事業について
Q. 上記のようなB2Bのマーケティングを各国の商習慣や地理的条件も異なるグローバルで、となるとさらに何段階も難易度が上がるように思われます。どのように日本からコントロールなさってこられた(あるいは権限委譲なさってこられた)のでしょうか?
まずざっくりした歴史的な話をしますと、1980年代は日本人が現地で陣頭指揮を、90年代から本部長以上を現地採用スタッフにするなど権限移譲、2000年代から情報通信の進化で世界も小さくなってきたし、統一的な施策で競争力を高めたいので本社に少し権限戻す、というような経緯をたどってきました。
現在はマトリックス組織の形を取っていて、縦のラインとして地域毎に決定権限と、経営トップに現地採用スタッフを残しP/Lの責任は持たせつつ、総務・財務・マーケティングなどの機能別組織は本社に統括を置き、各地域がそこにレポートをして横串を通す形になっています。
建機というのは前述のとおり地域特性の強い領域なので、ブランドマネジメント等、コアにある考え方は世界共通にしていますが、その同じ考え方の下でどういう活動をするか、どういう成果をコミットして実行するかはそれぞれの地域に委ねられています。
例えばブランドマネジメント活動は、本社メンバー中心で考えたのは最初の1年だけで、あとは世界の主要な五地域のマーケティング組織を巻き込んで、「考えに異論はないよね?じゃあじゃあこういうツールを作ろう」という風に一緒に進めてきました。
Q. ビジネススクールと提携したエグゼクティブ教育は、どのようなコンセプトと期待で始められたのでしょうか?
今回のIESEでのエグゼクティブ教育は、コマツのデジタル戦略を立てるにあたって、本社だけが考えるのではなく、現場も巻き込むために行いました。コマツはいわゆるデジタイゼーションはできているが、デジタルトランスフォーメーションはできるか?例えば、代理店がいるのにテスラのD2C(Direct to consumer、B2B、B2Bによらず代理店や外部ECサイトを通さない販売形態)のような販売はありうるのか?といった、まだ世の中にないソリューションを考えるために集まりました。
デジタルトランスフォーメーションは日本が遅れてる分野だし、色んな地域が集まって、アカデミアの知見も入れて議論しようというのがコンセプトでした。メーカーの本社がこれをやれ、と押し付けるのと、各地域や代理店も一緒に勉強して一緒に作ろうというのでは全然違います。
もう一つの目的として、コマツのミドルマネジメントの育成があります。パートナーである代理店のトップは起業家、経営者です。コマツのマネージャーがその人達と同じ目線で話せるように、代理店トップと横列で学んで、討議・説得するコミュニケーション能力を身に着けてもらいたいという狙いもありました。
プログラム自体については「デザイン思考」、「ジョブ理論」といったコンセプトは聞いたことがあり、本も読んだのですが、あれだけ体系だってワークショップのメソッドも確立されていたプログラムだったのは非常に良かったです。ケーススタディも成功・失敗を学ぶのではなく、そのケースからバリューとチャレンジを抽出するという形で、実践的で理論も抑えていて、学生に考えさせるように設計されていました。
リーダーシップについて
Q. どういったきっかけで管理職・役員といったキャリアを目指されたのでしょうか?
女性リーダーは少ないものの、先輩は完全にゼロではなく、実は海外駐在も役員も自分が初ではありませんでした。会社の想定したキャリアパスをたどって言った形になりますが、ラッキーだったのは、営業部は割とフラットな組織で、管理職になったばかりでも本部長から直接指示がきたりしました。そういうおかげで上のポジションの目線を持てたことでした。
Q.過去、男性優位の職場で働いていた頃、人事方針は活躍する女性を増やしたいと言う一方、実際は女性の自分は男性同期にさせたくない仕事をさせられる、等無意識レベルの差別を感じたことがありました。藤原様がキャリアをスタートされた当時どんな難しさがありましたか?
私が就職した当時、雇用機会均等法というのはありましたが、それでも女性だけ制服があったり、同じ年で入っても「女性はこの仕事やるには10年かかるよ」と2年上の先輩に言われたり、疑問に思うことは多々ありました。とはいえ海外駐在に出ると日本よりもう少し進んでいたので、日本と海外を行ったり来たりしながらいいところ取りをするという風にやってました。あるいは、違うことは違うとずばっというタイプだったので、「男性だとそれは許されないので羨ましい」ということを言われるというバランスの取りかたもありました。たしかに、男性は男性で、日本の伝統企業・体育会的カルチャーだと先輩・後輩的なしがらみで思ったことを言えていないようだな、と思ったものです。
Q. 女性リーダーを目指す20~30代の世代へのアドバイスがあれば教えてください。
私のこれまでの経験でも、DE&Iを進めようみたいな動き、逆にそれに対する必要以上の揺り戻しなど、色んなことがあり、何事も一直線に行くものではありませんでした。女性リーダーは数的にマイノリティなので、良くも悪くもどうしても目立ってしまいます。
皆さんは得意なことを身に着けるために頑張っていると思いますが、興味を持てることを見つけられるのが一番で、仕事も含めたすべての経験に興味を持てることが一番大事だと思います。仕事には楽しい仕事もルーティンの仕事もありますが、ルーティンの仕事でもどう改善するかとか興味を持って楽しめると人生は豊かになります。
全部が思うように行くわけではないので、いつも機嫌よく居られるのが大切だと思います。仕事だって、チームでやる以上自分の頑張りだけでは上手くいかないとか、意見が通らないとかあると思いますが、その中で自分がいかに毎日機嫌よくできるか、ということです。
煮詰まったら見方を変えてみると良いと思います。どんなことにもプラスとマイナスがあるので、例えば「女性リーダーが少ない」=「目立ってしまうがその分覚えてもらえる!」と考えることもできますよね。他にも、「うまくいかない」=「次は失敗を避けられる」とも考えられます。あとは人と比べないこと。人によって成長のスピードは違うし、最終的に自分の人生がよければよし、と思えばいいんです。未来というのはいい方に向かってる、自分が機嫌よくいられる方法を見つけよう、そう思います。
インタビュアー:
Co25: 尾島、坪谷、牛神、干畑
Co26;辻井、酒井
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