インタビューの趣旨について
私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。
今回は、IESEの姉妹校であるCEIBS MBAへの留学・IESE交換留学後、日本人で初めてアリババのリーダーシッププログラムに採用され、現在はSHOPLINE Japanの代表取締役を務められる大山さんに、異文化・ハイプレッシャーな環境でどう活躍するか、というテーマでインタビューさせていただきました。
大山 廣貴(おおやま ひろたか)さん
CEIBS(中欧国際工商学院、China Europe International Business School) MBA卒業後、中国アリババ本社のリーダーシッププログラム(MBA卒業生などを対象に将来の幹部候補として採用・育成するプログラムで、二十人程度の枠に6千名以上が殺到する、倍率310倍以上の超難関)に日本人で初めて合格。アリババ本社で物流事業に従事したのち、同社の物流サービス事業会社であるCainiaoの日本法人立ち上げの責任者を務める。2024年4月より、SHOPLINE Japan代表取締役社長を務める。
SHOPLINEについて
2013年にシンガポールで設立。プログラミング不要で簡単にECサイト、スマホアプリ、POSシステムを構築できるプラットフォーム。
https://jp.shopline.com/
キャリアについて
Q. 現在のキャリア(SHOPLINE日本社長)を選ばれた経緯について教えてください。
あの過酷な環境(後述)のアリババ本社には5年程おり、外国人が狙える最上位のポジションまで昇進できたので、次のステップを考えていました。様々なオファーがありましたが、元々の専門の物流とは違うことをやりたかったんです。
自分の原体験として、コロナ下に実家の家業が事業の選択と集中のため、祖父の代から続くお店を閉め他の事業に集中することにしたのですが、やはり愛着のあるお店を閉めたことがショックで、中小企業をサポートする仕事をしたいとずっと思っていました。そんな中SHOPLINEから声がかかり、SHOPLINEの日本支社を立ち上げるから社長やらないかと、SHOPLINE本社の役員が来日して口説かれ、実際に本社のメンバーにも会って話をして彼らの人柄と熱量に惹かれてSHOPLINEに入社することを決めました。
まとめると、
1)物流からキャリアチェンジしたいが、アリババ同様の裁量あるポジションが良い
2)中小企業の支援をしたい
3)魅力的な人と働きたい
ということになるかと思います。
MBAについて
Q. MBAを目指された経緯、特にCEIBSを選ばれた経緯について教えてください。
もともと海運会社で働いていた時、鉄鋼石を積んだ船が中国で差し押さえられた事件があって、それをきっかけに中国の考え方を理解したい、中国ビジネスのプロになりたいと思って中国語の勉強を始めました。そして、20代後半にMBAの存在を知って、中に入って中国を学びたいというモチベーションと、当時最も勢いがあり、中国発のMBAスクールとして世界トップ10を狙うというとても野心的で明確なビジョンが気に入ってCEIBSに決めました。
中国のビジネス環境はとても面白くて、例えばシェア自転車が盛んになったとき、MobikeとOFOという2社が激しくキャンペーンで競いあったのですが両者とも経営に行き詰まり、今は全然別の会社がシェア争いをしているなど、競争が激しくプレイヤーがすぐに塗り替わります。中国テックでキャリアを築くのは厳しいんだと思いましたが、その生態圏の頂点にいたのはBaidu、アリババ、テンセントで、彼らの勢いが凄く、独身の日のEコマースのお祭り騒ぎは、例えば独身の日に教授が「Happy Single Day」と言って授業を締めるなど、文化に完全に根付いています。
アリババに興味を持ったのはCEIBSで目立っていた優秀な卒業生達がアリババに引き込まれていくのを目の当たりにし、彼らと一緒に働きたいと思ったからでした。アリババ本社のリーダーシッププログラムは毎年定期的に募集があるわけではなく、突然募集が始まります。私もCEIBSのキャリアセンターからアリババが募集開始したと連絡を受けてアプライしました。10回程も面接があって、役員面接は21時半スタート。そこで色々悟りましたが、入社前説明会でも「何も期待するな、待ってるのは地獄だ」と覚悟を問われるシビアな雰囲気でしたが、私はそうなると燃えるタイプでした笑。
Q 日本人初のアリババ リーダーシッププログラム採用とのことですが、経歴やスキル以外に、採用に繋がったポイントはなんだったと考えられますか?
まず希少性で、日本の物流業界には自分と似たプロファイル(例:MBA)の人が少なく、日本人×物流バックグラウンドで見たとき競合となる候補者が少なかったことがあります。
10回の面接のうち、前半はケース面接で思考をみられたり、物流に関する知識をみられていた気がしますが、後半は「こいつ本当にアリババ本社でサバイブできるか?」という所を見られていた気がしており、ガッツで乗り切った感じになります。最終面接は面接の半分は中国語の面接だったのですが、当時中国語はビジネスレベルではなく、いくつかの質問が全然聞き取れなくて何度も聞き返すのも失礼だと思ったので、適当に推測して過去の困難をどう乗り越えたかを答えていたのですが、「ヒロさん、今の質問は『無印良品はどうやって中国市場で成功したと思うか?』だったんです。そんなレベルだったんですが、機転をきかせて動揺せずにふるまったり、気合いで乗り越える姿勢を見せたことが勢いやストレス体制という点でフィットしていると評価されたのではないかと思います。
Q.中国のMBA市場(採用市場)、ネットワーキングについてどう感じられましたか?
アリババにもCEIBS卒業生コミュニティがあり、後押しになったと思います。
しかし採用においては、MBA採用によくある事前ネットワーキングのセッションはなく、面接だけで評価されました。知人の先輩から裏話をちらっと聞いたのですが、履歴書や面接で評価されていた印象です。
入社後は、アリババ内のCEIBSコミュニティはあるものの、仕事に役立つというより激務とプレッシャーでメンタル不調を感じた時に飲みに行く仲間のようなカジュアルなものでした。また外国人や外国育ちの中国人もいるため、しんどさを共有したりアリババで生き抜く術を教えてもらったりできる貴重な存在でした。
アリババでの仕事について
Q アリババ社内の雰囲気はどうでしたか?
「優秀な人が集まっている」、「ハングリーさにあふれている」という印象でした。
私の場合は最初少し躓いて、入社3ヶ月で全くパフォーマンスを出せなくて試用期間の終わりごろに本社の厳しい人事部から呼び出されました。そこで見せられたのがこれで(下図)、本来こういう風(上の曲線)に成長するところお前のパフォーマンスは下の線だ、ただし日本人は粘り強いから頑張れるといわれました。今でも覚えているのですが、スタバで2時間くらいフィードバックを受けた後、その日は金曜日だったので、「じゃあ来週までにどうするか考えます」と言ったら「ダメだ。今この場で何を変えるか宣言しろ」と言われたんです。
そこで一念発起し、英語を使わず中国語だけで仕事する、中国テック企業の定時である996(AM9-PM21,6day/week)以上に猛烈に働くことを宣言するなど背水の陣で頑張りました。日をまたいだりせず、その場でどんどん判断していく。そういう人しか残らないので、正直なところ、優秀な人のレベルや定義が日系企業とはかなり違うと思います。
次のページでは、壮絶なプレッシャーの中で成果を上げ続けられてきた秘訣と、アリババの驚くべきThink Bigの思想等に迫っていきます。(↓)