「日本におけるサーチファンド投資」

小林
 ありがとうございます。続いて、ちょっと違うテーマ行きたいと思います。ディスカッションテーマ3、日本におけるサーチファンド投資です。先ほどJose教授の話もありましたけど、サーチファンドは新しいアセットクラスであるということで、今アメリカとヨーロッパを中心に出資件数も増えてます。

 で、先ほどJose教授の例なんですけど、彼の場合は、彼が運営してるファンドは、世界28カ国151以上のサーチファンドに投資をしています。彼の面白いところは元々ベンチャーキャピタリストでスタートアップ投資をしていて、いろんなスタートアップに投資する中で、サーチファンドへ越境をして新しいアセットクラスとして投資をしているっていうところです。
 で、今度はまたちょっと違う例なんですが、プライベートエクイティやサーチファンドの世界で、通常プライベートエクイティはマジョリティで出資をしてバリューアップしますが、例えばスイスのAIGグローバルってところは元々プライベートエクイティだったのが、 サーチファンドに越境してですね、100を超えるサーチファンドに投資していて、こういったプレイヤーが世界にはゴロゴロいるというのが今の現在位置です。一方、日本でいくと、これまでこういったプレイヤーっていうのはもう全く存在しなかったわけなんですね。で、その中でインクルージョンジャパンがですね、日本で初めてのベンチャーキャピタルとしてサーチファンドに投資をするということを決断されました。また、今隣にいる法田さんも、普段はPEをやられてるんですけど、サーチファンド投資を開始してると。こういった新たな動きが今出てききて、その辺りにちょっと迫っていきたいと思います。
で、まずちょっと寺田さんにお伺いしたいんですけど、なぜVCがサーチファンドに投資するか、その狙いを教えていただけますか。

寺田
 先ほどなんかうちの歴史も少し喋りましたけども、 まだやっぱサーチファンドは来てないので、なんか大手のファンドとかが来る前に、やっぱりこう独立系として一歩先に動きたいというのがまずあります。もう1つは、これは個人的に僕はコンサルバックグラウンドで、
44歳までコンサルに残っちゃったんですけども、30歳ぐらいで辞めていった優秀なコンサルタントが2人ぐらいいたんです。サーチファンドじゃなくてアトツギ系ではあったんですけれども、1人は名古屋の製造業、もう1人が水道屋さんを継いでったんですけど、2人ともうまくやってるんです。で、何やってうまくいったか聞いたんです。そしたらさっきの話と一緒で、結局まず地道に相見積をとったりとか当たり前のことをただちゃんとやるだけなんです。でも、それがとにかくできてなかったんですっていうのは、2人が異口同音に同じことを言いました。 30代前半でもコンサルでガリガリ働いてたんで、地味なところガチガチやったら、ちゃんと会社が伸びるっていうサンプルを見てきたんです。20代、30代は大企業で仕事の仕方を学ぶというのは、ちゃんとレバレッジがかかるんだ、っていうのを、知り合いで見てきたもんですから、そこに投資をして伸ばしていけると思っています。

小林
ありがとうございます。続いて法田さん、お願いできますでしょうか。

法田
 ベンチャーキャピタル投資っていうのは人への投資で、経営者を見てその人に投資をする。だから、極端なこと言うと、事業が変わったとしても、この人だったらやりきるだろうな、なんとかして成功するだろうなという人への投資なんですね。
 一方で、バイアウト投資は、事業への投資なんです。安定してる事業を見極めて、じゃあそこにどういう経営者を持ってきたらいいのかなって考えるのがバイアウト投資です。だから、正直、 サーチファンドについては、最初の頃は、ちょっと懐疑的でした。うまくいくのかな。人ありきなのか、事業ありきなのか、どっちかよくわかんなくて。
 でも、だんだんこなれてきて、やっぱり、まずは人ありきなんですよね。この人だったらなんかやるだろうっていう、人ありきで入って、その後 どういう事業を選ぶのかっていうのは、横で見ていられるし、もっと言うと、買う事業に文句があるなら買収の際に出資をしなければいいんで、選んだ人がどんな事業を選んで投資するのかっていうところは、ある程度リスクヘッジができます。 あとは、こうしたバイアウト投資に100%コミットするのではなく、少額で分散投資できるっていうのは、貴重な投資機会かなとも思ってます、我々が丸ごと抱えないといけないとなるとそれはそれでリスク。 だけど、そうじゃなくて、分散してせいぜい10%、15%だよ、っていうと、運用としてもそれはそれでありかなと思いました。なんか右脳と左脳と両方を働かせながらする投資だってことと、あとは一緒に苦労したいなとか、一緒にやりたいなっていうのもあって始めたっていう感じです。

小林
 ありがとうございます。まさに私はIESEでサーチファンドの勉強してたんですけど、このサーチファンドというアセットクラスをどう捉えるかっていうのはよく議論になっていて、よく言われるのが VCと、プライベートエクイティ等バイアウト系の投資の中間に位置する、どっちの要素もあると言われています。寺田さんに改めてお伺いしたいんですけど、その観点で、VCとしてですね、サーチャーと起業家に目利きをして投資するしないの判断をされてると思うんですけど、サーチファンドってところで言うとどういったところを見ているのか、それが普通の起業家と違うのかっていうところを教えていただけますか。

寺田
 うち、結構シードラウンドでの投資もやるんですが、シードとなるとやっぱ事業がまだないことがあるんで、人への投資が8割、9割っていうところは近いかなと思うんですよ。僕、サーチファンドはまだわかってなくて、逆にお伺いしたいんですが、 本当に人だけ、事業も決まってなかったとして、ステップアップするオプションはこっちで持つにしても本当にどこを見ればいいのか?MBA2年間、良くも悪くも事業から離れてる人にどう張っていくのか。最後は人なんだっていうのはそうなんですが、嶋津さんは20人、多分膨大な中から選んだ20人に投資をなさったと思うんで、そこどうなってるか逆にヒントが欲しいと思います。

嶋津
 それがサーチファンドのいいところで、ものすごいクライテリアがはっきりとあるじゃないですか。やっぱりそこがこのビジネスアイデアに近しいところなのかなとは思っていて、そのクライテリアをしっかり理解して、そこを遂行していけるかどうかっていうの。
 そしてあれですね、メンタルの強さとエネルギー。何回もその人とお話しするしかそれを確認する方法はないと思うんですけど、結構その人によって持って生まれたエネルギーの量ってあるんじゃないかなって最近思い至っていて。 もうそこはやっぱりこう、過去の経歴を聞くとか 学歴を聞くとか、ケーススタディをするということではなくて、未来のことを話し合う、その人と何回も話してみるしかないんじゃないかなと思います。ごめんなさいね、なんかすごいゆるっとして。

冨山
でも、あれですよ、サーチファンドに飛び込もうっていう、このジャーニーに飛び出そうっていうこと自体が、そうした試験をクリアするような能力があるんです。結構これハードル高いもんね。

嶋津
本当にその通りですね。サーチファンドって、広く募集をかけるというよりはなんかこっそりやってるようなところもあるので、たどり着いていただいて サーチファンドやりたいって言ってくださるような方は、そもそもそこはクリアされてる方が多いと思います。あと、IESEだとトラディショナル型でやりたい方多いのかなって思うんですけど、トラデショナル型で、海外の投資家からすでに何件か資金調達をしてから話しに来てくださる方いらっしゃいますけど、それができてるっていうのは、まさにさっきの「行動は嘘つかない」、だと思います。

小林
 ありがとうございます。 ちょっとトラディショナル型の話が出たので、その話でちょっと続けていきたいんですけど、今、私は日本で今資金調達をしていて、もうすでに海外からも資金調達は一部してるんですけど、日本の方にはおそらく100回以上振られてるんですよ。そういった中で、もちろん僕のつたなさもあると思うんですけど、まだまだサーチファンドへの理解や投資家のその絶対数とか足りないなっていうのは私自身感じています。それを冨山さんにお伺いしたいんですけど、例えばIGPIがアクセラレーター型でもいいですし、もしくはこのトラディショナル型に投資をする、そういったことって考えられるんですか。

冨山
 そういったことは今の事業スコープに入ってないけど、多分選択肢としては出てくる。 要は、さっきの分散じゃないけど、機会を広げようと思えばこのモデルっていいんですよね。なので、ちょっと今、なんか200パーセント忙しい状態なんですが、確実に将来的なスコープに入る。皆さん、コールドメールとコールドコールで 探し回るわけでしょ。そこには結構惹かれましたね。

小林
サーチファンドのこの話をしていく時に、よく社会性っていうところが強調されるんですけども、エグジットのところはよく質問を受けるポイントでして、嶋津さんにちょっとお伺いしたくて、例えば プライベートエクイティーの場合ですと、実際5年以内で売り抜けるってケースが多く、サーチファンドの場合だと、海外では4年から10年ぐらいで割と中長期的に持つというのが特徴としてあるります。日本において今後サーチファンドをやっていく時に、そのエグジットってどういう風に考えられてますか。

嶋津
まだ1件も例がないので、ちょっと確定的なことは言えないんですけど、期間としては、我々は5から7年くらいっていうのは思っているので、一般的な期間より少し長いのかなっていうことと、投資しているサーチャーさん方がそのまま残ってずっと経営したいっていう方が多いので、 会社もうまくいっていて、従業員の方も経営者とうまくやってくださってて、経営者も残りたいっていう状況なのであれば、それを引き離す必要もないですから、できるだけその経営者が残って、さらに成長が目指せる形でのエグジットをしたい。そうなってくると資金の入れ替えってことだけなので、ファンドからファンドへっていう形もあるのかなと。

小林
私自身がサーチャーとしてやっていくんですけど、その会社を愛して、 もう一生やってもいいっていう風に思えればいいと思うんですけど、 一方でそう思えない可能性もあると思うんですね。そうすると、5年から7年くらいは経営するけどそうやってエグジットできるっていうケースも出てくると、サーチャーにとってのハードルも下がるのかなっていうこと思ってます。そういった意味で、こういうIGPIさんのやられている永久保有型ですね、そういったところが売り先候補になるっていう、そういった取り組みをサーチファンドと一緒にこう見れればすごい面白いと思いました。

「サーチファンドを日本で広めていくためには」

小林
最後に今後サーチファンドを広げていくためには何が課題としてあって、どうしていけばいいのかというところですね。まず嶋津さんからコメントいただけますでしょうか。

嶋津
爆発的に伸ばしていくって意味では、やっぱり誰もが見て理解できる成功例が必要だなとは思ってまして。1つそれが出てくると、 サーチャーやりたい人にも具体的に何がやりたいのかっていうのがわかる。で、投資家にもああいうやつやるのねっていうのがわかる。
で、オーナーさん側から見ても、ああいう風に伸ばしてもらえる可能性があるなっていう風に分かる。で、参加者がどんどん増えてくると思うので、やっぱりみんなから見てわかりやすい成功例を作っていくっていうのが大事かなと思ってます。

冨山
 これは、1つのエコシステムを作っていく話なので、ある種じわじわじわっとやっていって、ロールモデルケースが生まれてきて、結果そこにチャレンジしたい人が増えて、増えればまた成功例が増えてくるんですね。やはり、丁寧に 案件を仕上げること、やる人もだし、お金をもつひとも丁寧に案件を積み上げることが今のところ大事で、変にブームになっちゃうとバブルがはじけちゃう。そうすると、なあなあで終わっちゃう。私は、特にこのモデルは0から1というより 1から5のモデルなんで、ソリッドにちゃんとやっていけば、必ずモデルとして確立できると思います。頑張ってコールドメールと、コールドコールすれば、紹介案件もいっぱい来て多分投資先が見つかると思うんで、それをひとつひとつ丁寧に仕上げていって、 さっき言われたようなロールモデルが長期に生まれてくると、多分5年後から10年後、15年かわからないけどもこれがすごく普通のことになる。
 僕も25年前に東京大学とスタートアップ打ち上げにかかわった時は、全然今の状況はイメージなかったですね。10年、15年、20年と努力を続けることによって、やっぱり世界は変わってくる。なので、その時に、皆さんに 「俺たちがはじめたんだぜ」と振り返っていただけると、賞を取った気分になれる。今だったらまだそういう世代なんで、皆さん、ぜひとも取り組んでください。

法田
 私はあんまり甘いことを言うつもりもなくて。中小のバイアウトファンドが、25年前にアドバンテッジパートナーズから始まって、バイアウトファンドで投資した先がこの25年で2000社、これからまた増えてくるかな、ようやくテイクオフするかなというぐらいのところなんですが、まだ、「ファンドはNG」っていうオーナーがいっぱいいるんですよ。 ファンドでそんな感じだからサーチファンドって言っても壁は厚い。だけど、その壁を乗り越えたいっていう人がきっと成功するんだと思っています。
 もうちょっと嫌なこと言うと、なんかみんなの熱さを感じれば感じるほど、ちょっと天邪鬼なとこもあるんで、 経営者になりたいっていう、自分の夢だけをあんまり押し付けないようにしてほしいです。それは皆さんの夢であるだけで、 皆さんがこれからポンと放り込まれる、投資先の中小企業の社員にしたら、私たちはあなたの夢のために働くわけじゃないってことです。経営者になって社員みんなの夢をどう叶えてあげるか、経営者になって何をしたいのかっていうところまで考えて、ぜひ経営者を目指してもらいたいなって思います。そういう人や、そういうサーチファンドがいっぱい増えてくれば、きっと変わってくると思います。

寺田
 今までと違う話で言うと、 だからやっぱサーチサンドって名前ちょっとよくないんじゃないかなと思ってて。めちゃめちゃ提供者目線じゃないですか。サーチする、こっちが探すって、全部こちら側の話であって、さっきの事業承継の話でなんとかしてほしいっていうオーナーのこと考えてないし。でね、ファンドっていう言葉に対して毛嫌いされる。だからもうサーチファンド、本当いいところは、先にお金が来るんじゃなくて、そのオーナーと人とのマッチングがあってからスタートするってのがM&A仲介だったり、普通のこれまでのいわゆるPEと違う、そこがサーチファンドのいいところなのに、それが伝わんなくて、やっぱりファンドでしょってなるのは、 海外でもそれでマーケットが立ち上がってればいいのかもしれませんけど、めちゃめちゃ提供者目線なんじゃないかな。そこをちゃんと変えてやるだけでも、 ちゃんと事業を残したいってちゃんといるはずだし、経営者にチャレンジしたいっていう人はこれから出てくるだろうし。

冨山
ファンドに対する抵抗感って日本社会あるんですよね、特にああいう古い産業では。

嶋津
オーナーさんのとこに行くときに、「こんにちは、サーチファンドです」ってあんまり多分言わないので、 こんにちは、クロサワです、マツモトです、という売り込みなんで、その時に深くサーチファンドのモデルは説明多分しなくていいし、 僕クロサワです、僕が社長やります、こうやって伸ばします、頑張ります、パトロンいるんでお金は大丈夫です、でいいんですよ。だからそこ変えなくていいんじゃないかなに思います。一方で、ベンチャーがスタートアップになったみたいな格好を考えると、どっかで勝手に名前が変わってるって未来もあるかもしれないですね。アントレ承継みたいに。

冨山
 でもそれはね、皆さんが作っていく歴史なので、そういう名称とか、 バズワードって、後からついてくるんですよね。大体最初はみんなわけもからず、いろんなことをやっていく。とにかく私のメッセージは、もし皆さんが意思やエネルギーがあるとご自分でお思いだったら、とにかく失敗してもいいから飛び込むべきだと僕は思う。 僕も結構失敗してます。で、その時わかったんです。人の心を掴むことが。でもそれはね、こういうおじさんに口で言われてもわかんないの。一応今日聞かれたから喋ったけどね。
 でも、人のハートを掴むことがいかに難しく、どうやったら掴めるかということは、やらなきゃわかんない。向いてるか向いてないかもやらなきゃわかんない。下手な人はいます。どうしても。その人の個性の問題だから。 めちゃめちゃ頭良くて、めっちゃ理路整然と計画は作れるし、理路整然と物事を考えるんだけど。、そういう世界でコミュニケーションできない人っているんですよ。その言語を持ってないの。でもやってみないとわからないから。だから、自分が意思があって、チャンスがあったら、少なくとも絶対チャレンジするべきなんですよ。それで、その瞬間失敗してもスティーブジョブスの「Connecting the dots」じゃないけど、必ず、そのうち絶対意味を持ってくるんです。これは保証します。

小林
皆様、どうもありがとうございました。

1投資家目線でのサーチファンド起業 2日本におけるサーチファンド投資

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