特集

~日本企業の課題とグローバルMBA生への提言~ パナソニック コネクト株式会社 樋口泰行氏インタビュー

まえがき

私たちIESE日本人在校生は、魅力的な生き方を体現されている方にインタビューを行うことで自らのキャリアを見つめ直す機会とし、また日本の皆さまにも考えるきっかけを提供したいと考えています。

今回は、松下電器産業(現:パナソニック)でキャリアをスタートし、Harvard Business School(以下、HBS)でMBAを取得後、ボストン コンサルティング グループ、Appleを経て日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトなどで経営トップを歴任。現在はパナソニック コネクト株式会社で変革を主導されている樋口泰行さんに、日本企業の本質的課題と変革の現実、そしてグローバルMBAの役割について伺いました。

日本企業の変革を阻むもの ― カルチャーと戦略の構造的課題

 -日本企業は過去の大量生産・大量販売モデルが崩れて久しいにもかかわらず、グローバル競争の中で苦しんでいます。日本企業の課題はどこにあるとお考えでしょうか?

皆さんの感じている課題意識とほとんど同じだと思いますが、大きく言うと「カルチャー」と「戦略」の両方に問題があります。

まずカルチャーの面では、日本は何をするにも面倒くさい建て付けになっています。非常にリジッド(硬直的)で、過去の成功体験にこだわり、やり方を変えることへの抵抗が強いです。

世界の動きが見えていないこともあり、ガラパゴス的な意思決定やプロセスが続いています。アジアの他の国々の方が、変化に対してはるかにオープンでダイナミックです。私がCEO を務めるパナソニック コネクトでは、カルチャー&マインド変革に9年間取り組んできましたが、この活動に終わりはないと考えています。

戦略面については、戦略リテラシーの欠如が競争において不利に働いていると感じています。例えば日本企業の多くは、液晶や半導体といった大量生産のパワーゲームの分野で競争してきました。しかしその結果、多くの企業がグローバル競争の中で厳しい環境に直面してきたのも事実です。

にもかかわらず、競争条件を見直さないまま、同様の競争を続けてしまうケースが見られます。

その背景の一つには、「そこに市場が“ある”から続ける」という発想があります。確かに市場が存在することは事実ですが、市場が存在することと、そこで自社が勝ち続けられることは、まったく別の話です。

本来であれば、自社がどの領域で競争優位を築けるのか、長期的に企業価値を創出できる構造があるのかという視点で判断することが重要です。

しかし、日本企業では、経営者のマインドシェアが自身の出身領域に偏りがちであり、戦略、ファイナンス、マーケティングといった複数の視点を統合した戦略的判断が十分に行われていない場合があります。その結果、市場の存在を理由に参入したものの、競争優位を確立できず、厳しい競争に直面してしまう懸念があります。

これからリーダーを目指すのであれば自分の出身領域ではない知識を学ぶ養成期間は必要だと思います。

 -逆に、日本企業/日本のビジネスパーソンが強みを活かしながら、グローバルで競争力を持ち存在感を発揮するには何が最も重要だと思われますか?

日本人の良いところは純粋に「社会のために」というマインドセットを持っていることだと思います。一方で、「会社は何のためにあるのか?」という問いに立ち返ると、株主を含む多様なステークホルダーの期待に応えるべきであり、社会性に過度に重きを置く姿勢には慎重であるべきだとも感じます。企業価値を高め、競争に勝てる強い会社でいなければ、持続的な社会貢献は成り立ちません。その意味では、日本の良さを活かすというアプローチではなく、一旦「今持っているものを全て手放す」ぐらいの強い意志を持って取り組む必要があるかもしれません。

  -MBA取得者や外部人材も増えているにもかかわらず、なぜ変革は進まないのでしょうか?

おっしゃるように、近年MBAホルダーや外部人材は確実に増えていますし、人材の流動性も高まっています。しかし、それでも既存のカルチャーが持つ影響力は依然として強く、変革を実現するためには、変化のスピードをさらに高める必要があると思います。

実は、私自身もそれを強く実感した経験があります。

HBSにてMBAを取得した後、「いっちょやったろう」という気持ちでパナソニックに戻りました。グローバルで学んだことを活かして、会社を変えていこうという強い思いがありました。しかし、その意気込みはすぐに打ち砕かれました。自分が学んできたことが全く発揮できなかったのです。

体育会系の組織をイメージすると分かりやすいと思います。一年先輩というだけで絶対服従になる。先輩が間違っていると分かっていても、否定できない。会社はそこまで極端ではないにしても、似たような構造が生じます。

トップのトーンセッティングは、想像以上に組織全体の意思決定や行動を規定してしまうのです。

日本の伝統的な文化をすべて否定する必要はありませんが、ビジネスにおいては異なる文化を持つことができたらよいと思います。例えば、年齢情報を公にせずに運営している日本企業もあります。

また、年齢構成が逆三角形の会社では、年齢のヒエラルキーとコマンドのヒエラルキーが逆転してきています。その意味では部下にとって「使いやすい上司になる」という振る舞いも大事になってくるのかもしれません。

高度成長期ではミリタリー式のオペレーションが高い成果を上げてきましたが、時代は確実に変わっており、年齢を重ねることが優秀さを保証するとは限りません。現在では、働きやすさやエンゲージメントも企業の競争力を左右する重要な要素になってきています。そのため、古いシステムを温存し続けることは競争力を失ってしまう要因になり得ると思います。

1日本企業の変革を阻むもの ― カルチャーと戦略の構造的課題 2変革を担うリーダーへ ― MBAホルダーへの提言

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