IESE Class of 2025のTです。今回は、数年前から導入されているSummer Termについてご紹介します。IESEは欧州最古の2年制MBA校として有名ですが、夏休みの期間に授業をとることによって、入学から15か月でアカデミックプログラムを修了することも可能です。日本人でこの15か月コースを選択した方は過去おらず、あまり情報がないのが現状かと思いますので、このブログの情報が参考になれば嬉しいです。
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15-Month Track / Summer Termの概要
大多数の学生が選択する19か月のコースでは、1年生修了後の6月~8月の3か月間の夏休みの期間を利用してインターンをすることになります。一方、その期間に今回ご紹介するSummer Termを受講することで、アカデミックプログラムを2年目の12月に修了することができるコースを15-Month Trackと呼んでいます。(図1)
年によってコース内容に若干の変更があるようなので、来年以降も同様のプログラムとなるかは定かではありませんが、ここでは2025年のSummer Termのプログラムについてご紹介します。
他の学生がインターン開始までの1-2週間を休暇に充て、1年生のインテンシブな日々からの疲労リカバリーをしているのをうらやましく思いながら、1年生修了後の翌週月曜からTermがスタートしました。1日2コマ~最大5コマ×週5日を6週間行うこととなり、非常に濃密な期間でした。
1つの科目を1週間で終わらせねばならず、最終テストの準備期間もとれないことから、各科目の最終回にチームでプレゼンを行う、ないしはレポートの提出をもって評価されました。(※と言っても、IESEはどこまでいってもケースメソッドの授業となりますので、評価の過半はClass Participationとなります。。。)
また、上述の通り、1日2コマの日もあったのですが、午後はフリーになるかと思いきやチーム課題やプレゼンの準備に追われる日々でした。
授業紹介
2025年のSummer Termでは全部で9つの科目が開講されたのですが、そのうちのいくつかについてご紹介します。(※科目は年によって変更があります)
Design Thinking for Management Development
デザインシンキングについてワークショップ等を通じて学ぶ授業。デザインシンキングとは、ユーザー目線で製品・サービス開発を行うためのものであり、課題の特定から入るコンサル的手法とは異なるアプローチをとるものです。チーム課題として、「高齢者に生き生きとした老後を過ごしてもらうためには、どういった製品・サービスを開発すればよいか」というテーマが与えられ、学生それぞれの親族にインタビューをしながらユーザー視点を得るとはどういうことか体験をしたのですが、MBA以前にコンサルティングファームで勤務していた、あるいは卒業にコンサルティングファームで働きたいと思う学生が多いIESEでは、その手法の咀嚼に一同苦労しました。
私のチームは、「家族のサポートを得なければ自律的生活を送ることは難しい状況であるというのが課題であり、その状況を改善するためにはどうすれば良いと思うか?」、という仮説の下、インタビューを進めていこうとしたところ、デザインシンキング的アプローチになっていない、と担当教授再考を求められました。
デザインシンキングとは、ユーザー視点で考えることが重要であり、検討者側が情報の少ない中で「勝手にたてた」仮説に基づいて進めてはいけないとのこと。「自律的な生活」というキーワードが仮説として検討者側の頭にある状態では、その枠を超えた製品・サービスを生み出すことはできないので、ユーザーインタビューを通じて、ユーザーの”Deep Needs”にたどり着くことがまずは重要である。そのためにユーザーの感情をなるべく多く拾い上げられるような質問をしていかないといけない。
例えば、「最近、何をしているときに幸福を感じますか?」「幸福を感じる際には、どういった情景が頭に浮かびますか」などといった、自律的生活という検討者側の仮説とかけ離れた質問を投げ、想定していなかったポイントを捉えていくことが重要であるとの指摘を受け、インタビューのための質問リスト作成について複数回のやり直しを求められました。。。ただ、振り返ってみると、教授に課題について複数回にわたりフィードバックをもらえるというのはこれまでのTermでは人数の関係で難しく、貴重な体験だったのかもしれません。(その時はなかなか進捗しない状況にフラストレーションが募りましたが。)
Sustainable Finance
ESG投資とは何か、どういったプレーヤー(銀行、PE、VC等)が、どのような手法で投融資先の評価を行っているのか等、近年ファイナンス領域でホットトピックとなっている事象について議論する授業。受講者数は少なくとも、バックグランドの多様性は担保されており、欧米等の先進国出身者とアフリカや東南アジア等の発展途上国出身者で意見が大きく割れることになったのは非常に興味深かったです。
一例をあげると、
「欧米企業が途上国で収賄の撲滅のための活動をしているとサステナビリティレポートで報告している件は、先進国中心的なもので、現地の事情についての考慮がないように感じる」、とアフリカ人学生が発言しました。「欧米の目線で『収賄』とされる行いも、アフリカでは一般的な慣習であり、それがあるからこそ社会の秩序が保たれている側面もある」、とのこと。
一方欧米人学生は、「先進国にも賄賂の歴史はあるが、それは経済の健全な発展を阻むものであるということで撲滅の方向に向かっているのである」と反駁します。
それに対しアフリカ人学生は、「賄賂の撲滅は中長期的には必要だと思うが、明日の生活もどうなるか分からないアフリカの人々にとって中長期的視点で物事を考えることを求めるのは酷ではないか?賄賂によってその日の生活が保障されてきた部分がある中で、欧米企業はそれを補償してくれるのか?」、と切り返していました。
1年生の時の70人のセクションの中でも議論が盛り上がることはあったものの、どこかで気を遣って核心に迫ることを避ける雰囲気があったやに感じますが、少人数でお互いについての理解が深まっていたからこそここまでの議論ができたのではないかと思います。
Data Science for Business
Pythonの初歩的コーディングを学んだうえで、Webスクレイピング等の分析手法にも触れるもので、一見MBAらしからぬ授業。ただし、データサイエンティスト養成を目的としているわけではなく、そういった専門家と会話する上でマネージャーとして最低限おさえておくべきことについて学ぶコースとなっています。私を含め受講者の9割がコーディング初心者だったものの、教授がステップバイステップで懇切丁寧に指導してくれたため、なんとかついていくことができました。できの悪い私は、教授に目をつけられ授業中に何度もあてられ冷や汗をかくばかりでしたが、それがきっかけで教授と仲良くなることができました。授業内容とは関係ないものの、キューバから移住してきた話、現地に溶け込むためにローカル言語であるカタルーニャ語を必死で勉強した話など、興味深い話をいくつも聞くことができました。
最終課題は、実際のシェアサイクル事業者の各ステーションにおけるレンタル開始・終了時間が記録されたデータが与えられ、現状分析と改善ポイントがあれば提案をする、というものでした。受講前には単なる文字列としてしか認識できなかったデータですが、Pythonを活用してグラフを形成することができるようになり、全体的なトレンドを抑えたうえで、利用率Top / Worst 100ステーションの状況について抽出し、異常値なのかそうでないのか判断していくといった一連の現状分析までできるようになりました。
Summer Termを選択する理由
Summer Termの受講者は毎年学年の10%未満と多くはなく、今年は15名弱が受講していました。選択の理由は様々ですが、主だったものを以下に挙げてみます。
パターン①:社費留学でスポンサー企業から22か月の留学を許されなかったから
パターン②:起業の計画が固まっている、あるいはファミリービジネスに戻ることが確定しており、修了時期を早めたかったから
パターン③:インターンの内定を得ているが6-8月ではなく、秋ないしは冬にインターンをすることになったから
パターン①/②だけを見ると、卒業後の進路が決まっている場合はインターンシップが不要だから15-Month Trackを選択しSummer Termを受講しているのかと思われるかもしれません。厳密には正しくなく、IESEではインターンシップへの参加が卒業要件の一つになっているため、概要説明の部分で掲載した図の通り、15-Month Trackを選択し、12月にアカデミックプログラムを修了しても、その後にインターンをすることが求められます。
ただし、社費派遣元に戻る、起業する、あるいは秋に就活をした結果フルタイムポジションを獲得した等でこの時期にインターンではなく、フルタイムジョブを開始した場合、開始から8週間がインターンシップ期間としてみなされ、問題なく卒業することができます。
なお、卒業式は19-Month Trackの学生と同様の5月に設定されており、12月にアカデミックプログラムを修了後、バルセロナを離れる場合、5月に再度バルセロナに戻って卒業式に参加することになります。(※卒業式への参加は必須ではなく、任意です。)
Summer Termのメリット
概要説明のパートでインテンシブさを強調して脅かし過ぎてしまったらすみません!個人的には学びも多く、楽しかったTermだったと感じており、そのメリットをいくつかお伝えできればと思います。
メリット-1:クラスサイズが小さい
既述の通り、受講者数は20名弱と1年生時のセクション(70名前後)と比べると1/3以下の規模になります。クラスサイズが小さければ、授業で発言機会が巡ってくることが自然と増え、Class Participation問題で悩む必要はなくなります。また、受講者同士の関係も深めやすく、1年生時にはあまりセクションが違ったために交流がなかった学生とも仲良くなることができます。そして、Summer Termで受講者数が少ないからといって教授だけが授業するということはなく、ゲストスピーカーについてもきちんと手当されており、各業界の最前線で活躍されている方と双方向的にコミュニケーションをとることができるという貴重な経験も積むことができます。
メリット-2:1つの科目について集中して学ぶことができる
あくまで2025年のスケジュールですが、Summer Termは1つの科目が1週間で終了するように設計されています。通常期においては、1週間に1コマ(ないしは2コマ)あり、次は翌週というように間隔があいてしまい、前回の内容が頭から抜けてしまうということもあるのですが、短期集中的に進められることで、そういったことはなくなります。これは好みの分かれるところかと思いますが、個人的にはより学びを深めることができる設計なのではないかと感じました。
メリット-3:人気の授業を受けることができる
IESEにおける2年生の授業は全て選択科目となっています。選択にあたっては、ポイント・ランキング制のbiddingが必要となるのですが、多くの人がbidする人気授業については、biddingの戦略を間違えると受講できない、なんてことも発生します。
その点Summer Termについては、過去biddingや実際に受講した学生からの評価が高かった授業をbidding失敗を気にすることなく受講することができる点がメリットかと思います。もちろん科目の選択ができないという点はデメリットにもなるかと思いますが、自分では選ばなかったであろう授業を受ける機会になったことに加え、多くの学生が評価している授業であることもありその質は高く、個人的満足度は高かったです。
終わりに
IESE MBAは2年間の体験によって完成するようこれまで設計されてきてはいるものの、こういった新しいプログラムの導入を通じて、幅広いニーズに応えようと努めています。
日本人アプリカントの皆さんの中には、歴史的な円安という状況下で、2年という期間が資金面での足かせとなってIESEへのApplyを断念される方もいらっしゃるかと思います。Summer Termの受講による15-Month Trackの選択は、そういった方への一つの解決策になるかとも思いますので、これを機にIESEも是非ご検討ください!