業務について(主に現職のDodaiについて)
Q.音楽留学のエピソードに象徴されるように、撤退の判断を未練なく行われているように思えます。感情面の整理も含めて、撤退/ピボットをなさる際どのようなことを考えておられるのでしょうか?
自分の性質として、常に行動の軸に明確な目的意識があって、それが不可能だとなったら興味がとたんになくなるんです。例えば音楽は、バンドを組んで世界のでっかいスタジアムで演奏したいという思いがあって、それが無理だと理解した瞬間に未練がなくなりました。苦渋の決断をしているというよりも、無理ならやめようとさっさと意思決定できるタイプです。
また、あきらめなくても、他の方法の方が目的達成が容易とあれば、周囲の意見にとらわれずに軌道修正できます。子供のころは、あれもやりたい、これもやりたい、のようにパラレルで考えるタイプでなく、瞬間瞬間でやりたいことが1つだけあって、それがシリアルにどんどん変わっていくというタイプで、どうやったらそのやりたいことを実現できるか常に考えて行動していたのを覚えています。
Q.先ほど、採用も得意分野の一つだとおっしゃっていましたが、スタートアップであると尚更、能力的・人間的に優れた人材の獲得は死活問題だと思います。自他ともに厳しい方ということで、採用にあたっても厳しい基準をお持ちなのではないかと推察するのですが、採用活動やビジネスパートナーを選ぶ際には人のどのような所を見ていますか?
最優先事項はコミットメントの有無です。コミットメントというのは、ポジションや上司へのコミットメントではなく、組織としてのパーパス・ミッションに対するコミットメントで、そのポジションに必要なハードスキルを有しているのは前提としたうえで、これをやり遂げる人間なのかどうかを見ています。
Q. コミットメントをやり遂げる人材かどうかは、面接では見極めが難しいかと思うのですが、どうなさっているのでしょうか?
面接でいつも同じ質問をします。「次の仕事に就くときに絶対に譲れないものは何ですか?給料、安定性、成長、地位、ミッション等の中から1つか2つだけ選んでください。」
これに回答できない人はふだん、大して物事を考えずに生きているのだろうなということで即、見送ります。
次にその答えをみます。答えがお金だった場合、それはそれでいいのですが、お金を今求めるならばスタートアップではないと思うので、次の機会まで見送ります。
答えが「成長」とか「ミッション」だと脈ありだと思い、もう一つ踏み込んだ質問をします。(決してそのような待遇にするつもりはないのですが)「そのミッションを達成するために、給料80%カットとなっても受け入れられますか?」ときき、そこでうっとなったら、残念ながら見送ります。何百人と面接してきているので、相手の反応を見てすぐに意思決定できる自信があります。
Q. 今のお話は応募してきた方をどう見極めるかという視点かと思うのですが、逆に優秀な人材を社員として迎えるために、どのように口説き落としていらっしゃるのかも非常に興味があります。事業の将来性を示したり、Dodaiで働くことで得られるメリットを説いたりされると思うのですが、佐々木さんなりの説得にあたっての戦略(意識されていること)等をお伺いしたいです。
まず、何かに対して爆発的なコミットメントを持っている人間でないと惹かれないという前提があるのですが、どうしてもヘッドハンティングしたいという方に出会ったときは「あなたが今思っているミッションより、俺が持っているミッションの方が楽しいんじゃないか?という説得をします。
また、MBAによくいるような優秀だがリーダータイプではない人は、「一年くらいだまされたと思って働いてみないか?ダメだったとしてもスタートアップで頑張った経験を持っていつでも安定した仕事に戻れるじゃないか?」という口説き方をしたりしますね。
Q. ご自身が起業家として最も大事にしているマインド・考え方をご教示いただけないでしょうか?
事業を成功させるには「大きなことをなすためならなんでもする」というマインドを持っている人がまず集まらないといけないと思っています。四面楚歌の中でも「それでも行くんだ」と進める人間をそろえることが大事です。
-まるで幕末の志士ですね。
そう。生まれた時代を間違えたかもしれないのですが、幕末に生まれたらいつ死んでもいいという覚悟で戦い切りたかったんです。その意味で言うと、社会が変わろうとしていて、次々と新しいものや人物が現れては消えているエチオピアは、ある意味幕末です。しかし、本当の幕末だったら上手くいかなかったら、あるいは上手く行っても殺されてしまうが、エチオピアでは最悪失敗しても快適な日本に送り返されるだけで、ラーメン屋さんや居酒屋さんで美味しいご飯を食べながら、結構な収入を稼ぐことができますよね。やらないわけにはいかないです。それに、幕末の志士達は20代半ば~30代前半であの活躍をしたと思うと、身が引き締まる思いです。
今後の展望について
Q.長期で達成しようと考えている個人としてのビジョンと組織としてのビジョンのようなものをご教示いただけないでしょうか?
個人では、人生がどれだけしんどくても、死ぬときに悔いがなければ最大の幸せ、という価値観で生きています。そこから逆算して考えると、プライベートでは妻と多くの時間を過ごし、色々な経験をしたいと思っています。妻はスイス人で日本が大好きで、妻が居たい場所と自分がビジネスをするために居なければいけない場所のバランスをとることが自身の目標です。
仕事の面では、社会が将来の世代にとって少しでも良くなることに貢献したいと思っています。将来的にアフリカの人口は全世界人口の4割となるので、エチオピアでの事業が地球規模の貢献ができると信じています。日本は圧倒的に安全な環境でインフラも整っている一方で、アフリカはまだ発展のための”土台(Dodai)”がないので、その土台作りに貢献したいと考えており、それが電動モビリティです。会社名のDodaiもそういう思いで名づけました。
Q.佐々木さんは日本でもUberやLoopでも最前線で事業を推進されていました。ガーナやコートジボワール、エチオピア等でのご経験と比較して、日本においてスタートアップ事業を行うことの魅力や難しさについて、もし感じられることがあればお伺いしたいです。
日本でスタートアップを始める難しさは、社会が良く出来過ぎているので、スタートアップとして解決すべき課題が少ないこと、あるいはあったとしても難しすぎる課題であるために、自分が頑張ることで世の中を大きく変えにくいことだと思います。私が起業するときも、日本やアメリカでのスタートアップ設立は考えていませんでした。なぜならばイーロンマスク級の天才でないと、少なくとも私では、先進国で世の中に大きなインパクトを与えることは難しいからです。
一方、東南アジアや、私のフィールドのアフリカでは新たなビジネスモデルを確立する難易度が下がる一方、ビジネスの実行が難しいのでどこまでやる気を出せるか、コミットできるかが鍵です。日本ではスタートアップをやっていても世の中が変わらない、というジレンマを感じます。これは非常に成熟した社会であるからだと思います。
Q.仕事でのコミットとプライベートの両立にはトレードオフがあると感じるが、どうバランスをとっておられますでしょうか?
まずワークライフバランスという考え方ですが、バランスのとり方は常に50:50ではなく、人によって変わってくると思っています。確かにプライベートは大事ですが、アフリカでの事業を通じてやりたいこと、なしたいことが9割、残りの1割が家族や友人とのプライベートというのが私にとって心地よいバランスだと感じています。この前提で、家族がそれでいいか、全員にとって最適なバランスがどこかを見つけるのが課題かと思っています。
3年後には妻と一緒に過ごす時間を増やすと約束しているので、それを実現するために今必死で事業を独り立ちさせようとしているところですね。
ありがとうございました。
インタビュアー:
Class of 2025 尾島・栗木
Class of 2026 岡部・辻井