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「サーチファンドの未来 ~30代CEOへの道~」Vol.1 IGPI会長 冨山 和彦氏 後編

サーチファンドの未来 vol1 後編
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中小企業の海外展開

―次に中小企業の海外進出に関して、お話を伺いたいです。従来より、冨山さんはG型経済とL型経済は、完全に分断されていると指摘されています。中長期的に見て、人口減少社会の中で、中小企業が更なる拡大を求めるためには、G型だけでなく、L型であっても、市場を外に求めることは必要だと思っているのですが、その点いかがでしょうか?

冨山:

中小企業が成長する方法として、市場成長型、再編型成長のどちらかで行く必要があります。

まず、G型産業はIn-nature Globalなビジネスモデルなので、市場成長型で進めるべきです。日本はGDPベースで言うと、世界の5%程度しかなく、その市場は供給過剰になってしまっている。そして、シュリンクしている市場の中でビジネス展開するのは凄く窮屈です。Day1からグローバルを目指した方がいい。

一方、L型産業はIn-nature Localなので、まずは再編型成長を目指し、それが行くところまで行ったら、海外を志向すれば良いと考えています。このモデルは、国内で再編統合を進めながら、DXも進めてビジネスモデルをバージョンアップしていかないといけいない。そこまで進めて行かないと、海外では通用しないと思います。IGPIも、公共交通(みちのりホールディングス)に関しては、再編型で成長してきて、大分出来上がってきたので、そろそろ海外に行こうかなと思っている。結局、地域を展開するということは、こちらがわざわざアウェーに行くということ。アウェーに行って勝つためには、こちらに何らかの優位性が明確にないといけない訳で、その地域で分散的にやっている人たちが持っていないものをこっち側が持ってなければと対抗できないと思います。それぞれの地域の機能的な共通項を引っ張り出して、デジタル技術を使って横軸で串刺しをして、圧倒的に生産性を高める様な経営手法を導入することが大切になってきます。飲食業見ても、最終的にグローバルで成功しているのはそういうところだけですよ。マクドナルドはその典型です。

日本の中小企業はヨーロッパ企業を見習え

―海外MBAに留学行く人は、一般的に海外への意識が強い人が多いと思います。私自身、商社出身でインターナショナルなエクスポージャーの中でビジネスを行ってきたので、最初はローカルで始めつつ、最終的にはL型経済とG型経済を繋ぐような形で何かできないかなということを考えています。その観点で、富山さんがご覧になって、L型からG型に移行しやすい業界はありますか?

冨山:

B2B分野では、先程例に出した製造業の下請け、孫請けですね。系列、かつ、ローカルでやっていて、テクノロジー的に実際いいものを持っている会社が、ある種親離れをするパターン。これは割と分かりやすい。ただ、皆が世界水準で良い技術を持っているかというと、そういう訳ではないので、それはしっかりと見極めないといけません。

B2C分野では、美術工芸品系です。日本の美術工芸品は、凄くレベルが高いのでポテンシャルがある。しかし、日本企業の殆どは、プライシングが本当に苦手で、そのポテンシャルを生かし切れていない。コストプラスで値付けをしていて、10%程度利益出れば良いと値付けしてしまうケースが多いんです。欧州の企業、例えば、LVMHやGucciなんかはこのあたりが凄く上手い。極端な言い方をすると原価100円のモノに10万円の値付けをする能力がある。

日本の企業経営をやってきた人は、どうしても、大量生産にいきたがる。大量に作ってコモディティ化して、大量に売って頑張って量産でコスト下げていく。LVMHやGucciはそういう発想はしない。彼らは売上を右肩上がりに伸ばすことは目的ではなく、手段として捉えていて、「プロフィットマキシマイゼーション」の観点で経営を考えているから、自分たちの価値に凄くこだわる訳です。

そういうスタイルの経営は、日本人は大の苦手です。特におじさん世代はほぼ全滅。これはある種しょうがない部分もあって、日本企業は基本的に年功序列だから、人件費固定費がずっと上がっていく訳です。だからその上昇する固定費を吸収するために、どうしても売上げが伸ばすという発想に行ってします。固定費を少しでも吸収しようと思ったら、利幅は薄くても良いから、売上を伸ばして稼ぎたくなってしまう。これが共通の習性です。

あともう1つあるのが、景気が悪くなったときの対応。経済の調子が悪くなってくる時にブランドが一番やってはいけないのは、在庫一掃キャンペーンで安売りしてしまうこと。当然、そうするとブランド価値が棄損するので、景気の良い時に良い値段で売れなくなってしまう。日本の企業が良くやってしまう典型例。そこはやっぱりヨーロッパの上手なブランド管理のところはそれをやりません。

―日本はそうした発想から転換して、ヨーロッパ型になっていく必要があるということですね。

冨山:

その通りです。少量多品種で高付加価値型のビジネスに転換しないといけない。世界の人が日本に感じている価値はそっちなんです。今さらウォークマンではありません。観光客が日本に来ても、そういうところに価値を感じる訳です。単価1000円のものを1万円で売るだけで、付加価値は10倍になる訳で、こういうことをやっていかないといけない。これは資本力のゲームじゃないから、中小企業こそネットなども駆使してこういう世界で戦っていかないといけない。

サーチファンドについて、IGPI会長にヒアリング

サーチファンド普及に必要なこと

―サーチファンドには、大きくトラディッショナル型とアクセラレーター型サーチファンドがあり、世界(特に米国、欧州、中南米)ではトラディッショナル型が主流です。一方、日本では、トラディッショナル型サーチファンドの件数は依然として少なく、逆にアクセラレーター型サーチファンドの数が増えています。これから日本でサーチファンドが広がっていく上で、どの様な形が望ましいかご意見はありますか?

*注:サーチファンドには、サーチャー自らで複数の投資家(通常、10名から20名程度)から資金調達を行い、その後、買収、会社経営まで行う「トラディッショナル型サーチファンド」と、単一の投資家のバックアップの下、サーチャーが買収、会社経営を行う「アクセラレーター型サーチファンド」がある。

冨山:

どちらでも良いと思いますね。資金調達環境の話をすると、シリコンバレーでは、エンジェル投資家的な人が沢山いる訳です。だから、その人が金持ちグループのサロンから信用を得られれば、お金を集められます。それはヨーロッパも同じ。一方、日本って個人の金持ちが正直あまりいない。名前を挙げていくと、誰でも同じ10人位になってしまう。その意味で、サーチファンドを立ち上げる上で、日本の資金調達環境には、ハードルの高さがあるかもしれません。

―トラディッショナル型の場合、サーチャーは、10人から20人程度の投資家から資金調達を行い、自国の投資家だけでなく、海外投資家からも資金調達するのが一般的です。仮に日本のサーチャーが、日本だけでなく、海外から資金調達する場合、留意すべきことはありますか?

冨山:

基本的に投資家は、自分で分かっている身近なテーマにお金を出したくなります。海外投資家目線で言うと、日本の様な物理的に遠い場所に投資をするというのは、直観的に大変。だからこそ、買収企業先のテーマが大事になってくると思います。その意味で、日本のカラーが出しやすいところに勝負すれば可能性は出てくると思う。例えば、旅館なんかは最近中国マネーが流れ込んでいて、それはやはり海外投資家が高い付加価値を感じているからです。テーマ選びをしっかりすればヨーロッパとかから海外マネーを引っ張ってくることは十分可能だと思います。

インディペンデントで、パーマネントが強い

―サーチファンドのプロセスでは、サーチャーは、資金調達以外にも、中小企業のオーナーから事業を承継してもらう必要があります。サーチャーが、事業承継する上で意識すべきことはありますか?

冨山:

事業承継型で企業買収する場合、同業他社ではなく、インディペンデントで、パーマネント(永久保有)な買い手が1番強いです。同業他社もパーマネントですが、被買収企業が、同業他社に事業を売却するのは結構抵抗感があるものです。また、PEも必ず転売するので、パーマネントではなく、そこに抵抗感を持たれるケースも相当多い。したがって、同業ではなく、インディペンデントな立場で、パーマネント保有のポジショニングを取るのは、凄く強いです。

これは、JPiXを始める際に元々仮説として持っていたんだけど、実際にやってみるとかなり強い。おかげさまで事業承継案件が列をなしている感じです。その意味で、サーチファンドにおいても、このポジショニングを取ると、それは相当強みになると思います。この考え方は、アメリカでは馴染まないと思いますが、日本やヨーロッパであれば十分成立すると思う。アメリカはその辺り、非常にドライです。一方、日本やヨーロッパは、会社がもっと人間っぽいんです。私たちはヒューマンに会社を捉えるので。代々手掛けてきた会社が、右から左にポンポン転売されてしまうのは、やはり、嫌われる傾向にあります。

MBA生はコンサルには行くな

―最後にMBA生に期待することをぜひお伺いしたいです。

冨山:

折角、MBAに行き、経営者になる勉強をしているのだから、サーチ起業には、出来るだけ早く挑戦して欲しいです。僕は、最近、コンサルティング専業のファームに行くことは勧めていません。コンサルティングってあくまでもコンサルティングなんですよ。自分でその権限・権力を持って企業を経営しているわけじゃないので、経営する力は身につかない。特に、MBA取った人が、コンサル業界に行っても経営人材としては伸びないですね。MBA取る前の段階で、MBA的なある種の基礎的なスキルとかフレームワークを身につけたいという人にとっては、コンサルティングファームに行くのは有りなんだけど、MBA取ったのであれば、コンサルティングに行く意味は、はっきり言って無いです。早く、サーチ起業して、実経営に行った方が良い。

人間には、アドバイザー向きの人とプリンシパル向きの人がいます。In-nature アドバイザー向きの人は、アドバイザーをやった方が良いとは思いますが、このタイプの人が提供する価値は、大きく2通りに整理できます。1つは、「情報の非対称性」に基づいた価値で、もう1つは「経験の非対称性」に基づいた価値です。前者は、グローバルファームのアドバイザーモデルで、これが、所謂、戦略コンサルティングモデルそのもので、情報とかスキルの非対称性で価値を提供するパターン。しかし、これは、この先、生成AIが進化していくにつれて、どんどん無くなっていく、あるいは省人化していきます。

普段、色々なコンサル会社を見ていますが、実際仕事させてみても大差なく、同じようなリポートが出てきている。僕が最近よく観察している事実としては、コンサルに行って成功している人は、座待ちが良いかゴルフが上手い人です。結局コンサルサービスが、コモディディティ化してきているから、営業勝負になってきている。今のコンサル業界は、「大衆テンプレート型」の情報装置産業になっているから、毎回生みの苦しみの味はなくて、コンサルタントは作業してるだけなんです。多少知的ではあるけど、作業してるだけですから、現実に経営する力は伸びません。

結果責任を負っているかいないかで全然違うんです。実際にお金を自分で持って、取引を始めるのは、全然心理的なプレッシャーが違う。いざ、当事者として経営に携わったときに、ガーッと市場が暴落する局面に直面すると、冷静に判断するのは難しい。あるいは一か月後に資金繰りが行き詰まる、しかもネットで大炎上で労使は大紛争中。そんな中で、どうにか痺れる意思決定をする。こういう修羅場経験を積み重ねることが重要なんです。今後、AIが発達してくると、結局「経験の非対称性」が武器になってくる。アドバイザーとして生きて行くにしても、実際にこういう難しい経営判断をしたことがある人にしかアドバイスは求められません。

ボス力は、AIが進化しても絶対に置き換えられない

冨山:

話を戻しますが、折角、一流のMBAに行った訳なので、早く、部下稼業でも、アドバイザー稼業でもない、ボスとして、実経営の世界に早く行った方が良いです。勿論、Day 1 から成功するとは限らない。そこで最終責任者としていろいろ苦労したり、失敗したり、そこから再起すべくもがき続ける。その過程で磨かれる力のことを、僕は「ボス力」と呼んでいます。今後AIは益々進化して行きますが、ここだけは絶対置き換えられない。「ボス力」はこれからの時代非常に重要になってくるので、考えれば考えるほどそっちの世界に行った方が良い。

これはね、はっきり言っちゃいますが、1兆円の会社のナンバー2よりも、10億円企業のトップをやった方が圧倒的に勉強になりますよ。ナンバー2はその人が最終意思決定している訳じゃないから、1兆円だろうが1万人社員がいようが、その人が意思決定してる訳ではない。小さい組織でも良いから、トップをやった方が経営者として成長しますよ。

日本におけるサーチファンドの資金調達は、現状、確かにハードルが高いかもしれません。しかし、何事もやってみないと分からないし、動き始めると色々な視点や仮説が生まれてきます。是非、実現に向けて頑張って下さい。応援しています。

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