Class of 2024の安田です。MBAも終盤に差し掛かる2月、IESEの選択授業としてVCIC (Venture Capital Investment Competition)を受講し、IESEを代表してVCICの欧州ラウンドに参加しました。ベンチャーキャピタルの予備知識0の状態から、学内での予選も含め約一か月を仲間達と過ごした激闘の記録、IESEの特色のある授業としての記録、またMBA卒業後ベンチャーキャピタルへの就職を考える学生にとってのVCICのメリット・デメリットを将来参加する方の為に書き残したいと思います。
VCICとは
VCICは計120の大学・大学院が参加する世界最大のベンチャーキャピタルコンペティションです。各チームはVCファンドのアソシエイトとして、たった半日間で投資先のDue Diligence、Term Sheetの作成、投資許可を仰ぐPartner Meeting(Investment Committee)を行い投資額を決めなければなりません。実際にSeedやSeries AラウンドにいるスタートアップがVCICに赴き資金調達の為ピッチを行い、Term SheetやPartner Meetingの審査員も現役のVCファンドのマネージャーやエンジェル投資家が担う為、まさにVCの世界に酸いも甘いもどっぷり浸かることのできるビジネスコンペティションです。
VCICは学内、地域内、インターナショナル(ファイナル)の3ラウンド制で、いずれも先述のDue Diligence, Term Sheet, Partner Meetingでのパフォーマンスを総合評価され勝利した1チームが次のラウンドへの切符を得ることができます。ファイナルラウンドは毎年UNC Kenan-Flagler Business Schoolにて4月中旬に行われます。
VCICに参加して -プレ学内ラウンド編-
実は私はMBA前はおろかMBA在学中もVCに関して殆ど関心を持っておらず、今回VCICに参加したのも比較的短期間で単位が取れるという邪な理由でした(ちなみに私のチームメンバー全員が同様の理由)。
IESEでは2年目の後期の選択授業として、授業とVCICの学内選考という実践を兼ねて1単位取得できますが、授業はTerm Sheet作成やDue Diligence , Partner Meetingのシミュレーションに大半の時間を割かれ、VCに関する基礎的な知識やTerm Sheetの項目については既に理解されている前提で進んでいくため、全くの未経験である私は当初VC独特の世界を理解するのに大変苦労しました。更にチーム全員がVCはおろかファイナンス未経験のメンバーで、スタートアップのバリュエーションをしようにも何から手を付ければ良いかわからないという正に最後尾からのスタート。コースが始まってからはチーム全員で朝から晩まで悩み続ける毎日でした。
今思えば、この苦しい時間を全員で共有し全員で乗り越えたことがチーム力の強化に繋がったのだと思います。一方でスタートアップのDue Diligenceについては前職で比較的得意であった事業・市場分析を活かすことができました。Term SheetはVC関連の参考書を読み漁り、バリュエーションについても1年目で学んだファイナンスの知識を活用することで何とかキャッチアップすることができました。
とは言ってもやはり素人は素人。授業中に教授に提出したTerm Sheetは修正と大量のコメント付で送り返され、Partner Meetingのシミュレーションでは詰めの甘さが露呈し他の学生の前で晒し物にされる等、今振り返っても思い出したくない苦い経験の数々。この時点で誰も我々のチームがIESEを代表する等と想像もしていなかったと思います。
Due Diligenceの為のブレインストーミング。真夜中まで学内に残り試行錯誤した毎日でした。
VCICに参加して -学内ラウンド編-
授業の最終日はスタートアップ、投資家を招いてVCICの学内ラウンドを行います。今期IESEでは計12チームが欧州ラウンドへの切符をかけて戦いました。これまでのシミュレーションで他チームとの知識、経験の差を知った私達のとった戦略は、termやPre-money Valuationの細かい点にフォーカスを当てることではなく、シンプルにコースで学んだことのみを実行すること、また次回以降のラウンドなど忘れて今回のコンペそのものを楽しむこと、の2点でした。これが功を奏したのか、Due DiligenceもPartner Meetingも非常にリラックスして臨むことができました。
特にPartner Meetingでは、シミュレーション時に我々のチームを
スタートアップのビジネスモデル何も分かってないのね
と、完膚なまでに叩きのめした審査員からまた厳しい質問が投げられましたが、しっかりと自分たちの分析結果を説明し論理的に反論することに成功。ぐうの音も出ない審査員。私のMBA生活の中でアドレナリンが出るほど爽快な気分になったのは後にも先にもこれ以外ないでしょう。
結果Partner Meetingが終了した時点で学内のTop 4に選ばれ、最終選考であるスタートアップとのNegotiationへと進みました。ある程度手ごたえは感じていたものの、まさか最終選考まで残るとは思っていなかったので私を含めここにきて(やっと)若干の緊張を感じ始めたチームメンバー一同。それでもこれまで通りシンプルに、楽しむことに焦点を当て全てのセッションを終了。結果発表では他チーム、審査員全員の拍手喝采の中、優勝の記念撮影と共に欧州ラウンド行のチケットを手渡されました。何より嬉しかったのは、VCの経験・知識で我々を遥かに凌駕する他チームからも「貴方達のパフォーマンスは素晴らしかった」と言って貰えたこと。お世辞かもしれませんが、漸く自分たちの力に自信を持つことができました。
学内ラウンドでの表彰の様子
VCICに参加して -欧州ラウンド編-
欧州ラウンドは2つのブロックに分かれ、最終ラウンド行の2枠を賭けて計12のビジネススクールが争います。スケジュールの関係上、チームのメンバー2名の入替がありました。VCICでは各ラウンド事にメンバーの入替が許可されていますが、人が変わればチームダイナミクスも変わるため一般的に変更は不利に働くとされています。また我々のブロックは英国で行われるため審査員は英国の投資家達が大半を占めていました。その為英国独特のVCトレンドやTermを学ぶ必要があり、ラウンド当日までにIESEの教授の助けを借りながらTerm Sheetの改善や交渉の練習を何度か行いました。ただし、あくまで戦略は学内ラウンド同様シンプル&エンジョイを踏襲することとしました。
欧州ラウンドも学内ラウンド同様、半日でDue Diligence, Term Sheetの作成、Partner Meetingを行いました。Partner Meetingでは審査員から学内ラウンド以上に厳しく細かい質問がありましたが、事前に周到に準備し、更にIESEでのタフな経験を乗り切り自信に漲っていた私達チームにとって大きな支障はありませんでした。欧州ラウンドではスタートアップのNegotiationの代わりに各審査員からのフィードバックセッションがありました。VCの最前線で働く投資家達から、VCICと実際のVC業務の違いや欧州/米国でのVCの違いについて色々と話を聞くことができ大変有意義なセッションでした。
欧州ラウンドのPartner Meetingの様子
全てのセッションが終わりカクテルパーティーが始まると、初めて他チームとの交流が許可されます。各スクールを代表して欧州ラウンドに参加したMBA生や審査員達と親睦を深めることができ、こちらもとても実りある時間となりました。
そして、欧州ラウンドの結果は見事優勝。賞金と米国で行われるファイナルラウンドのチケットを受け取り、その日はロンドンで祝杯を挙げました。
表彰式の様子
VCICに参加して -その後-
実は私はスケジュールの都合上米国のファイナルラウンドに参加することが叶わず、ここで私のVCICは終了となりました。非常に残念ですが、既に当初の期待以上の経験を積むことができた為後悔はありません。全く未経験のVCという世界を一から学び、数多の恥をかきそれでも諦めずに食い下がったことで素晴らしい成果を得ることができ、チャレンジをすることの大切さを改めて実感しました。共に屈辱を味わいながら、それでも諦めずに最後まで戦ってくれたチームメンバーにも大変感謝しています。一人でも欠けたらきっと欧州ラウンドはおろか学内ラウンドでも優勝することは不可能であったでしょう。自分自身のみならずチームの成長も目の当たりにすることができたのはMBAでも唯一の経験です。
また幾度のDue DiligenceやTerm Sheetの作成を通して、スタートアップのバリュエーションを実践できるようになったのはVCICに参加した大きな収穫でした。私はMBA後にVC業界に行く予定はありませんが、VCに興味がある学生にとっては業界でのネットワークやインターンの機会を得ることもできるためVCICに参加することを強くお勧めします。一方でVCICでの評価基準はチームワーク等の非ビジネス的要素も考慮されるため、あくまでVCICはVCを模倣したチームコンペティションであることに留意する必要があります。必ずしもVC経験者がVCICで高いパフォーマンスを発揮できるとは限らず、逆に未経験でもVCICで高評価を得ることは可能です。
最後に、MBAは学びが主目的であるため結果に焦点を当てることはあまり好きではありませんが、やはり学内代表や優勝というタイトルは自分の力に大きな自信をつけることができ、学びも非常に大きいです。私はこれまで何度かケースコンぺに参加しましたがいずれもタイトルを得るには至らず、そこで学んだ内容も強く印象には残っていません。勿論個人差は大いにあると思いますが、とことんやって頂点を目指す方が大きな経験を得られるはずです。せっかくのMBA、何か一つでも良いのでトップを目指すことも悪くないな、と思いました。
最高のチームメンバーたちと。
執筆者 Shoma Yasuda
https://www.linkedin.com/in/shoma-yasuda
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