特集

「価値創造の源泉は現場。そこでお客様をどれだけ幸せにできるか、それがすべて。」-力の源ホールディングス(博多一風堂)山根社長インタビュー

 私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回は、HEC ParisでMBAを取得後、「博多一風堂」を世界各国で展開する力の源ホールディングスで海外事業に取り組み、現在は同社の代表取締役社長兼CEOを務められる山根 智之さんに『日本食の海外展開と「現場力」』というテーマでお話を伺いました。

山根社長について

仏HEC ParisでMBAを取得後、2010年5月 株式会社 力の源カンパニー入社。同社にて海外事業グループマネージャー等を経て、2023年4月より、株式会社 力の源ホールディングス代表取締役社長兼CEO。

力の源ホールディングスについて

世界各国にラーメンチェーン「博多一風堂」を中心に飲食店を展開する力の源カンパニーの持株会社

キャリアについて

Q. 海外留学(学部・MBA取得)の背景について教えてください。

 初めて海外に出たのは子供の頃で、父の海外転勤に伴い米国アイオワ州に行き、現地の小学校に通いました。中学・高校は熊本の学校でしたが、日本の大学の多くは入学時に専攻が決まってしまうのが嫌で、最初の2年でリベラルアーツ(一般教養)を広く学んでから自分のやりたいことを決めることができるアメリカの大学を志しました。そうしてミズーリ州のあるリベラルアーツ・カレッジに通ったのですが、話す・書くといった英語のアウトプットに苦労したのを覚えています。リベラルアーツとして学んだ中で哲学に興味を持ちもちました。、多くの学問分野がある中で純粋な哲学を学ぶことが逆に斬新に感じられました。様々な学問のベースには哲学があると考えて哲学を専攻分野として選びました。

 とはいえ、小規模なカレッジだったため学べるリソースには限界がありました。教授に相談したところベルギーの大学を紹介され、そこに転校することになりました。そこで修士課程まで取得し、並行して学業だけでなくプロジェクトベースで様々な仕事もしました。英国政治家の欧州議会の政治秘書、TVプロダクションのケータリングマネージャー、イタリアンレストランの料理長…そうしているうちに、「自分の専門って何だろう?」と思うようになりました。これといって他の人に負けない分野が見つからず、自分の実績にも自信が持てず悩んでいいました。
 そんな時友人に「それならMBA取ってみたらどうだ?」とアドバイスを受け、そこで初めてMBAというのが自分のキャリアの選択肢として浮かびました。色々調べてみると、確かにアメリカはMBAの総本山と言えますが、当時私は29歳で、比較的若い人が多いアメリカよりも、マチュアで落ち着いている欧州のMBAの方が合うと思いました。そこでフランスのHEC Parisにアプライしました。

 実際ビジネススクールに入学してみると、ビジネスを学ぶのは初めてで、周りの人が何を知っていて、何しようとしているのか、非常に興味を持ちました。テクノクラート養成校グランゼコールでもあるHEC Parisはフランスのトップ校でもあり、そこで得たネットワークや出会った人々は非常に刺激的でした。一方で、哲学をアカデミックに勉強してきた私にとって、ビジネススクールで学ぶ内容は表面的に感じられることもありました。それでも、会計やファイナンスに初めて触れることは新鮮で、、最初の会計の授業で「事前に150ページもあるスターバックスのアニュアルレポート読んできてね!」と言われたときは驚きましたし、ファイナンスはまるで新しい言語を学んでいるような感覚でした。サプライチェーンやマーケティングについても、その仕組みに驚かされました。
 このようにに多くの学びはありましたが、全部マスターしたからと言ってビジネスを完全にマスターしたことにはなりませんよね。MBAで学んだことは経営をする上でのツールボックスのようなものだと考えています。

Q. 力の源カンパニー(力の源ホールディングス)を選ばれた際、迷いはありましたでしょうか?(起業、スタートアップ等への挑戦を考えるも結局投資銀行やコンサルを選ぶMBA生が一定数いるため、どのようにその引力を振り切ったか)

 ビジネススクールを卒業した当時は家庭を持っていたわけではなかったため、どこでどのような仕事をするかにこだわりはありませんでした。様々な選択肢があり、欧州に残ることもできましたし、友人から会社をやらないかという誘いもありました。日本を離れてかなりの時間が経っていたので、自分の故郷を見直してみるのもよいかと思い、日本の転職エージェントからいくつか仕事を紹介してもらいました。ただ実際に大企業の人と話してみると、特に日本の伝統企業からすると自分は若干アウトライナーで、社風に合わないと感じました。振り返ってみる受験勉強したくないからアメリカに行ったり、敷かれたレールに反発する気質があるのかもしれません笑。

 そうして紹介された企業の一つに力の源カンパニーの海外事業のポジションがありました。創業者とお会いしたの熱意に感銘を受け、国境や文化の壁を超える仕事をしたい、という自分のキャリアのテーマに沿ったことができると考え、当社に入社しました。

Q. 現在のお仕事は様々な国で、その地の価値観や文化、人と向き合うような側面が強く、HEC Paris含む欧州ビジネススクールでの学びとかなり親和性が高いのではないかと思うのですが、MBAでの学びは活かされているように感じますでしょうか?

 これは自説ですが、異文化交流って言葉に落とし込むのは難しいですよ。例えば子供の時期に異文化環境に放り込まれても、自我の確立していない場合、互いの存在を認めるのは難しく、得られるものは少ないでしょう。ビジネススクール、会社員、スタートアップ、NPOみたいにバックグラウンドが異なりすぎて一つの線で全部をつなげられないでしょう。もちろん、そういう環境にいるのは人生に対してプラスですが、、仕事においてプラスかどうかは一概には言い切れないと思います。

 HEC Parisには一学年200人いて、9月入学組と1月入学組がいます。、その入学時期の違いによって若干壁が生じたり、出身国でサブグループができたりすることもあります。人間はどうしてもグループを作ってしまう生き物です。出身国はバラバラです、しかしそれでどうなる?という見方はできてしまうと思います。ビジネススクールのように目的がはっきりしていて、そこにいること自体が目的のコミュニティであれば意味があると思いますが、必ずしもそういう場所ばかりではないので。

Q. 力の源カンパニーに入社なさった当初は店舗の現場の研修から始められたと伺いました。もし自分がMBA卒業後同じ立場だったとすると、不自然にならずに現場に溶け込んでいくために相当悩むのではないかと想像するのですが、コミュニケーションのうえでどのような工夫をなさいましたか?

 どんなビジネスをするにしても、かっこいい言葉を使うと「価値の創造の源泉」はお客さんに接することだと考えています。扱う商品が何であれ、それを手に取ったお客さんがどう感じるかがすべてだと思っています。私はMBAだから…みたいなことは一度も考えたことはありません。店舗での最初の仕事は皿洗いで、ちなみに人生最初のアルバイトもファミリーレストランの皿洗いだったのですが、皿洗いって面白いんですよ。
 飲食店の店舗内ではある程度自分のペースで仕事ができ、洗うべき皿が大量に来るので、業務用洗浄機にどう工夫したらいくつ皿を詰め込めるか考えながらサプライチェーンマネジメントの方程式を頭の中で回したりしてました。、その傍ら他の店員の声掛けが聞こえてきて、他のポジションの連携プレーを理解したうえで他の仕事をすることができました。

 一つの店舗で働く以上、どの仕事がどうだという区別はありません。飲食業にとって価値創造の場は現場なので、それを海外に展開したいなら店舗業務を全ポジションわかっている必要があります。店長が全体を見て、的確なタイミングで指示を出さないと現場は回りません。店舗は同時に飲食業にとっての最小のエコノミックユニットになるので、それを把握していなければ何もできません。「私はMBAだから現場仕事は…」と言う人はまずこの業界には向いていないと思います。

次のページでは、山根社長の徹底した現場主義の背景と実践、一風堂のグローバル展開について迫ります。(↓)

1キャリアについて 2会社について、日本食について

マウスオーバーか長押しで説明を表示。

関連記事

Coffee Chat

最近の記事
おすすめ記事
  1. 「価値創造の源泉は現場。そこでお客様をどれだけ幸せにできるか、それがすべて。」-力の源ホールディングス(博多一風堂)山根社長インタビュー

  2. 銀行員・サッカー選手を経てスペイン移住/留学サポート事業 佐藤陽介さんインタビュー

  3. MBAの学びを血肉とする―国連コンペティション参加体験記

  1. Summer Entrepreneurship Experience(短期起業体験)プチ体験記

  2. 「EMPATHY」 ~ チームと過ごした1年間の中で印象に残っていること~

  3. IESEにおけるチームワークから学ぶリーダーシップ

TOP