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「サーチファンドの未来 ~30代CEOへの道~」Vol.1 IGPI会長 冨山 和彦氏 前編

サーチファンドの未来 vol1 前編

IESEサーチファンドクラブがお送りする特集「サーチファンドの未来~30代CEOへの道~」。


第1回は、IGPI(経営共創基盤)グループ会長、JPiX社長の冨山 和彦氏が登場する。冨山氏は、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構にCOOとして参画。カネボウ、JAL等の名だたる大企業の再建を主導し、その後は経営共創基盤(IGPI)社長を歴任。現在は、日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長として、「生産性革命」をキーワードに、中小企業のコーポレートトランスフォーメーション(CX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援し、持続可能なローカル経済圏の構築に奮闘している。

果たして、日本の財界を代表する冨山氏が語るサーチファンドの未来とは―。

冨山 和彦(とやま かずひこ)/ IGPI会長、JPiX社長

ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年 産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年 経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。2020年 日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長就任。 パナソニック社外取締役。日本取締役協会会長。主著に『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』他。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

30代は、ボスになることを考えろ

―最初に、「サーチファンド起業」というキャリアに関して、冨山さんがどの様に思われているかお伺いしたいです。私自身、日本的大企業に所属をしていて、その年功序列かつ官僚的な組織にいた中で、 中々やりたいことが出来ないもどかしさを感じる機会が多くありました。また、日本の大企業で働く同世代を見ても、そういうメンバーが多かったんです。 その意味でサーチファンド起業は、若い内から修羅場体験を取りに行けるという意味において非常に意義があると、私自身は捉えているんですが そのあたり冨山さんがどの様に考えられていますか?

冨山:

日本の大きな会社に属して、20年から30年部下をやるっていうことの意味はどんどん無くなっていきます。要するに待ち時間が長すぎるので、部下としての能力ばかりが進化してしまう。部下として進化するということは、ボスとして進化することと反比例する場合があり、最終的に退化してしまう。最近は、生成AIが出てきており、プロンプトし、その上で出てきたアウトプットを見て判断する意思決定力が問われてきます。つまり、問いを立てる力と意思決定をする力がこれからの時代に大切になってきますが、これらの能力は、はっきり言ってJTCにいても20年30年いてもなかなか磨かれない。その意味で、20歳から起業しろとは言わないけど 30歳位になったら自分でボスになるってことを考えないと、マネジメント人材としては凄く成長スピードが遅くなるし、最終的に到達できるレベルも低くなると思います。

その中で、ゼロイチの起業ではなくて、サーチ型での起業の良さがあるとすれば、ビジネスとしては既に存在しているところからスタートするので、最初にゼロイチリスクはない所です。ベンチャーの問題は、大体の場合、ゼロイチのところでこけてしまうので、経営という段階に入る前に終わってしまう。プロダクトが出来なかった、POCが失敗したとか、経営の問題よりテクノロジーの問題になってしまうケースが多い。一方、サーチファンド起業は、そういうゼロイチリスクはないから、純粋に経営分野で、自分の力を身につけたいと思っている若い人にとっては、非常に良い選択肢だと思います。

大企業人材とサーチ起業は相性が良い

―私自身の中で、大企業人材とサーチ起業は 親和性が高いという仮説を持っています。中小企業の世界を見ていきますと、後継者がいなかったり、イノベーション活動をやりきれていない会社が多いと言われています。そういった世界に、大企業の中でも、イノベーティブ人材が、流れていくのは中小企業の生産性向上に繋がり得るのではないかと考えています。大企業には、ゼロイチではなく、1を5にしたり、5を10を得意とする人が多いと思っていまして、その意味において大企業人材とサーチ起業は、非常に相性が良いと考えています。

冨山:

それは、その通りだと思います。大企業も、入社して4,5年程度は、誰でも成長出来るとは思います。しかし、それ以降は、暗黒の時代に入ってしまう。特に、30代は、はっきり言って暗黒期。30代は社会人、職業人として1番伸びる時期であり、その時に暗黒の10年間を過ごすのは余りにも勿体ない。その意味において、サーチ起業というのは、意義ある活動であり、非常に有効な選択肢だと思います。

日本の中小企業が抱える課題

―次に、日本の中小企業が抱える課題に関して教えて下さい

冨山:

今、日本共創プラットフォーム(JPiX)では、言わば、組織的なサーチファンドの様なことをやっています。見ていて思うのは、中小企業の共通の問題は、G型L型問わず(G型=グローバル型/L型=ローカル型)、優秀な経営者リソースの不足です。日本には、ポテンシャルの高い中小企業は沢山ある一方、ポテンシャルが高くない中小企業もあります。日本は、国も含めてそうしたポテンシャルの低い企業を延命させて来たから、異常な数の中小企業が存在しています。異常な数の中小企業がある一方で、そんなに異常な数の優秀な経営者はいません。経営の難しさというのは、別に大企業と中小企業で違いはありません。中小企業だから務まる経営者っていないんですよ。経営者は、本当に一流だったらどこでも務まります。しかし、その数が全然足りていない。

これを解消するためには、一般的に言うと、新陳代謝を進めて会社の数を減らすこと、そして、事業承継の局面で、無理やりオーナー家で頑張ってもらわずに、優秀な経営者に経営してもらうか、あるいは優秀な会社と一緒になって、そちらに経営を任せていくことをやらないといけません。日本には企業数が約400万社ありますが、400万人立派な経営者を作ろうという議論は、これはナンセンス。

今、日本では大きな環境変化が起きていて、少し前までは、あまり能力の無い経営者が、極めて生産性の低い企業を経営していることにも社会的意義があった。生産性が低いということは、企業数の増加に繋がり、雇用吸収力があるということです。これまで日本は、長期に亘って、人手が余っている社会だったから、その時代においては社会・雇用の受け皿として、セーフティーネット的に生産性の低い事業者があって良かった。

しかし、少子高齢化が行くところまで来ていて、構造的な生産労働力不足の国になっている。これから毎年、何百万人の単位で減っていってしまう。これは、多少の移民受け入れでは絶対埋まらない。だからこれは生産性を上げていかないとダメなんです。そうしないと、賃金は上がらないし、無理に生産性の低い会社を存続させる意味は、全くなくなるということです。

そういう意味で新陳代謝を進めていくということは、全ての日本国民にとって正しいことです。最近、人件費倒産が出てきていますけど、ああいうのは絶対助けるなと言っているわけです。勿論、潰れていくだけではダメで、当然残るべき会社を再編、あるいは事業承継を通して、事業と従業員は優秀な経営者に渡していかなきゃいけない。それをどういうふうにスムーズに進めるかというのが一つの課題だと思います。

中小企業こそ「両利きの経営」を

―中小企業の中にも、G型(グローバル型)モデルの会社とL型(ローカル型)モデルの会社があると、従来より主張されています。G型/L型企業それぞれの課題を教えて下さい。

冨山:

G型で、よくあるのは、極めて優れた生産技術があり、個別単位で世界的に評価の高い商品を持っているんだけど、問題はそれをグローバルにマーケティングして、マネタイズするケイパビリティを持っていない会社が多いということです。例えば、G型製造業で言うと、伝統的に系列のピラミッド構造のTier2やTier3には、実は凄い技術を持っている会社が多い。

しかし、そういう会社は、生産技術で食べている会社だから、ある種の経営機能は欠落しています。本来、製造業というのは、開発、生産、営業の機能を持つべきなんだけど、生産能力のケイパビリティはあるけど、商品開発や営業のケイパビリティが無いケースが多い。結局、元請けの大企業の言われる通り、作っている訳です。だから、今までは営業やマーケティングの改善が必要なかった。しかし、今の時代は系列構造も崩壊してきているし、自分の力で世界中に入り込んでいかないといけなくなっている。

今までは、元請け企業を通して世界に行っていたが、これからは、自分でグローバルな商品センス・マーケティング機能を持たないといけないので、その欠落している能力をどう補うか考えないといけない。それは、例えば、生産技術の権化のような匠の職人にやれと言っても、それは無理な話なので、外部の新しい血が入ってこないと難しいです。

―まさに「両利きの経営」をやっていかないといけないということですね。

冨山:

その通りです。「知の深化」に関しては、これまでの延長戦上の話であり、粛々とやっていけば良い。大事なのは、「知の探索」をどれだけやっていけるか。これは難しい話では決してなく、大企業で当たり前にやっている海外への売り込みを中小企業でもやればよい話です。例えば、国際見本市に出展して、ブロークン英語を駆使して、商品を売り込む。そして、その後のビジネス展開をしっかりフォローしていく。今は、デジタルの時代だし、特に先進国でやる限りにおいてその大変さは下がっているし、ハードルは決して高くない。突飛なことをやる訳ではなく、普通の大企業でやっていることをやって行けば良い話です。

中小企業は基本的な「分ける化」・「見える化」から着手せよ

-L型産業の課題はどうでしょう?

冨山:

L型産業もある意味では本質は同じで、経営モデル、ビジネスモデルの転換が必要。結局、従来は人手が余っているという前提で、安い労働力で食べてきた会社が多いです。しかし、少子高齢化で安い労働力がいなくなってしまったから、労働生産性を上げて、賃上げをしないといけなくなる。L形に多いサービス産業は、自分たちの商品の原価すら分かっていないケースも多く、基本的な「分ける化」「見える化」から着手しないといけない。ここでDXの仕事が出てくるし、従来とは違った経営のケイパビリティを移植していかないと良くならない。

ここはもう残念ながら、たまに外部からコンサルタントが来て、経営アドバイスをしてもどうにもならないですよ。結局、トレーナーが会社に張り付かないとダメなんです。企業の経営者が変わっていかないといけない。大企業の場合はエグゼキューションする人がいっぱいいるから、ある程度外部コンサルがたまに来てアドバイスするっていうモデルはワークするんだけど、中小企業の世界はダメです。

後編に続く

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