経営者として
Q. 結果、エンターテイメント業界のアレスカンパニーを承継なさったわけですが、どのような理由で同社の承継を決断されたのでしょうか。
エンタメの領域は、これまでのキャリアから見ると遠いのは確かですが、消費者としては身近に感じていました。中高生の時、休日などにゲームセンターによく行ってましたしね笑。
また、サーチファンドの動機として日本経済を伸ばしたい大前提がある中で、グローバルに次世代の日本産業としてプレゼンスを生み出し得るのは「食」・「観光」・「エンタメ」だと考えていて、その領域で強い企業が育つべきだという個人的な価値観の中で、エンタメは魅力的に感じていました。
承継したアレスカンパニーは、ゲームセンター向けにクレーンゲームの景品を卸す会社なのですが、実はゲームセンターが今すごく伸びているのをご存じですか?
背景としては、コロナ禍で巣ごもりする人が増え、映像サブスクが流行る⇒そこでアニメを見てハマる⇒グッズが欲しくなる⇒ゲームセンターで手に入る、というロジックで、ゲームセンターがIPなどのキャラクターとファンを繋げるプラットフォームになって需要が爆発したと考えています。
あとは二次流通のサービスが普及したのも理由の一つでしょうか。「クレーンゲームの景品を取ったけどどうしよう」「クレーンゲームで遊びたいけど景品はもう十分持っているな」という方がフリマアプリで売るという出口を手に入れたことで、クレーンゲームで遊ぶハードルが下がりました。二次流通する気軽なプラットフォームが生まれたことは追い風になったと思います。
これらを踏まえると、ゲームセンターが伸びている最大のドライバーが、クレーンゲームだと言えます。そうなると、ゲームセンターの経営者はクレーンゲームの床面積をふやそう、となりますよね? でも、ゲームの筐体を置いただけでは遊んでもらえません。筐体のそれぞれに魅力的に景品を入れる必要があります。しかし、どのキャラクターの、どのような景品を、どれだけいれたらお客さんが喜ぶか?というのを全台数分考えるのは簡単なことではありません。アレスカンパニーが手掛ける景品卸という立ち位置では様々なサプライヤーの景品を買い付けるので、商品選定やその配分を提案して付加価値を出すことができます。ゲームセンターとサプライヤーを繋ぐビジネスとして伸びしろがあるのではないかと考えました。
Q. IGPI冨山さんのサーチファンドについての講演で、「下に何万人いようがナンバー2はナンバー2であり、トップマネジメントとは違う」とおっしゃっておられましたが、そうした実感はございましたか?
確かにその通りで、さらに言うといわゆるサラリーマン社長とオーナー社長でも違うように思います。サーチファンドの場合、仮想的なオーナー社長ということにはなるんですが、それでも、会社のP/L(損益計算書)はすなわち自分のP/Lであり、自分の体の一部のように感じていました。例えば極端な話、従業員から「ペン買ってきてもいいですか?」って聞かれた時、そのお金と時間の効率を嫌でも考えさせられてしまう感覚がありました。ペンは要るから買うとして、Amazonで買うのか、100均で買うのか?100均は安いけど車で15分かけて行ってくると言われても困る…と悩んでしまうような感覚です。自分が雇われの立場だと、「じゃあ休憩がてら買いに行って来たら」って言っていたでしょうけど…
そういう小さな話だけではなく、当然ながら従業員がやったことで何か不祥事が起きれば自分の責任になりますよね。それに、従業員は常に自分の一挙手一投足を見ていて、説明がつかないことはできません。意思決定においても、頼りにされている感覚もある一方で、自分より後ろがいないので、自分が決めなかったら何も進まない。でも知らない領域でも意思決定しないといけないから、迷いも出る。その迷いの中で素早く判断を下すことが面白いと思えるか?は経営者の資質の一つだと思います。
Q. そうした立場の中で、しんどさや、孤独を感じたことはありませんでしたか?
めっちゃありますよ笑。例えば、従業員の動きが自分の期待と違ったりしても、それをポロっと言葉に出してしまうとその人へのプレッシャーになるし、その場面を周りが見たら、「この人はできない人だ」と思ってしまって、それが本人にも伝わるという悪い循環になりますよね。明らかに「これは指導が必要なシーンだな」というわけではない限りは簡単にネガティブに聞こえることは口にしないようにしています。指導をするときも「言われた側が改善できるようなフィードバックか?」「決して人格を否定せず、ストレートすぎない言い方になっているか?」と模索していたのである程度の心労はありました。
そんな状況でも相談できる人がいることはサーチファンドのいいところですね。投資家は相談に乗ってくれるので、従業員とのコミュニケーションの取り方など壁打ちをしてもらっていました。具体的な施策も含めた建設的な提案を、感情面を取っ払って議論できました。従業員以外でも、お客さんやサプライヤー、(サーチファンド特有の事項として)前のオーナーとの関わり方の悩みは中々誰かに話せるものではないので、そういう時に信頼できる投資家とチームを組めると上手くいくのではないかと思います。
Q. 一橋、総合商社、外資系コンサルのようなキャリアから、全然違う世界に来たことでのカルチャーショックのようなものはありましたか?
特にありませんでした。おなじ人間が集まっているのだから、規模・業種で本質的には変わらないと思っています。過去の経験でも、商社でタイの事業投資先のターンアラウンド(企業再生)のプロジェクトの一環で、農機販社の直営の販売店を立ち上げるというのをやったんですね。その時はタイの田舎で営業マンと一緒に毎日現場で汗を流したのですが、そっちの方が大変でした。
Q. 商社やコンサルでの仕事の経験は活きましたか?
サーチャーの仕事をどう切り取るかによりますが、会社の経営に関しては商社の経験が活きたように感じます。特に、日々の仕事の進め方や、契約交渉でどう話すかなどは活きました。一方で、サーチファンド投資家との折衝では、コンサル的な、プロジェクトマネジメントの経験が、投資家に対して安心して任せてもらえるコミュニケーションを取ることに活きました。例えば、事業の状況を説明するのに、「P/Lの販管費が今期これだけ伸びていて、具体的にはこの備品購入のインパクトが大きい」というような納得できる説明のポイントを理解していた、というイメージでしょうか。
Q. MBAのサーチファンドの授業では、「就任後1~2年はまずCEOという仕事について学ぶ期間。その後3~5年かけて変革を進めて企業価値を上げる」と教わったのですが、2年弱でのM&AということはCEOとしての立ち上がり、企業価値の向上をきわめて短期間で成し遂げられたということになるのではないかと思います。何が成功の鍵だったのでしょうか?
サーチファンドの理論はその通りだと思いますし、私のケースは早すぎたのではないかという気もします。ただ、これは企業のサイズ感にもよるのかもしれません。海外のサーチファンドのサイズ感だと売上も大きい(年間売上高数十億円規模)ですが、アレスカンパニーにおいては承継当時10億くらいの売上で、社員数も10人未満の会社でしたので、半年くらいで会社の構造を理解することも不可能ではない規模でした。
一番意識していたことは、最初の半年は「聞きに徹する」こと。オンもオフも社内外の人と色々対話して、話を聞いたり、ひたすら「仕事を教えてください」と頼んだりしていました。社内外のステークホルダーが持っているこのビジネスに対する解像度と視野を持てるように徹底的にやりました。顧客・サプライヤーが何を気にして、何をボトルネックに感じているかを探しました。そのプロセスで従業員と仲良くなれたと感じます。
結果として、承継する前に持っていた投資仮説の当たっていること、外れていることが見えてきましたし、それを通じて、承継前には分からなかったボトルネックも見えてきました。承継後100日経った節目のミーティングで、次の100日はこのボトルネックに取り組む、みたいな改善の方向性を組み立て、微修正を繰り返していきました。並行してすぐに成果の出るQuick-win的な施策も意識して作り、従業員や取引先からの依頼に対して即日ですぐ対応します!みたいな感じでやることを続けると「相談すれば良くなるかも」という風に信頼してもらえて、そうすると「あれも相談してみよう」みたいなサイクルが回りだして、取引先・従業員・株主とすべてのステークホルダーからの信頼を得た上で、さらに大きな改革に挑む、という進め方をしたのは結果として良かったのかもしれません。
Q. 改革の具体例を話せる程度で教えていただけないでしょうか?
大きなところでは、
① 人材採用。特に営業は2人しかおらず、営業部長が凄腕だった部分はありつつも、彼が回り切れる顧客先の数が限界値となってしまう懸念があったので営業担当を中心に採用を行い、組織化を目指しました。
② システム改善。もともと使っていた販売管理システムは小規模企業向けの買い切りソフトで、受発注がシステム上で連携しなかったり、データ分析など含めて効率化されていなかったり、改善の余地が多分にある状況でした。特に、受注はExcelで管理して、発注だけそのソフトにExcelから書き写すようなプロセスになっていた中で、今後の受注増に比例して事務作業が増えたり、ミスが増えたりする原因となるのではないかと個人的には危惧していました。また、オンプレミスのソフトだった為、コロナ禍でもリモート勤務に取り組めず、濃厚接触や感染が発生した際に事業が停止するリスクがあるなど、時節柄も軽視できない危険な環境になっていました。そうした背景もあり、受注から請求まで一気通貫で繋ぎ込みができるクラウド型のシステムを導入して解決を図りました。
それ以外にも本当に細かな改善を繰り返していたので挙げだすときりがないですね。笑
例えば元々紙で管理していた勤怠管理をシステム化・クラウド化したり、そこから給与計算も自動化して、給与明細も電子化したり。細かなやり方を見直すことで、私や会社全体の事務作業量も減らせましたし、デジタルをうまく活用する会社にもなった気がします。
GENDA社について
Q. GENDAへのM&Aについて、どのようなことを考えて判断なさいましたか?
まだ承継してから日も浅い中で、早すぎるのではないかという葛藤はありました。それでも、事業としてのあるべき姿、社員のキャリアや人生にとってどうか、を考えて最終的に決断しました。事業に関しては、言わずもがなシナジーはあると見込んでおり、例えばM&Aを通じて一足飛びに全国規模のアミューズメント施設である「GiGO」との取引が開始でき、取引量の増大を通じて更なる製品企画・原価低減が図れそうなど、非常に具体的にイメージがつきました。また、社員の幸福という意味でも、業界内でも評判の良い上場企業グループに参画することで、安心感に加えて大きな視野でチャレンジができる環境は、魅力に感じてくれる人が多いのではと感じました。もちろん個々人の価値観の中でこれが絶対的な最適解かはわかりませんでしたが、5年後に同じお話が来ても受ける可能性がある良縁と感じましたので、M&Aを受けることを決断しました。
Q. 急成長企業であるGENDAグループに加わることでのカルチャーショックはありましたか?
GENDAの皆さんの考え方や行動指針などはもともとアレスカンパニーや私個人が大事にしていた価値観と共通する部分が多かったので、その観点では少ない方だったと思います。とはいえ、働く環境の変化という意味では良い意味で非常に困惑した部分もあったと思います。もともと千葉で駅距離も遠い20人も入らない小さい事務所で仕事をしていた会社が、都心のオフィスビルに移って非常に安全で快適な職場環境になりましたし、ソフト面でも上場企業水準のガバナンスに準拠する中で、慣れない部分もありながら、徐々にレベルアップできたと思います。
Q.今のお仕事(GENDAの欧州事業責任者兼GENDA Europe Ltd. CEO)ではどういう難しさを感じていますか?
全く新しい市場で、かつこれまであまりない事業への0→1の挑戦なので、これまでとは全然違った難しさがあります。特に、商売を生業とする人間として個人的に一番難解に感じているのが、マーケットでの肌感覚があまりないこと、あらゆるものの価格や納期、クオリティなどについて、何が適正なのかが見えないことです。会社として事業を始めて売上が立つまでに様々なコストがかかりますが、例えば家賃、商材などモノの価格にしても、弁護士費用のようなサービスにしても高いのか安いのかのチューニングは、慣れ親しんだ日本よりはやはり少し難しいように感じます。
さらに言えば足元では円安やインフレなど、事業をとりまく環境の複雑性やその表出具合が日本より激しい状況ですので、高いと感じたものも、円安で高く感じるのか、インフレで実際高くなっているのか、商慣習や雇用環境の影響で期待値が高く設定されているのかなどは冷静に見極めアップデートする必要があると痛感しています。
また、GENDAとして、という意味では「世界中の素晴らしいエンタメ企業にM&Aを通じて仲間になっていただくか」が重要だという前提の中で、「どうしてGENDAと一緒に世界一のエンタメを目指すことがステークホルダーの幸福につながるのか?」「なぜGENDAと一緒になれば世界一を目指せるのか?」という価値観を別の言語や文化の中でどのように伝え、魅力を感じてもらうかというチャレンジはあると感じています。
Q. アミューズメントという一見成熟しきった業界でのGENDAの躍進には目を見張るものがあります。同社の成功の要因やカルチャーについてどう感じられますか?
一言でいうと、掲げる大志の大きさと道筋の具体性、ということになるのだと思います。GENDAのAspiration(大志)は、「世界中の人々の人生をより楽しく」、これを達成するためのビジョンは「2040年世界一のエンタメ企業に」です。このビジョンを達成するためには、現在、みなさんが想像する世界一のエンタメ企業を越えなければいけません。とてもチャレンジングな目標になります。
自分の会社を経営してみて思ったのですが、事業の行く末って経営者の野望でほぼ決まります。社長をして数年で売上が2倍3倍と伸びたとして、その先の世界で、10倍にしたいか、100倍にしたいか、みたいに考えをどこに置くかで打ち手が全然違ってくると強く感じました。GENDAの掲げる世界一のエンタメ企業というビジョンは非常に大きく、途方もない挑戦のように一見して思えます。
このような大きな目標は、当然0→1でオーガニックでというだけでは非常に難しいと思いますが、M&Aを成長戦略の1丁目1番地に置くことでこれを実現可能性のあるプランに落とし込むことができていると感じます。経営陣が魂を込めてプランを練り上げ、コミュニケーションや実績の中で一定の蓋然性を組織、業界、市場に伝播させていくことで、採用やM&Aの求心力になり、ベストな才能・会社がGENDAに引き寄せられる、というサイクルが回っているのだと思います。普通の会社だとまず「オーガニックな成長」と「プロダクトの磨きこみ」あたりを戦略の基本にして、飛び道具でM&Aをやるというのがよくあるパターンですよね。一方、GENDAはその飛び道具のM&Aを戦略の主において、飛躍的な成長を連続的にやっていくというコンセンサスを作っているというのが成功の背景なのかもしれません。
最後に
Q.サーチャーを目指されている方へのメッセージなどあればお願いします。
自分自身はソーシングからExitまでの全てのプロセスで学びが多く、心からやってよかったなと思っていますが、苦しさも当然あるし、全員が全員に適する道ではないかもしれません。勿論失敗もあります。しかし、成功・失敗関係なく得られるものは大きいです。30代でチャレンジできる機会の中でこれより大きいものを得られるような場はほとんどないと思います。
先ほど出たように、「経営者かそれ以外では全然違う」という感覚は、実際経営者をやらないと身につかないと思います。サーチファンドをやる前とやった後で、世界の見え方は全然違いますし、Exitしたからアガリでは決してなく、むしろその後のキャリアが圧倒的に面白くなってきましたし、経営者というキャリアは複利で高まっていくものだと思いました。この挑戦はキャリア上でベストなチョイスだったと自信を持っています。
サーチャーやサーチファンドの活動を通じて、1人でも多くの経営リーダーが生まれることを心より願っています。自分自身もそうであり続けたいと思いつつ、もし挑戦を考えていたり、挑戦して悩んだりされた方がいれば、同志として支えさせて頂くのでいつでもお声がけください。
Class of 2025 尾島、横山、小川
Class of 2026 辻井・仲子・岡部
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