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「AIの力で医療現場を変えていく-医師/AI内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®」開発メンバー 三澤先生インタビュー

私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回は、国内初の薬事承認を取得したAI内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®(エンドブレイン)」の開発者の一人、三澤 将史医師にAIと医療というテーマでインタビューしました。先生は、学会参加のためにバルセロナにいらっしゃっており、対面でのインタビューになります。

三澤 将史医師について

新潟大学医学部卒業後、昭和大学横浜市北部病院消化器センターで医師として勤務。国内初の薬事承認を取得したAI内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®」の開発に携わり、現在もAIを用いた医療現場の効率性向上に、自らAI開発者として取り組んでいる。

Q. 今回の学会ではどのような発表を行うのでしょうか?

専門であるAIと内視鏡検査に関して、「AIによるデ・スキリング(AIを一定期間使った医師のスキルが使い始める以前より落ちてしまうこと)はあるか?」というテーマで研究発表させていただきます。私は、AI利用に起因するスキル低下はないという研究結果を提示します。医師も人間ですので、一日の中で集中力にも波がある中で、AIの補助によりそれを補完してくれているという見方はできると思います。

Q. 先生のInstagramで、医局でのITソリューションの導入についての発信を良く拝見します。医療現場でのIT、特にAIの導入について、どのような反応や、課題がありますか?

 まず最初のハードルとして、日本の医師は意外なほどITスキルを身に付ける機会が少なく、メール・パワポ・Excelといった基礎的なところで難儀する人も多いです。なので、「これいいよ!」と発信しても飛びつく人は実は少ないです。生成AIは情報収集やデータ整理のような作業を大幅に短縮できるので、その分勉強や、ベッドサイドに赴いて患者さんと話すことに時間を使えるようになると考えています。志ある医師達がツールとして見つけてくれることを願ってSNSで発信しています。

 ITリテラシーを医師として働きながら身に着けることは、特に臨床をやりながらだとほとんど無理に近く、AIに関しては懐疑論などネガティブな反応が多いという課題もあります。しかし、医療現場も働き方改革(2024年度より残業時間規制が医療現場にも導入)で業務効率化のプレッシャーは大きく、AIと向き合うことからはもう逃げられません。

 一番インパクトがあるのは電子カルテへのAI導入ですが、個人情報や法的に問題も絡むので当面は難しいですね。むしろ、前述のとおり、上司にメール1通書くのに30分かかる人もいる世界なので、それを生成AIに代筆させるといったような単純な導入だけでも進んでいってほしいと思います。勉強についても、医師として知識を常にアップデートしていくために、昔なら電話帳のようなテキストを頭に叩き込んで…とやっていたところをAIにサマライズさせて、疑問点を対話型で質問していくような効率的な勉強法を身に付けた医師が増えるといいなと思います。

Q.先生はいつ、IT、AIの有用性に気づかれて、どのようにリテラシーを身につけられたのですか?

 昔から周囲に何かを教えるのが好きで、自分で調べたり突き詰めているうちにリテラシーが高まったと思います。プログラミングも、学生の時は出来なかったですが、AIについて自分で研究するときにPythonを学びだしました。プログラミングって、あくまで英語やスペイン語と同じ言葉で、コンピュータと話すための言語なので、1~2年きっちりトレーニングすればだれでもある程度は身につくものだと思います。

Q.内視鏡所見のAI補助診断ソフトウェアを開発なさったのは、大腸内視鏡のすそ野を広げたいというのがモチベーションでしょうか?

 内視鏡検査では完全に正しく診断するのは難しく、疑わしいポリープのようなものを切るべきか悩む若手の一助になればというのが動機です。

 ソフトウェアの構成としては例えばポリープとかガンを見つけるAI、取るべき腫瘍かどうかを見極めるAIといったように、複数のAIが含まれています。保険料加算が付き、導入費用を治療費に少しだけ転嫁できるようになったので、少しずつ導入が進んでいます。海外も同じ状況ですが、アメリカだと私立病院はポリープ一つ切除すると5万円の世界で、彼らからするとポリープをもっと見つけられた方がいいんですよね。AI導入で平均2つ切除すべきポリープが追加で見つかり、1台10万円/月程度のランニングコストなので結構導入が進んでいます。アメリカの内視鏡医療ってポリープを見つければ見つけるほど儲かる構造なので、発見効率の向上・発見精度の向上に投資するインセンティブがあります。

Q. 経営的な観点で、病院のIT投資が進まない背景は何かあり得ますか?

 病院は日本だと営利組織にできないので、例えば株式を発行して投資家に配当でリターンを返すような、エクイティ調達ができない事情もあります。保険点数は2年ごとに調整されますし、経済の影響でマスクやガーゼなどの消耗品、空調代といったコストも上昇しており、経営が苦しい病院が多いです。

Q.今後臨床で積極的にAIを使うにはどうしたらよいでしょうか?

 電子カルテに取り入れられるのが一番ですが、前述のとおり様々なステークホルダーが絡み合うのですぐには進まないと思います。ですが今後、医療機器に生成AIが組み込まれるようになると、医師の仕事もどんどん変わっていくかもしれません。問診含め、基本的な仕事はAIがやって、最後に医師のチェックが入るのみといった世界になるかもしれません。たった1年前と現在のAIの性能は全然違うので、この先5年後とかはどうなっているか想像もつきません。

Q.AI以外で、IoT等他に注目しているテクノロジーはありますか?

 やっぱりロボットですね。日本って実は外科医のなり手が少なくて、特に地方だと10年後20年後は盲腸の手術すらできる病院が整っているか危うい状況だと思います。なり手不足を解決できなければ、簡単な手術はロボットや通信技術を使った遠隔医療のような世界になるしかないんじゃないかと思います。また、遠隔で医療サービスを提供することは手術だけでなく、介護や病棟管理の負担軽減にも貢献できると思います。例えば患者さんの動きをモニタリングして、この人転びそうになっている、みたいなアラートが鳴るといったようなシステムは夜間の看護師さんの負担を軽減できるでしょう。今の医療界は医療従事者の長時間労働・善意の無償労働に依存している部分もあるのですが、2024年度から残業規制が施行されて、変わっていかざる負えない局面にあります。

Q.医療行為でなく、事務作業の効率化の余地もありそうでしょうか?

 電子カルテに病名を入れるとか、医者の事務仕事って実はすごく多いんです。今の電子カルテのUIにも、確実性を重視するが故の問題があって、例えば胃カメラをしたらシステム上、「胃がん疑い」って入れないといけないんですが、がんでなかったら3か月後に消す作業が必要で、通知機能もないので医療事務のチームがリストを作って各医師にシステム上での作業を依頼するような状況です。他にも、いくつかの統一規格はあるものの病院ごとに電子カルテをカスタマイズしていたりしていて、病院横断的な効率化が難しい側面もあります。今はまだ個人情報保護の観点からカルテ同士の連携が難しいですが、規格ごとの差異をAIで吸収し、連携出来たらと思うことがあります。

Q. おっしゃっていただいたAIを取り巻く状況について、どう変えていきたいと思われますか?

 自分ができる範囲で変化を試みています。例えば内視鏡検査は、今まで病理結果を手入力しないといけませんでした。さらに、病理レポートを医師が電子カルテで開くと、pdfファイルが出てくるので、それを手動でコピーして、ファイリングシステムにペーストするという作業もあります。こういった単純な作業などから電子カルテ(の周辺システム)にAI実装して効率化というような事実を作り風穴を開けていきたいです。

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