MBAについて
Q. MBA留学を考えられた当時の経緯や、なぜIESEを選ばれたかについて、覚えておられる限りで教えてください。
私がIESEに留学したのは2009年から2011年の2年間です。留学を志した原体験は幼少期に遡ります。私は1980年代の小学校時代をアメリカで過ごした後、中学生以降を日本で過ごしました。日本が世界で最も成長著しかった時代からバブル崩壊後の変遷を見つつ、1999年に社会人になりました。
最初の会社は日本IBMでしたが、外資系企業による日本の製造業の買収が盛んに行われ、PMIプロジェクトに関わる中、グローバル化が加速する世界で、相対的な日本の競争力低下の課題感を持つ一方、日本本来の持ち味が十分生かせていない点も課題認識を持ちました。本当の意味でグローバルな組織はどうあるべきか?グローバル化社会の中で日本企業は如何に競争優位を確率できるか?本当の意味でグローバルリーダーになるためには?色々な課題意識がありましたが、その課題に対して当時自らのリスクテイクで取れたアクションはMBA留学でした。
IESEを選んだ理由ですが、学校選びの時のクライテリアとして、一つ目は「多様性」、つまり米国校のようなアメリカ中心の価値観でなく、欧州・南米等世界全体をフラットに見られる学校が良いと思ったのと、二つ目に、自分自身は米国に住んだことがあるので、米国以外で視野を広げられる環境に身を置きたいと考えました。特にラテンのカルチャーは経験がなかったので興味を惹かれました。三つめはIESEは社会貢献・人格教育に重きを置いていたことです。もちろん、The Economist誌や、Finantial Times誌等で世界ビジネススクールランキングで当時世界第1位になったことで、世界中から多様なバックグラウンドの学生が集まり切磋琢磨できる環境ということも、IESEの大きな魅力でもありました。
>(インタビュアー)私の学年、Class of 2025では出身国は50か国以上、チームメイトの国籍も全員違いましたが、当時からそうだったのでしょうか?
はい。当時も50数か国から来ていましたし、チームメイト8名の国籍も全員異なり、スペイン、米国、日本、韓国、イタリア、カナダ、クロアチア、ロシアの出身のチームでした。
Q.ご自身のご経験において、ITバックグランド×MBAというキャリアは何か影響を与えておられますか?また、現職のエネルギー業界ではMBAは活きておられますでしょうか?
『キャリアは足し算ではなく、掛け算』だと考えています。例えば、私の場合はデジタル × ビジネス企画 × グローバルだったり、外資系と日系、異業種での経験、複数地域での経験など、単なる経験の積み上げ(足し算)では見えづらい自身の特長も、掛け算として如何に差別化できるのかをその時々の置かれた環境で考えてきたということでしょうか。
今は米国でエネルギー業界に関わっている中で、単一地域、単一市場しか見えていなければ活かせる経験や人脈は限られてしまいますが、スペインでビジネススクールに通い、教授や世界各国にアラムナイネットワークの繋がりがあることは、間接的に活かされていると感じます。
Q. IESEでの経験や学びが、海外勤務でどのように役立っていますか?
一つは海外での生活を自分自身で立ち上げた経験です。当時はリーマン・ショック後で会社の留学制度も凍結、自分自身のリスクで自費留学をしました。日本以外の多くの留学生にとっては当たり前のことではありますが、一個人としてビザ、住宅、銀行、保険など全てをスペイン語しか通じない国で行った経験から比べれば、英語の通じる国で会社の多大なる支援を頂く海外駐在は、非常に恵まれていると感じます。
IESEでのもう一つの学びはリーダーシップです。仕事の同僚は、組織上・業務上の役割責任を活用すればマネジメントをするベースは揃っていますが、ビジネススクールの学生同士の場合はそうはいきません。自分に自信を持ったメンバーが世界各国から終結している完全にフラットな世界では、自分が何の価値が提供できるか、相手への影響力をどう築き上げるかは非常に重要で、インフォーマルな影響力を形成することに試行錯誤した経験は、今に役立っていると言えます。
Q.MBAプログラム中に最も影響を受けた出来事は何ですか?
生活面では、役所や病院などの手続きが、良し悪しではなく、日本と同じ期待値では適切に物事は進まないと痛感したことです。過去にいた職場での海外事業展開でも、日本の商習慣を海外に持ち込もうとした結果、環境が異なれば前提条件が変わるので上手く行かない、ということは良くありましたが、新しい土地の常識に合わせる柔軟性を学びました。
学業面では、IESEは2年間で700社のケーススタディ(実際の事例)を学ぶカリキュラムでしたが、ケースメソッドで感じたのは、答えは必ずしも1つでないということです。ケースについて経営者になったつもりでどうすべきか、色々議論をすると思います。時に意見は色々出て結論が分からず授業が終わることも多いかと思いますが、これはケースメソッドの狙いで、「正解は1つではない」ということを伝えたいことに由来するのかと思います。
Q. 「日本の常識を海外に持ち込んでも上手くいかない」という点について、確かに、例えばユニクロ、無印良品のように、ヨーロッパで成功している日本の企業はありますが、打ち出し方が日本と全然違いますね。日本だとお値打ち価格のブランドですが、こちらでは日本文化や価値観を体現したプレミアムなブランドとして、日本の数倍の価格で売られて、それでも客足が絶えません。
世界的な日本食ブームになって久しいですが、ヒューストンでは、日本食品は中国・韓国の製品と一緒にアジアスーパーみたいなところで手に入るので便利な時代です。但し、円安もあって同じ商品が日本の3倍くらいの価格で売られていることもありますが、現地では非常に繁盛している印象です。
一方で、日本の100円ショップがヒューストンにも出てきていて、日本の顧客に売る品質ものを当地では安い価格帯で販売していますが、逆に日本企業も土地に応じてダイナミックなプライシングを行っても良いのでは、と感じる次第です。
若い世代へのアドバイス
Q.JERAだけでなく、多くの伝統的な日本の大企業で起こっていることですが、これまで数年おきのジョブローテーション等を通してジェネラリスト教育を受けてきた中で、これからは専門性やジョブ型雇用が叫ばれるようになり、自身のキャリアについて悩んでいる若手・中堅の社会人は多いと思います。そうした若い世代へのアドバイスが有れば教えてください。
MBAの授業で「競争戦略」の講座を学ばれていると思いますが、根本の考え方は、企業でも、個人のキャリアでも同じだと考えます。つまり、市場ニーズに対して、競合と自己を差別化し、競争優位性を確立することです。この時の軸は「どの領域・地域や場所」(Where to play?)で「どう戦うか?」(How to win?)です。偉そうなことは言えませんが、先ほど申し上げたようにキャリアは掛け算で、何と何を掛け合わせていかに差別化を図るかは、企業も個人も同じ論点かと思います。
また、日本人の奥ゆかしさもあると思いますが、発信力、言い換えればブランディング、マーケティングは日本企業や日本人として更に強化していける領域と考えます。従来の日本の組織ではあまり強く求められてこなかった経緯があったかと思いますが、却って誤解を生んでしまうこともあったかと思いますので、世の中に対して発信していく姿勢は大切かと思います。
ありがとうございました。
インタビュアー:
尾島 泰介:NTTコミュニケーションズで約10年勤務し、マーケティングやプレセールス・エンジニアリング等に従事。社費留学。東京大学経済学部卒(2013年)。
岩野 隆博:中部電力、JERAで約12年勤務。海外再エネ開発や電力設備調達等に従事。社費留学。国際基督教大学教養学部卒(2012年)
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