起業について
Q. 私(インタビュアー)は卒業後、副業でニッチなスモールビジネスを始める準備をしています。自己資金で、平日の夜と週末に細々とやる予定ですが、何かアドバイスはありますでしょうか?
ニッチはニッチといっても、僕が考えている『ウルトラニッチ』とは、一つの国ではニッチでマーケットも小さいけど、世界中の国を足し合わせたら大きなマーケットになる、というマーケットです。細々と副業をやることには、今の僕は、興味がありません。アメリカで事業開発に挑戦するというのは、これまでも様々な挑戦を仲間としてきましたが、異国の地での挑戦ですし、アメリカにおいては私は移民である以上、いつまでいられるのか?もわからない状況です。ゆえに、とにかくスピード感を持って、事業を推進することに集中しています。ここでもし人様のお役に立てて、実績がつくれたら、さらに楽しい挑戦、修行の機会が出てくることをこれまでの経験からわかっているので、まずそういったものをつくることに集中しています。
フリーランス、副業、コスパよく働く。世間の表面的なマーケティングメッセージに踊らされることなく、仕事にだけ集中できる時間というのは、思ったよりも人生の中で短いので、その時間を大切にしつつ、仕事以外、例えば家族や友人との時間など大事にするためにも、自分だけで仕事をしない。マネジメントスキルを磨く(人だけではなく、AIのマネジメントもこれからは大事なスキルの一つ)など、そういうことにもっと目を向けていけるとよいのではないかな?と、個人的には思います。
Q.どういったものがウルトラニッチとして狙えそうか、その辺の見極めをするために何をすれば解像度が上がりますでしょうか?
結論、その国に住んで、生活しないとわからない。というのが答えだと思います。それを取りに行く勇気。その人に何が喜ばれるか?を考えるためには現地で生活を共にしないとわからないのではないかな、と。それでも限界はあると思っているので、私は現地でパートナーを見つけて、その現地の生活者感覚がある人と組んで、事業を連続的に立ち上げたり、すでにある事業を更に伸ばしたりということに挑戦したいと考えています。異国の地でも、チームをつくり、ビジネスをプロデュースできる力を、日々実践の中で、磨きたいと思っています。
Q.一方で、その国を好きになって、その国の人に喜んでもらえるようにローカライズすればする程本来の良さが失われる(寿司など)こともあると思います。その際はどうすれば良いのでしょうか?
サイゼリアの創業者、正垣泰彦さんが書かれている『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』この本に本質的な答えがあると個人的には考えています。事実として売れているのであれば、握りにこだわらず、ロールの寿司であってもよいわけです。勝手に自分のバイアス、偏見で、”美味しい”を決めつけないことが大事だという考えを一人の商売人として、大切にしたいです。実際、そのような考え方ができていなかったら、一社目の事業もうまく立ち上げることができなかったと思います。私は物理的に出社して、人と話をしながら仕事を進めるほうが心地良いというタイプの人間なのですが、そこと異なるニーズ、リモートワークという働き方に特にITエンジニアの方、小さいお子様がいる方の場合には関心がある。サイトに掲載されている求人情報に対する応募数の事実をみていなかったら、そのような求人が求められているということに気づけず、リモートワークの求人に特化した事業もうまく立ち上がらなかったという原体験を持っています。
Q. コデアル株式会社売却後、次のチャレンジとして米国を選ばれたのはなぜでしょうか?
大学生の頃、Sony創業者の盛田昭夫さんの『MADE IN JAPAN』という本を読んで、かっこいいと思ったからです。ミーハーですね。正直、日本でそのまま社長を続けるほうが楽だったと思います。、しかし、それをそのままやっていった先に、アメリカで挑戦してみるという未来は見えなかったんです。人材事業は、極めてローカルな事業ですし。人生一回きりなので、渡米して挑戦してみたかったんです。物事に取り組むとき、僕はできないではなくて、どうやったらできるか?を考えたい人です。だからこのときも、まずはどうやったらできるのか?考えました。M&Aという手法があって、このやり方ならできるかもしれないと仮説を立てて、実際にどのような時間軸で?誰を巻き込んで?具体的にどのような行動を進めていったらできるのか?を実際に動きながら、M&Aの準備、交渉、実行のプロセスを進めていきました。
Q. 私(インタビュアー)が大学時代、起業したいという雰囲気があふれるコミュニティにいたのですが、いざシリコンバレーのピッチイベントに行ってみると、「こいつらのネジの抜け方には敵わないな」と思わされました。そういう環境で勝負なさっている今、どう感じていますか?
自分らしくでいいんじゃないでしょうか?どこまでいっても人は他の誰かになることなんてできません。僕がどんなに尊敬していても、ソニー創業者の盛田昭夫さんになることは不可能です。違う人間なのですから。生まれた家柄も、時代も違います。なので、なんとなく人様の役に立つことをやってたらここにたどりついた、というのも正しいし、自分のwillで突き進むのも正しい。物事の真理は常にその中庸にあると思っています。両方の相異なる性質のものが、ちょうど重ね合わさるところにたどり着くべくしてたどり着くのではないかと思います。あとは、自分でやらなくても誰かを担ぐというのも良いと思います。世界は起業家だけで成り立ってるわけではないですし、起業家の役割以外にも事業を形にするうえでは、一緒に楽しく踊ってくださる、様々な演者が必要です。
現職(Ajinomoto Foods North America, Inc.)について
Q. 現職(Ajinomoto Foods North America, Inc)はいわゆる大企業で働かれる初めての機会でしょうか?経営者としての経験はどのように生かされていると感じますか?
大企業という言葉には多分に解釈の余地があるので、これまで私が働かせていただいてきた企業の規模感の事実を元に話をするようにします。人数の規模で言うと、現職(3,000人)が今まで働いてきた会社の中で、最大です。M&A後、参画した前の会社は250人くらいの会社でした。その前の自分で創業した会社は1人からスタートし、数十人規模。創業する前に働いた会社が、500人ほどです。会社の規模がこれだけ違うと、見える景色が違い、求められる筋肉が違います。0→1、1→10、100→1000は違うと感じます。0→1に近づけば近づくほど再現性が薄く、「明日アメリカ行ってきます!」みたいな勢いも大事。しかし、それだけでは事業が拡大することはなく、10→100→1000となっていく中で、その結果を出すプロセスの再現性が求められますし、それがなければ、なかなか権限を委譲しながら、組織として拡大していくことができません。
創業社長は、最初の0→1をくぐり抜ける中で、割とどの役割もマルチにできるスーパーマン化していることが多い印象を受けます。ただそこで安住せずに、拡大するには、まずは自分がやっていることを書き出して、それをあとから入ってくるメンバーにも伝えて、委譲していく動きをしつつ、数字の見える化、およびその数字をもとに話ができる会議体設計を進めながら、組織化していくことが必要になります。規模が大きくなるにつれて、再現性が求められる度合いが増すので、受験勉強に近いものが求められる比重が増していく気が個人的にはしています。
個人的には、自分自身は、ものすごい賢いということもなく、彼女のヒモのような状態から会社を立ち上げたアウトサイダーだと、自分自身を認識しています。ただそんな中でも、東大出身という部分だったり、自分で事業をつくるということだけではなくて、上場企業のグループ会社になっても結果を出せたり、今も味の素という歴史と伝統のある会社で働かせていていただけている。なので、アウトサイダーというだけではなくて、伝統ある組織においても、そこに繋がりがあったり、そこでもひとりでは無理ですが、一定動き回ることができるというところに、自分が人様の役に立ちうる余地があると感じています。
今の味の素というエスタブリッシュな大企業における、アメリカで、ネットで、冷凍食品を販売するという事業開発においても、このアウトサイダーとエスタブリッシュな両方が同居した経験を積み重ねてきていることが、とても活きています。
Q.大企業で事業開発をやる際にはそのプロセスをやったことがない生え抜き社員をトップに据えることが多いと思うのですが、そのような状態で事業開発をリードできるのでしょうか?
上場企業の中で新規事業開発をやるという取り組みを、21-23歳のころにちょうどやらせていただける機会があり、大企業の事業開発推進における構造的な問題点には気づいていました。
具体的にどんな構造があるのか?を、大企業/上場企業のなかで事業開発をした経験と、ゼロから創業者になって、独立資本で事業開発をした経験をもとに、ここで紹介したいと思います。以下のような3つの課題があると思います。逆に言えば、スタートアップからみたら、ここをついた戦い方をしなければならないということになります。
- 上場企業であるがゆえに、ホワイトな労計のなかで、事業開発を行う必要がある。社内での事業開発を新たに進めて行く場合においては、スタートアップの創業者とはそもそも大きく働くことに対する考え方が違う。スタートアップの創業者の場合は、その会社の株主でもあり、労働者ではないという条件のなかで、自分の経済的なリターンが、企業価値の向上とも強く結びついている状態で事業に取り組むことになる。この違いは、リスクの高い事業開発に取り組むうえで大きい。
- 大企業、上場企業の場合、すでに売上、利益が大きな事業にエース社員が配置される構造になりやすい。その恩恵をサラリーや、ボーナスで返しやすいため。なので、なかなか先が読めない不確実性の高い事業には、エースが配置されにくい構造が生まれがちで、社内からの人材のアサインが適切になされていないケースも多い。
- 規模が大きい会社の場合、特定の決定事項には、承認のフローが存在する。その承認を得るための社内を向いた仕事が嵩み、説明するための仕事に忙殺され、本来集中する必要がある仕事、顧客への価値提供につながるための実行、改善の時間が削がれることもある。また既存ブランドの毀損リスクに敏感になりがちであり、それゆえに保守的な意思決定がなされる構造ができやすい。
逆に、大企業の事業開発における強みとなるポイントもここでは挙げておきたいと思います。大企業、上場企業のなかで事業開発をするうえでは、以下の強みを存分にいかした戦い方が必要になると思います。
- 大企業、上場企業においては、応募数が多い中で、採用しているため、事業を実際に実行していく際のPDCAをしっかりと継続的に改善しながら回せる人材の層が厚い。
- 複数の事業を運営しているケースも多く、他の事業で活用しているナレッジや、顧客データベースを、事業開発において活用できる場合、事業の立ち上がりの時間を買うことができる。
- 資金力があるので、外部のパートナーを巻き込む際の予算確保がしやすい。ただし、これに関しては、日本においても大規模な資金調達事例が増えてきている環境の変化があるので、それほど大きな強みにはならないことが増えているように思う。
このような構造的な強み、弱み、大企業/上場企業の立場からなにがみえているのか?逆にスタートアップの立場からなにがみえているのか?を俯瞰的に見ながら、これからも事業開発に取り組みたいと個人的には思っています。
このような構造があるからこそ、再現性の低い0-1,1-10のプロセスをスタートアップに任せて、スタートアップを買収することにも価値があることを、どちらもの立場で事業に携わってきたことで、身を持って感じることが出来ています。これからも生活者、顧客への価値提供のためにやっているという大前提を忘れることなく、両者を越境しながら、事業、経営において、価値提供できる人であれるように精進したい次第です。
Q. MBA卒業後に、自分自身で飲食に関連する事業をアメリカで起業するという選択肢もあったかと思いますが、なぜ米国味の素への就職を決められたのでしょうか?
考えてみると、日本でも最初から起業はしていません。テック企業でバイトし、社長直下で働いてから、起業しました。そして、今も社内起業のような形なので、広い意味では起業しているといえるかもしれません。自分でゼロから起業しているか?それとも会社を買収して、事業をさらによくしているか?グループリソースを使って、事業をつくりあげるか?というHowにあまり強いこだわりはありません。根本が、「どうやったらできるか?」に一番の関心がある人間だからです。大きな会社のリソースを使うからこそ、できる事業もあります。海外での挑戦となると特にそれが顕著に言えます。ただ社内で事業開発をやる人へのインセンティブ設計に関しては、もっとこれからの時代進むと更に面白い事例が増えていくのではないかな?と考えています。日本の経営者とアメリカの経営者の報酬の違いの差分をもっと小さくしていくというようなことにも個人的に関心があります。どのようなルールメイキングをするとよいのか?自分自身も今後そのような事例づくりに関われたらこんなに嬉しいことはありません。
また、普通に考えたらみんな周りの人は無理と言うけど、戦略的に考えて、考え方とやり方次第ではできる!ということを仲間と一緒に現実にすること。これが自分にとって、最高にワクワクする瞬間です。
話を戻しますが、なぜ今働いている会社で働くことになったか?というと、たまたまの、タイミングと、人のご縁も大きいですね。上司でもあるAjinomoto Foods North America, Incの社長は、とてもユニークなキャリアの方で、アジア、ヨーロッパ、アメリカと、冷食/フード企業をM&Aし、買収後の経営統合(PMI)を連続的にやり遂げてこられている方です。こんな方と一緒に働かせて頂けるのは、日本に閉じないで、仲間を見つけ、事業をマネージしていけるようになっていきたいと考えている私にとって、最高の修行の機会だと解釈しています。
Q. 私自身も、日本の衣食住に関連した事業を海外で挑戦してみたいと思うのですが、実際に米国で感じる難しさはありますでしょうか?
アメリカは人種のるつぼなので、どこをターゲットにするかが難しさでもあり、面白さだと思います。その答えはまだないですが、「コアの価値はなにか?」をシンプルに表現するのが大切なのではないかと思います。とにかくコアの価値がなにか?を捉えて、シンプルにする。ウォークマンがまさにそうですよね。ダビングして聞くだけ、以上。引き算の発想でつくられている製品、サービスともいえると思います。