益であると実感しました。。そのため同じように中小企業の経営に、MBA生が入っていくことには意味があると感じています。一方、自分のキャリアの進むべき道はいろんな国際性のあるチームをまとめて行くことにあると思っているので、自分でやらない代わりに、サーチファンドを目指す人を応援したいと思って投資家として関わっています。


ありがとうございました。

インタビュアー

Class of 2025:尾島・横山・山口
Class of 2026:栗山

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