2024年4月に開催されたIESE Japan サーチファンドフォーラムでの投資家パネルディスカッションとなります。
サーチファンド(事業承継による起業の一形態)についてはこちらのページ をご覧ください。
登壇者紹介
小林
皆さん、こんばんは。IESEの小林です。モデレータを務めさせていただきます。本パネルでは「日本におけるサーチファンドの未来と」いうテーマで、「投資家目線で今後サーチファンドはどう発展していくのか」というところに迫っていきたいなと思っています。まず皆さんに簡単に自己紹介いただいて、どういう経緯でここにいるのかというのを簡単にお話いただければと思います。
寺田
皆さんこんばんは。インクルージョンジャパン(VC)の寺田と申します。
インクルージョンジャパンは大企業とかで頑張ってらっしゃる腕利きの人を巻き込んで投資していくっていうのが昔から得意技で、嶋津さんに4年前か5年前かにサーチファンドっていう仕組み教えていただいて、これいいなと思って。スタートアップ起業となると、大企業出身で腕利きであったとしても、他人じゃ見えないものが見えてるような、そういう人じゃないといけないのかなというところがあるのですが、一方サーチファンドの仕組みだともう少しロジカルで、うちの強み結構使っていけるんじゃないかな。
0-1で起業したい人(スタートアップ)も1-10で起業したい人(サーチファンド)も、我々VCでそそのかしてチャレンジしていくっていうのを皆さんと一緒にやっていけるかな、そんな思いで今日、 僕も壇上に立たせていただきます。
法田
法田といいます。よろしくお願いいたします。私は最初、銀行から転職してベンチャーキャピタルに入って、そこから社内ベンチャーという形で、日本プライベートエクイティという会社を24年前に立ち上げ、ずっと中小企業にこだわってやってきて今に至っています。もちろん会社の看板はあったにせよ、親会社はお金は自分たちで集めてこいっていうスタンスだったんで、ずっと自分たちでお金集める苦労をして、いい案件探す苦労もして、エグジットも大変な思いをして、っていうことをやってきたので、それを1人でやるトラディショナル型のサーチャーってすごいなって。だから、一緒に苦労するぐらいのつもりで応援するということで、今ここにいます。よろしくお願いします。
冨山
僕も同じ感想を持っていて、僕も、30年ぐらい前に一通りやりました。案件探し、実際投資の交渉でドキュメンテーション、アセスメントして、契約して、、 IGPIを作ったところでやっと完結。確かにスタートアップって、ある種の偶然がないときついんですよね。確率的に、ロジカルにものが進まないんだけど、サーチファンドってア・プリオリにすすむ世界だけど、起業しないと経験できないようなことを全部経験できて、人をつくるという上でこんないいものはないなと思ったのと、ちゃんと金融商品として回っているというのは、これ大事なんですよね。
嶋津
ジャパンサーチファンドアクセラレーター、JaSFAの嶋津と申します。私は最初コンサルからキャリアを始めまして、スタンフォードで最初サーチファンドを学んだんですけども、日本に絶対これ持って帰ってきたいって思ったんですが、 どうやったらいいのかわからない。スタートアップ起業をしたこともないし、コンサルだったんで、投資家でもないし、 中小企業の経営をしたこともないし、何もわからないっていう中で、冨山さんに応援していただいて、IESEさんとも一緒に組んでいただいてカンファレンスをやらせていただいたんですね。あれが起爆剤になって、サーチファンドを知っていただくきっかけにもなったと思いますし、今ここでこうやって話せているのも、きちんとファンドも含めて こうやって事業としてできているのも、イベントがあったおかげが大きいなという風に思ってます。
「投資家目線でのサーチファンド起業とは?」
小林
皆さん、ありがとうございます。それでは早速テーマ行きたいと思います。 まず、テーマ1つ目なんですけど、サーチファンド起業のいい点を改めて投資家目線で語っていただきたいなと思いまして。で、今日ちょっとキーワードを用意してます。
①大企業人材の活用、②1を5にする起業、③事業承継問題です。
①大企業人材の活用
小林
まず、この①大企業人材の活用というところで話を進めていきたいんですが、 先ほど冨山さんがおっしゃっていた、日本開国から150年たった今も日本人は大企業が大好きいうことで、私も商社出身で、もう辞めて今からサーチファンドをやるんですけど、まさに10年ちょっと大企業で過ごしてしまった人間です。やはり大企業はなかなか年功序列の色合いがまだ強く、そういった中で、起業家マインドを持った人材がなかなかやりたいことができないとか、経営ポジションに出してもらえないというのは問題だと思っていまして、そういった意味で、サーチファンドはめちゃくちゃ意義があるなということを私自身感じています。冨山さん、この大企業人材の活用という点についてはいかがでしょうか。
冨山
会社って結局は人なんですけど、 会社が大きくなればなるほど人は騒がなく(コンフリクトを起こして新しいことを始めようとしなく)なるんですよ。要するに人が育ちにくい環境になる。 せっかくポテンシャルがある人も、半沢直樹的な切ったはったみたいなことをずっとやってるってのは極めて精神衛生的ではないので騒がなくなる。
一方で、できるやつほど、何かをやろうとするので、当然周囲とぶつかるんで大企業の中では大体偉くならない。
1つの例で言ううと、やる気のある人ほど、例えばなんかテレビ番組なんか作ってもしょうがないな、これからnetflixでやりません?とかって言い出しちゃうわけ。みんなで一生懸命コストダウンしてなんとかしようとしてるのに、そういう人って嫌ですよね。なんだけど、そういう人間ってね、ガッツがあるんで、多分飛び出していったら成功するタイプなんです。
どれも構造的な宿命なので、皆さん会社が変わると思わないでください。これは変わりません。 僕がある会社の経営再建をやってる時に、当時30代の連中はね、同じように「自分たちが50歳になったら変わる!」って言ってました。変わりません。今度は今の30代は、当時の30代だった今の50代に押さえつけられてる。そういうもんなんです。構造だから。そういった人はどんどん飛び出さないと、皆さんの未来もつまらないものになっちゃう。
小林
ありがとうございます。嶋津さんにも投げかけたいと思っていまして、これまで、JaSFAとして何人ぐらいのサーチャーを支援してきたんでしょうか。
嶋津
JaSFAとしてに加えて、個人としての支援も含めちゃうと、多分20人ぐらいですかね。大企業出身者が8、9割じゃないでしょうか。彼らのモチベーションはやっぱり経営者になりたい。理由は様々ですけど、とはいえ、経営者になりたいっていうところは共通してあるんだと思います。
冨山
今から5年後、10年後、20年後、私が大企業でまたトップ人事をやったとするでしょ、こういうの(サーチファンド)をやった人を経営陣に選ぶね。なんか経営企画とかよくある出世コース出身の人は絶対選ばないですよ。それは保証します。
嶋津
本当にそうだと思っていて、なんか、その大企業と中小企業で世界を分けない、 橋でつなぐっていうイメージでやってる部分があって。1回大企業に新卒で入った人たちも中小企業に出てこれるし、 中小企業で頑張った人たちも大企業に戻っていけるし、そこの人材の流動化っていうのはこの私たちがやっているJSFP (ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム)では1つ大きく掲げてることとしてあげてます。
小林
では、そういった、大企業でモヤモヤしている人材が、JSPFというプラットフォームを使って機会を得られていると?
嶋津
そこなんですけど、それは私すごく異議があって、例えば(サーチ成功した)松本さんも黒澤さんもそのまま大企業にいれば偉くなったと思うし、別に前職が嫌いだったりつまんなかったりしたわけじゃないですよね。
でも、大企業でモヤモヤしている人の逃げ道ではダメなんですよ。看板があって、予算があって、優秀な人たちに囲まれて、そこで実力が発揮できない人は多分中小企業に行ったらもっと苦労するので。お金もない、あれなってない、これもなってない、機械もない、システムいれられないってなっちゃう。そうじゃない、大企業でもめちゃくちゃ楽しいんだけど、やりたいことがありすぎて、なんか体が10個あればいいのにって思ってるような人に向いてると思うんですよね。
②1を5にする起業
小林
ありがとうございます。それで言うと、例えばそういった、起業家マインドを持ってバリバリやってるぜって人も結構いると思うんですけど、そういう人の中には、ゼロイチが向いてる人もいると思いますし、そうではなくて、1を5にする、そういった起業が向いてる人がいると思いまして、傾向としてはどうなんでしょう。大企業の人材としては、 私個人的な意見だと、1を5にするとか、いわゆるその改良改善型イノベーションを起こす、そっちの方が得意な人が多いようなイメージがあるんですけど、その点いかがでしょう。
嶋津
そうですね、大企業だからというよりは、なんか日本人なのか人類全体なのかわかんないですけど、おっしゃる通り1-5の方が向いてる人の方が 割合としては多いんじゃないですかね。でも、その0-1、1-5 で、さらにある程度大きくなった会社を伸ばしていって、大きな会社を安定経営して、で、あとはトランスフォーメーションしたり再生したりって、いろんなフェーズでこう経営って分かれてると思うので、その中のこのグロース経営(1-5)ですよね、まさに。 このグロースっていうところが向いてる人は一定数いる。で、0-1の起業が向いてる人ってのは結構レアってことなんじゃないですかね。
③事業承継問題
小林
ありがとうございます。今度はちょっと、マクロな視点で事業承継問題っていうところ を考えるとですね、2025年問題と言われてますが、そういった意味においても、このサーチファンドが非常に果たす意義ってあるのかなと思ってまして。
冨山
ちょっと今、自分がやってることの体験で言っちゃうと、2020年の12月に日本共創プラットフォーム(JPiX)という投資・事業経営会社を開始したんですよ。
めちゃめちゃ事業承継の相談が来て、割といい会社が来ます。いい会社というのは2通りで、一つは優秀な経営者がいて、その人はそろそろいい年なんで、自分のやってることを頭のいい人たちにちゃんと形式化して承継したいっていうこと。あともう一つは、すごく素晴らしいロケーションの旅館、ホテルとかの事業体なんだけど、後継者がいないパターンとかですね。そういう本当にいい事業をやってる事業体で、本当にこの事業を世の中に広めたいとか、そこで世の中に対して役に立ちたいっていう人は、そんなに買収のプライスにこだわらない。それよりも、誰がこの事業体をほぼエンドレスに経営してくれるのかということに、ものすごくこだわります。
なので、そういった意味で、キテる、このサーチファンドっていうモデル。そうすると、どれだけ説得力持っているかということです。「経営経験のないやつに経営できますか?」というのはすごくナンセンスな問いで、ほとんどの大企業の社長は、生まれて初めて社長になります。それで誰も何も言わないでしょ。だから逆に言っうと、これからは、むしろ社長経験のある人を社長にしたいと考えたら、こういうこと(サーチファンド)をやってる人から選ぶんじゃないの。
「中小企業で活躍できる人材とは?」
小林
ありがとうございます。テーマ2としてですね、中小企業ではどんな人がこう活躍できるのかっていうところに迫っていきたいと思いまして。サーチャーの平均年齢は中央値は32歳と言われています。私、今私は30代半ばで、資金調達でいろんな投資家の方とお話するんですけど、「お前経営したことないだろう、何ができるんや」と言われたこともありまして。私の理解では、プライベートエクイティはどちらかというと40代であったり50代の方が経営をするケースが多いと思うんですけど、30代、しかも未経験者やるっていうところ、その辺りどう見られてますか。
法田
バイアウト投資で中小企業をみていたときは、リタイヤする人が50代半ばから60代で、我々が送り込む経営者も60前とか55歳とか、引退する経営者とほぼ同じ年齢で入れ替わる感じでした。
それは、やっぱり、子どもが大学出て社会人になったとか、手が離れたので地方に単身赴任できるようになったとか、経営にコミットできる環境が揃う年齢だったからです。逆に40代、50代で子どもはまだ学生ですとか、手が掛かりますとかだと動けない。だから、最近でこそ40代の経営者を送り込むようになりましたけれど、こてこての中小企業に30代の経営者を送るっていうのはあんまり考えられないことで、今でも正直考えづらいところはあります。だけど、そういう前提を受け入れてくれるオーナー経営者が出てきたし、あとは「1人じゃないんだよ、チームなんだよ」っていうことを言っていくと、だんだん変わってきたかなっていう感じです。
小林
そういった意味で、こうサーチャー自身が若くても、投資家目線でいえば問題なさそう、というお話だったと思うんですが、逆に会社、売る側、オーナー側が30代の若造に会社を売ってくれるのかが現実問題としてあると思っているのですが、JSFPとしてそういったハードルはなかったんでしょうか。
嶋津
もうオーナーさんって本当にいろんな方いらっしゃるのですが、結構受け入れてくださる方多いなっていう印象があって。で、なんでかって言うと、 自分が若かった頃を思い出したとか、自分が経営者になった頃とか、自分がこの会社を継いだ頃かっていうことを思ったり。 あとは、お子さんのいない方とかだと、「息子に継ぐってこういうことなのかな。もし自分に息子がいたら君ぐらいの年だったのかな。」みたいなところとか。あと、「婿養子みたいなもんだよね。 これは戸籍を介さない婿養子だね」っていう風に捉えていただいたりすると、意外とこの年齢っていうのはしっくり来ていただける方も多いかなと思います。
30代後半から40代前半、36、7から42ぐらいがボリュームゾーンかな。MBA出て2年後ぐらいとかになると、ちょうどそのぐらいの30代後半ですよね。サーチファンドやりたいので サーチャーになる前に1回コンサルで修行してきますとか、1回ちょっと社長室みたいなところで経営企画やってきますとか言ってくださる方いるんですけど、それはもったいないなって思うかもしれない。
小林
ありがとうございます。 そして、この最後のテーマのバリューアップってところでちょっとお伺いしたいと思ってまして、中小企業は様々な課題があると思うんですけど、実際こういった20代、30代の若いサーチャーが、例えば中小企業の社長やって、 バリューアップをしていこうっていう時にどういったことができるんでしょうか。
冨山
まず入り口の問題があって、やっぱりハートを掴むんですよ、これまず絶対条件。割とね、高学歴系、特にコンサル系が間違いやすいのは、組織を機械のように考えるんですよ。メカニズムもちゃんと繋がっていて、スイッチをこっちにする。ハンドル右に切ったら右に動いて、左に切ったら左に動いて、アクセル踏んだら前に進むと思ってる。
なんだけど、大組織だってそうじゃないし、こういうローカルなオーナー会社というのは、全くそうじゃなくて、なんか有機的なんです。 そこをまず把握する。こいつ嫌いだと思われた瞬間からノーインフルエンスになっちゃう。
例えば20人の会社でもね、その20人の人たちをひとつひとつ行動を監視して、ひとつずつ指示が出せないから、 基本的にもう間接統治になります、付き合いというのは。で、そんな時に、人事とかお金とか、そういうハードパワーでは実は経営はできないんです、基本的には。基本はソフトパワー。 ソフトパワーのほとんどは好き嫌いできまっちゃう。だからまずは、ハートを掴むことが絶対条件。その上で、正しく改善改良を一生懸命やる。大体改善改良となると、多かれ少なかれ従来と違うことをやることになる。
さっきの話になるけど、みんな忙しくやりたくないんだよね、はっきり言って。 最後は自分でやんなきゃ。自分でやってみせる。DXもね、自分がまずやんなきゃダメなんですよ。要するに、人間ってね、口で嘘つけるけど行動では嘘をつけない。そういったことを、めちゃめちゃ自分に負荷をかけて最初の何年間かやるしかないんですよ。 2、3年やって、やっとハートがつかめてきてる感覚があります。僕らのある会社での経験で言うと、ハートを掴めたのは東日本大震災のとき。あの時こっちは体張ってあの難局を乗り越えたんですよ。で、やっとみんな本当に信用しはじめた。こいつらは要するに腹くくってやるんだって。そういう行動は嘘をつけない。
後編では、日本においてどうサーチファンド起業を浸透させていくかについて皆様の意見を伺いしました。(↓)