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複利で高まっていく経営者としてのキャリア-サーチャー/GENDA Europe Ltd. CEO 大富さんインタビュー

 私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回は、サーチファンドを将来のキャリアとして考えるMBA生が、ご自身のサーチファンドを経て、GENDA Europe Ltd. CEOを務める大富さんに、サーチャーとして、承継先企業のCEOとしての経験について伺いました。

大富涼さん

一橋大学の商学部並びに同大学院経営学修士コース(MBA)を修了。三菱商事、戦略コンサルティングファーム ベイン&カンパニーを経てサーチファンド・ジャパンの支援のもとアミューズメント施設向けの景品卸業を営むアレスカンパニーを承継、同社を経営後GENDA社に株式譲渡し現在は同社の欧州事業責任者、及びGENDA Europe Ltd.のCEOとして、同社のヨーロッパでの事業展開をリードする。

GENDA

「世界中の人々の人生をより楽しく」をAspirationとして掲げるエンタメ企業。グループ企業ではアミューズメント、カラオケ、キャラクターMD、F&B、コンテンツ&プロモーション(映画や体験型コンテンツ等)などエンターテイメントにおいて幅広く事業を展開。

MBAについて

Q. 一橋商学部から直接同大学のMBAに行かれたのはどのような理由だったのでしょうか?

一橋大学に5年一貫プログラムというのがあって、学部3年生で単位取り終えると、4年+1年間の大学院生活でMBAが取れたんです。学部の中で経営学を勉強しましたが、もっとディープに、実践的に学んでみたい、社会に出たときの実践知を学びたいと思い、進学を決めました。

Q. MBAで学んだことはその後の仕事で生きましたか?

 正直言うと勉強したセオリー自体はあんまり生きていない気がしました。なぜかというと特に商社の新卒1年目で学ぶことの多くは仕事のお作法とか、社内調整、社内用語の理解みたいなソフトな内容でMBAのカリキュラムの外にあるものでしたし、コンサルティングファームでの分析もMBAで学ぶような基礎的な理論とは異なる領域でした。

 一方で、前提となる会社の基本原則としての戦略・思考のインストールが済んでいたのは良かったと思います。また、所作として、例えばビジネススクールの教室では発言することが重要ですが、日常のシチュエーションで言うと、会議で物おじしないで意見を言うとか、フラットに議論してみようとする姿勢は、良くも悪くも自分の身になった気がします。加えて、MBAはサーチファンドには役立っていて、会社の戦略策定や組織・インセンティブ設計で生きたのはそうですし、実際の会社の買収、デューデリジェンス(買収予定企業に対する詳細調査)はまさにMBAで学んだ内容でした。投資家と議論するときに必要な事業計画のシナリオ分析、ビジネスデューデリジェンスは自分でかなり進められたので、そういった意味ではスキルセットの素地が活きたと言えるかと思います。あとは一橋には経営哲学・考え方の授業が結構あって、そこで学んだことに立ち戻ったり、色んな考え方があるという参照点(”松下幸之助はどうかんがえたっけ”など)を持てたことは役に立ちました。

 もう一つ言うなら、頑張る力でしょうか。明日までの課題が終わらない、仕方ないから午前3時までやるか、とか笑。1年目は相当忙しくて、特に5年一貫プログラムでは、授業だけでなく、学部の卒論・就職活動も並行してやる必要があったので。ケースの約半分は日本語だったので、語学的な学業の負荷はそこそこでしょうか。勿論その分深い議論を求められるという大変さもありました。課外活動で言うと、ESS(英語部)、バンドをやっていたので、暇なときはベースを弾いたりしていました笑。

Q. サーチャーの多くはMBAホルダーであることが多いですが、それについてはどう思いますか

 サーチャー=経営者としてはさほど必要ないと思うのですが、サーチャー=投資を受ける人、という目線であれば、投資家が気にするポイントについて共通言語が話せる人という証明として、MBAが役立つのかもしれません。あとは、投資家としてある程度大きいお金を預けるときに、サーチファンドができなかったら崖っぷちという人より、最悪キャリアチェンジなども含めたバックアッププランがある人の方が安心できるというのもあるかもしれませんね。

サーチファンドについて

Q. サーチャーを志されたのはどのような理由でしょうか?

 もともとMBA課程に居たのでサーチファンドについては知っていて、いい仕組みだと思っていました。日本経済がどうやったら良くなるかを考えたときに、ボトルネックは経営人材なんじゃないかと思っているのですが、サーチファンドこそ経営人材を増やせる手法・プラットフォームなのではと注目していました。経営人材に着目していた背景としては、当時本で読んだ言説や、実業家の方々との接点の中で伺ったことに加えて、商社入社後にも、ある事業のトップが変わったら全然結果が変わったりというリアルを見て、確信を得ました。もっと根底の日本経済を良くしたいという考えに何か強い原体験のようなものがあるわけではないんですが、バブルの後の日本で生まれ育ち、「昔は良かった」とばかり言われてきた世代として、「何かできるはずだ」と思って生きてきました。

 自分としてもプロ経営者のようなかたちで経営人材になっていきたい、そういう人材を増やしていきたい、という思いの中で、最速で経営者になれる仕組みとして引き続き注目をしてたのですが、コンサル時代、ちょうどサーチファンド・ジャパンがアクセラレーターとしてサーチャーを募集していたのを見つけて、それに応募しました。中の方々と話していくうちにフィーリングが合い、一緒にやれそうだと思って、コンサルと兼業のサーチャーになりました。

Q. アクセラレーター型の投資家にサーチャーとして自分が選ばれた理由をどう考えられていますか?

 サーチャー募集の立ち上げの説明会があって、その後希望者は投資チームと面談する、というプロセスだったのですが、自分は面談第一号だったみたいで、先行者利益のようなものはあったかもしれないですね笑。

 一般論として考えてみると、人としての信頼性、ビジネスの基本的なスキル、マインドが問われるものだと思います。一言で言うと「インテグリティ」(誠実、真摯、高潔さ)で、具体的に言うと投資先にいきなり社長として入っても周りと円滑にコミュニケーションを取っていける人。アクセラレーター目線で言うと、経営者として入った後の人間関係トラブルが一番怖いですし。また、日本だと承継する企業としてEBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前利益)が1億円いかない、社員数10人未満の会社のケースも多いので、そうなると指示だけではなく、社長である自分自身も取引先の開拓などの実務もこなす必要があるので、そういう泥臭い動きを厭わない方も向いていると思います。

Q. 実際にサーチャーとして活動されて、特にサーチ期間にはどんな難しさ/楽しさがありましたか?

 サーチ期間ですが、これはほとんどのサーチャーにとってあまり楽しくないプロセスと言えるかもしれません。承継先の都合あっての話なので、コントロールできないことも多く、期限にも追われます。大変な期間ではありますが、一方では様々な会社を見ることができて、「こんな事業があるのか」「この会社だったらこう伸ばせるかも」といった驚きや、思考を巡らせることができた点で個人的にはいい経験でした。自分自身がどういう会社を経営したいのか、どういう風に社会にインパクトを与えたいのかを考える時期だと思いますし、楽しさもあるフェーズだと思います。

 私の場合はコンサルで仕事をしながら、波はあるものの夜の1〜2時間だったり、休日にコツコツ進めていました。ソーシング(事業承継候補企業の探索)はコールドコール(作成した事業承継候補企業リストをもとに連絡)はやらず、M&A仲介会社から案件を紹介してもらって判断をしていました。2週間か1か月に一回、サーチファンド・ジャパンとタッチポイントを持ってミーティングしていたのですが、そこで進捗を話したり、相談をすることで新しい案件が出て来たりしたのを覚えています。さすがにデューデリジェンスやM&A直前の時期は、会社と調整しながら毎日時間を割きました。

Q.もしもう一度サーチャーをやるなら兼業と専業、どちらを選びますか?

 結局何を大事にするかという意思決定で、その時の状況によるとしか言えないのですが、Pros/Consを整理してみます。まず、兼業サーチャーのデメリットはスピード感ですね。専業の方がコミットできるので、同時にいくつもの案件を検討できます。兼業の場合だと、同時に2~3案件をデューデリジェンス含めて回すというのはかなり非現実的だと思います。

一方、専業サーチャーはそうしたコミットメントによるパフォーマンスの良さがあるものの、まだサーチャーというキャリアが日本で確立されていないので、万が一(一般的なサーチ期間のリミットである)2年間サーチしてみたけど、いい会社が見つからなくて撤退するとなったとき、その人が社会的にどういう評価になるかもわからなくて不安ですよね。そういう焦りもあって、もしかすると、(承継先の条件として)100点じゃない案件が来ても、兼業だと80点くらいの案件が出るまで粘るところを、専業だと60点くらいで妥協しちゃうっていう悪いシナリオはありうるのかもしれません。

Q.大富さんの場合、専業サーチャーのようなタイムリミットはなかったと思いますが、それでもどのくらいの時間軸で終わらせようと考えていましたか?途中、焦りのようなものは感じたことはありましたか?

 前述のとおり、普通にサーチファンドをやるなら2年以内ですが、当時はアクセラレーターの条件としても厳格な期限はなかったように記憶しており、焦ることもなく2年経って見つけられなければ考えようくらいに思っていました。当時勤めていたコンサルティングファームは好きでしたし、ゼロベースでの起業という可能性もあるかななど、サーチファンドに限らず色んな機会があると思っていました。

Q. MBA卒業後、サーチファンドを志しています。中でも、サーチ期間を極力短縮したく、アクセラレータ型を検討しております。実際に副業されながらサーチされてみて、期間短縮という点でアクセラレータ型の恩恵を感じることはございましたか?

 期間が延びる懸念としては、自分が承継したいと感じた企業であってもアクセラレーター側の意向によって、自分の一存では決められないということなどかと推察しますが、私の場合、投資委員会などである程度スクリーニングはありつつ、承継企業の中身についてはほぼ任せていただけていました。トラディショナル型でもM&A資金の調達があることを考えると、スピード感に差は感じなかったように思います。また、もちろん受け身なのは駄目だとして、向こうから案件を紹介してくれるという意味ではむしろプラスな部分もありましたし、単独のアクセラレーターとだけ話せばいいので、コミュニケーションコストもアクセラレーター型の方が低いんじゃないかと思います。もちろん、1社だけということはその分得られるインプットのバリエーションも減るので、トレードオフはあると思います。

後編では、アレスカンパニーを承継後の経営者としての大富さんのご活躍に迫ります。(↓)

1大富さんと、大富さんがサーチャーになるまで 2経営者として

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