特集

「サーチファンドの未来 ~30代CEOへの道~」Vol.2 プロ経営者 小城 武彦氏 前編

IESEサーチファンドクラブがお送りする特集「サーチファンドの未来~30代CEOへの道~」。第2回は、IGPI(経営共創基盤)会長の冨山氏の盟友として、数々の事業再生を果たしてきたプロ経営者、小城 武彦氏が登場する。

小城氏は、東京大学卒業後、新卒で通商産業省(現、経産省)に入省。35歳のときに、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に入社し、代表取締役を務めた後に、産業再生機構でカネボウ(現クラシエ)社長として、同社再建を主導。その後、丸善株式会社、日本人材機構社長を歴任し、現在は九州大学ビジネススクールにて教鞭に立つ。

スタートアップ、中小企業、名門大企業の経営の世界を知り尽くす小城氏が語るサーチファンドの未来とは―。

小城 武彦(おぎ たけひこ)

経歴:東京大学法学部卒、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン大学院修了(国際関係論)、東京大学大学院経済学研究科修了(博士 経済学:専門 経営組織論)通商産業省(現 経済産業省)、株式会社ツタヤオンライン代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役常務、カネボウ株式会社代表執行役社長、丸善株式会社(現 丸善CHIホールディングス株式会社)代表取締役社長、日本人材機構代表取締役社長などを歴任。現在は九州大学ビジネススクール教授。国際コーチング連盟認定 プロフェッショナルコーチ。

経営者を志す人は、早くから経営ポジションにつけ

サーチファンド起業というキャリアに関して、小城さん自身どう見られているか教えて下さい。

小城:

経営者を志す人にとって、早くから経営のポジションに就くのは凄く大事です。経営者って実際になってみないと分からないことが多いので、そう意味で、サーチファンドは素晴らしい仕組みだと思います。結局、経営ってDo things through othersなんです。その難しさは、やってみなきゃ中々分からない。

特に地方の中小企業の経営をしようとすると、殆ど共通言語がありません。その環境で、MBA的なことを考えながら、それをどう実行していくかというのは、凄く面白いチャレンジだと思います。恐らく、自分よりも年上がすごく多いので、年上の人たちに自分が思うことを伝えてどう動いてもらえるか。リーダーシップの本質に向き合うことになると思います。当然、社長だから権限はあるんですけど、仮にオーナーが名誉職に残っている場合、基本的に従業員はそっちを見ているし、その中でどうやって、彼ら彼女に動いてもらえるかということをひたすら考えていかないといけません。

中小企業の世界は完全なブルーオーシャン。市場はガラ空き。

―特に日本の大企業では、若い内から経営ポジションに就ける機会が非常に少ないと感じています。ここ10年間位見ると、大企業にいるイノベーティブ人材は、大企業で数年働くとモヤモヤし始めて、スタートアップに行く流れがありました。こうした人材の移動が起きたことは、日本全体に大きなポジティブなインパクトがあったと思います。一方で、日本は事業承継問題が深刻化しており、こうした人材が新たな選択肢として、スタートアップだけでなく、地方の中小企業の経営の世界に流れていく流れが出来ると面白いと感じています。

小城:

そこにポテンシャルがすごくあるわけですよ。僕も日本人材機構時代にずっと言っていたのが、日本のGDPの6割以上は、中小企業が中心となる地方経済圏が生み出していて、その世界に顕在化されていない機会が凄くあるんです。それを拓く役割は、誰かがしてはいけなくて、それをサーチファンドの仕組みを通して、皆さんがやってくれるのは大変有難い。僕は、同じ想いを持っているからこそ、日本人材機構で社長を務め、今は九州大学のビジネススクールで教鞭を取っています。

将来、大企業の経営をやる場合でも、中小企業で経営者をやっておくと、経験値がすごく積めるので、絶対にやった方がいいです。今の日本の大企業は、50代になるまでは基本的に経営にタッチできなくて、その年齢になって生まれて初めて経営をやる人が多い。グローバルな世界では、ずっと経営をしてきた人が経営者をやっている訳で敵うはずがない。したがって、早い内から経営者の経験を積んで、そのまま中小企業の世界で経営者をやり続けるのも良いし、もしくは将来的に大企業に戻って、グローバルに勝負するということも考えられます。

そういった意味で、サーチファンドは、日本の経営者人材の裾野が広がる非常に意義のある活動だと思います。 地方には、東京では誰も知らないけど、良い会社がいっぱいあるんですよ。だけど、オーナーの多くは、勘と経験でしか経営をやっおらず、ある種の手詰まり感を感じています。そこにMBA的な広い視野や高い視座を持った人が、1人でも2人でも入ってくると凄く変わると思います。この市場は、完全なブルーオーシャンです。市場はガラ空きです。

サーチファンド普及に必要なのは、分かりやすい成功例

―今後どうすればサーチ起業は増えていくと思いますか?

小城:

それは、絶対的にわかりやすい成功例です。そこに尽きます。成功例が出るから、周りに憧れが喚起されて、自分も挑戦してみようという流れになる。若い世代にとって、キャリアの選択肢が増えるわけだから、そこは皆さんに是非頑張ってほしい。

ただ、オーナーから会社を譲ってもらうのは簡単ではありません。日本人材機構の経験からも、オーナーって人を見る目があるんですよ。普段ニコニコしていても、いざというときに目つきが途端に変わる。ぞっとしますよ。オーナーの目に叶うかどうかは、凄く大変です。中小企業って何でもかんでもやらないといけないんです。大企業で戦略部門にいて、戦略策定しかできませんなんて通用しない。営業、総務、人事なんでもやらないといけない。そういう環境に耐えられるかどうかというのは見られる。

中小企業オーナーは孤軍奮闘

―小城さんは日本人材機構の社長も務められていました。様々な中小企業と触れる機会があったと思うのですが、その中で感じた中小企業の課題は何がありますか?

小城:

オーナーの孤軍奮闘ですね。オーナーの多くは未だに個人保証をしているし、自分の会社のことをめちゃくちゃ考えている。だけど、新規事業、海外展開とかは、考えたくてもどうしていいかわからない。良い知恵もないし社内にその分野に精通している人はいない。

だからこそ、日本人材機構は、大きな会社にいて、今一歩力出せずに悶々としている人材を地方に連れて行くことをやってきた。これまで地方での人材採用は、親族・友達・ハローワークしかなかったんです。従来の人材紹介会社は、東京のニーズに応えて、地方から東京に人を引っ張っていくっていう文脈しかなく、地方はある種人材の輸出拠点だった。なので、オーナーも知見が高い人が東京から地方に来るなんて思ってもいないから、最初は驚かれましたね。

地方に来た人材は、中小企業に入った以上、オーナーに対して文句も言うし、提言もしていかないといけない。当然、オーナーだけではなくて、周りの連中も説得する技量が求められる。そこは人間力が試される世界です。それもすごく面白いと思います。

経営者を目指す若手・中堅層に求められる心構え

―経営者を目指す若手・中堅層に求められる心構えとは何でしょうか?

小城:

経営って総合格闘技なんですよ。MBAとかで習ったことを総合的に自分の中で統合した上で、目の前の環境に適応させていく必要がある。中小企業の世界は、自分と殆ど共通言語がない人たちと対峙していくことなんです。そういう人たちに対して、どういうリーダシップをどう発揮していくか一番のチャレンジだと思いますね。バックグラウンド、価値観も違うし、そういう連中と仕事をする向こうからするとMBAホールダーは異星人以外の何者でもない。その時に「おっ、こいつは意外と良いやつだな」と思わせて、「一緒にやってみるか」といかに言わせられるかが腕の見せ所です。リーダーシップの本質とどれだけ向き合い続けられるかが重要です。

これは野田さん(野田 智義氏/大学院大学至善館 創設者・理事長)が言っていることなんだけど、リーダーは、他人よりも前に、まず自分のことがちゃんと分かっていて、自分自身をリード出来るかが重要なんです。これは本当にその通りで、自分自身をリードしている連中しか、他人はリードできません。”Lead the self”ということなんです。

僕は、実はプロのコーチでもあるんですけど、自分は何をしたいのか、自分は何を大切にするのかが見えていない人が意外と多い。あなたは一体何を実現したいのか、会社の社長になったら会社で何を実際にしたいのか。それを言語化して、その会社で働く彼ら彼女が確かにそうだよなと思わせることが必要なんです。それがリーダーには問われます。

後編に続く

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