インタビューの趣旨について
私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。今回は、IESEの先輩でもあり、シンガポール発モビリティスタートアップ、SWAT Mobilityの日本法人責任者の末廣さんに、海外スタートアップ、CEOという仕事、モビリティというテーマでお話を伺いしました。
末廣さんのご紹介
末廣将志(すえひろ まさし)
新卒で総合商社に入社し、中東での発電所・変電所のインフラ開発、自動車メーカー向けの製造機械の営業に従事。欧州でMBAを取得後、グローバルコンサルティングファームのシンガポール法人に入社し、戦略策定やPMIに従事。2019年にシンガポールのモビリティスタートアップであるSWAT Mobilityに入社し、日本法人の責任者に就任。
https://swatmobility.webflow.io/jp
SWAT Mobility(本社:シンガポール)について
人・モノの移動に関する課題解決のため、オンデマンド交通運行システム、路線バス交通分析システム、物流向け配送最適化システムを提供しています。 最少の車両台数で複数の乗客・モノを効率良く相乗りさせるルーティング・アルゴリズムは世界トップクラスと認定されています。
キャリアについて
Q. SWAT Mobilityに入社なさった経緯について教えてください。マーケットの成長性、課題意識、人の縁等どういったものがあるのでしょうか?
これまでの人生で、MBAを含めて海外で過ごした経験は多くあり、海外から日本を客観的に見ることができました。外国人が日本に持つ印象は「過去と比べて停滞している国」です。例えばシンガポール人に聞いた時は「シンガポール人も過去は日本を追い越そうと頑張っていたが、今はもうその必要はないと思っている。」という回答でした。そんな状況を少しでも変えたい、少しでも日本の経済や住みやすさなどに貢献したい、ビジネスを通して社会課題を解決したいと考えました。そして、課題の中でも社会インフラとなる交通・物流に目が留まりました。地方では人口が減ったり、高齢化が進んで公共交通が立ち行かなくなってきていますが、それを食い止めようと自治体がお金を出して対処することで、補助金ありきの事業となってしまい、一層持続性が損なわれるという悪循環となっています。
意外に思われるかもしれませんが、その課題解決は日本の会社でなく、海外の会社だからこそできると思っています。なぜならば、日本の会社だと「それはそういうものだよね」とStatus Quoで考えてしまいますが、あえて外資、海外から俯瞰してみることで問題の構造や、問題の深刻さが浮き彫りになり、課題解決に本気でコミットできると考えて、SWAT Mobilityへの参画を決めました。
もうひとつ、パーソナルな動機としては、ずっと年功序列の残る大企業で働いてきたのですが、もっと大きな裁量を持って自分が意思決定者となってビジネスを動かしたいと思っていました。モビリティ領域というのがマッチしたのと、シンガポールのスタートアップの日本法人の代表であれば、裁量があると感じたのがモチベーションの一つです。個人的には重圧のある仕事のほうが好きで、挙げた成果で天国も地獄も見られるような世界に魅力を感じているため、日々充実しています。
Q.Youtubeの番組の中では日本法人の立ち上げが「起業」と表現されていましたが、新規創業に近い営みだったのでしょうか?
一人で事業を開始したので、起業に近い位置づけだと思っています。当然売上の目標のようなものはありましたが、本社から細かく具体的な指示はなく、全て自分で考えて、自身で組織立案、法人立ち上げを実施しました。ビジネスのやり方も、シンガポール本社の事例を日本に持ってきたというよりも、日本で試行錯誤して作り上げたものを、本社に逆輸入して活用してもらってるぐらいです。
Q. CEOの仕事は、どれくらい事前に想定した通りで、逆にどれくらい想定外がありましたか?、MBAが活きたこと、逆に活きなかったことはありましたか?
実を言うと、MBAで学んだ知識はほとんど活きませんでした笑。
しかし、異文化コミュニケーション、リーダーシップといったソフトスキルはMBAのたまものです。多国籍な環境の中で、自分の意見を通す、リーダーシップを発揮するというのはIESEでずっとやっていたことで、シンガポール企業で働く中でそれがものすごく活きました。また、人脈という意味では、シンガポールには多くのIESEの卒業生がおり、大体どこでも繋がることができるので活用できています。人によるかもしれませんが、組織をゼロから作り上げるということを経験している人は稀有で、人の採用も含めて何が正解かわからないので特に難しいものでした。
Q. 組織作りについて、「こういう事業だからこういう機能、チームが必要だ」という演繹法で考えられましたか?それとも、「目の前で起こっていることを何とかするためにはこういうチームが必要だ」という帰納法でしょうか?
どちらかというと帰納法です。どう売上を上げていくべきかをまず考えて、後付けで組織を考えていました。
Q. 私はIT業界出身なのですが、日本のITは米国の影響が強すぎるという課題意識があり、そうでないビジネスのあり方を見つけたいと思って欧州校にしたのですが、ヨーロッパ、バルセロナという環境だからこそ得られた知見はありますでしょうか?また同様に、シンガポール発テック企業だからこその考え方や価値観を感じられますでしょうか?
確かにバルセロナの交通は日本より優れているなという点は感じましたが、ヨーロッパの交通インフラからの着想はあまりなかったです。モビリティ起点ではなく、社会課題を探っていく中で現在の事業を見つけました。シンガポール企業だからこそ、というのはお察しの通りで、シンガポールは日本人と感覚が近く、働き方なども親和性を感じ、やりやすいと感じました。欧米の会社はトップダウンの意向が強いのですが、シンガポール企業は日本の意見を尊重してくれているので、仕事が進めやすいです。
SWAT Mobilityについて
Q. SWAT Mobilityの強みは強力なルーティングアルゴリズムだと思います。事業を今後どのように発展させていくか何か展望があれば教えてください。
当初は自治体に当社のITソリューションを導入する、というソフトウェアベンダーのモデルを考えていたのですが、お客様である地方自治体や交通会社の方とお話をしてみると、自治体、あるいは自治体を支援している地域の建設コンサルには地域交通を何とかしないといけないという課題意識はあるものの、ツールを与えられてデータがとれたとしても、それを分析し、示唆を導き、具体的にこれをやっていこう、という一連の施策をやるきるケイパビリティが十分でないという課題に気づきました。
そのようなお客様に対して、計画、データ分析、ソリューション提供、データからの判断までのプロセスを一気通貫でご提供できるというのが自分たちの強みだと思っております。特に交通会社のお客様に対しては我々のソリューションから得た知見が経営判断に活かされているので、ゆくゆくはSWAT Mobilityを単なるソフトウェア屋ではなく経営判断に伴走する補佐官のように思っていただける状態に持っていきたいと考えています。
Q.公共交通機関向けのサービスで、運行ルートや乗車タイミングの最適化を図ることによって、運行台数の減少を目論んでいるということだと理解しました。広く捉えると、購入すべき自動車台数が減るという意味で自動車メーカー(完成車メーカー)と競合するような部分もあると思うのですが、そういったステークホルダーとはどのような関係性、協働をされていくのかという展望と併せてご教示いただけますでしょうか。
まだまだ自分たちの領域は小さいというのと、そもそも我々のサービスは自動車を代替するものではなく、公共交通の利用データ、人流データなどをソースを分析しているので、商用車メーカーにとっては競合ではないと思っています。一方、自治体や公共交通機関においては、公器であるという責任から「失敗しないこと」が最も重要であり、その観点ではスタートアップは圧倒的に不利な立場にいます。そのため、実際には何社かに出資していただいているのですが、大企業とパートナーシップを結んで、そこで自治体に直接営業してもらうというのが理想的ではあると考えています。
Q.ありがとうございました。最後に、ここまでの経験や、当時を振り返ってMBAに言ってよかったと思われるか、率直な意見をお聞かせください。
MBAの選択に対する後悔はなく、生まれ変わってもまたIESEに行きたいと思っています。IESEの良さはダイバーシティ、ケーススタディ、チームワークの3つです。多様な経験をしながら、成長しているなと感じましたし、シンガポールにたどり着いたのも、ブランド力やアラムナイネットワークといった海外就職へのしやすさという背景があったからです。したがって、IESEでのMBA取得が現在のキャリア形成の一助になっていることは間違いないです。
インタビュアー紹介
IESE Business School Class of 2025 日本人在学生
尾島 泰介:NTTコミュニケーションズで約10年勤務し、マーケティングやプレセールス・エンジニアリング等に従事。社費留学。東京大学経済学部卒(2013年)。
栗木 一 :アットストリームコンサルティング等で約10年勤務し、財務・管理会計関連のコンサルティングに従事。私費留学。公認会計士。中央大学商学部卒(2013年)。