-MBA生は卒業後に起業する人はそこまで多くありません。MBA後に起業に挑戦する人がもっと増えた方が良いと思いますか?

正直に言うと、よく分かりません。

僕はIE Business Schoolという、起業家教育に非常に力を入れている学校にいました。それでも思うのは、MBAのプログラムそのものは、起業家を育成するというよりも、優秀な中間管理職を育てるためのものだということです。

もちろん、戻れる環境がある人はどんどん挑戦すればいいと思いますし、優秀な人が起業していくこと自体は良いことだと思います。ただ、MBA卒の起業家がどんどん増えていくことが果たしてどうなのか、という問いに対しては、僕には正直なところ明確な答えがありません。

例えば、コンサル出身・営業経験ゼロのMBA生が起業を志す場合、営業についてどうアドバイスしますか?

どんな領域で起業するかにもよりますが、社長の仕事において「営業」が占める要素は非常に大きいですよね。

ただ、営業とは何かと言えば、僕は「人の気持ちを動かし、意思決定を促し、行動を変えること」だと思っています。そう考えると、これはまさにコンサルタントがやってきたことに近い。ですから、できる・できないの判断は一概には言えませんが、営業自体はそれほど特別なものではなく、やれる人は普通にこなせるものだと思います。転職活動もある意味自分を売り込む営業ですしね。人の気持ちを動かすことに関しては、「自分のことをそれだけ考えて、時間を使ってくれているか」を相手に感じてもらうことが重要だと思います。ベタですが、手書きの手紙なども効果はあると思います。

ただし、僕がいたソフトウェア営業という領域に限って言えば、かなり専門的な職種です。営業プロセス、テクノロジーの知識、業界構造の理解など、外部から来てすぐに成果を出すのはなかなか大変なことが多いかもしれません。

営業畑出身でないMBA生がサーチファンドを通して中小企業の社長になった場合、どのように営業力をつけていくべきでしょうか?

営業といっても様々なので、必ずしも一般論では語りにくいんですよね。

例えば、ゼネコンやSIer(システムインテグレーター)のような仕事は、お客様のもとへ課題を聞きに行き、「何に困っているのか」をヒアリングした上で、手持ちの様々な選択肢の中から提案していく形です。一方で、ソフトウェアベンダーのような仕事は、自社製品を買ってもらうことが前提になります。お客様の課題が自社製品で解決できるものでなければ意味がない。何を売るかによって営業のスタイルは大きく異なります。

ただ、小さな会社の社長として営業をやるのであれば、最終的に自社製品の導入に結びつける必要がある。そのため、こんな組み立て方が良いのではないかと思います。まず、「このお客さんはこういう課題を持っているはずだ」という仮説を立てて、解決すべき課題を特定する。次に、その観点からお客様に課題を認識してもらう、いわば課題の啓蒙です。そして最後に、自社製品が売れるようなストーリーを用意して提案する、セールスシナリオの構築ですね。

僕自身、ソフトウェア営業の観点に寄りすぎている部分があるので、これが必ずしも正解かは分かりません。ただ、一つの考え方としてはお伝えできるかなと思います。

-AIが発達しても営業職の価値が高まるという話がありますが、営業という職種の未来をどう見ていますか?

さっきもお話しした通り、僕は営業の本質というのは「人の気持ちと意思決定と行動」を変えていく仕事だと思っています。そこまでをAIができるかというと、なかなか難しいでしょう。

特に法人営業の場合は、人というより「組織」に意思決定をさせなければなりません。その点に関しては、むしろAIの力を借りながら人間が組織を動かしていくという形が、少なくともしばらくの間は続くと考えています。

今後の展望としては、大きな組織に大きなものを売るエンタープライズ営業は引き続き残り続けると思います。一方で、簡単なものや小さなものを売るような定型的な営業や、インサイドセールスの一部などは、AIに置き換わっていくでしょう。単純な販売活動に従事する人は、どんどん「営業」とは呼べなくなっていくのではないでしょうか。

法人営業のコツを掴みはじめたターニングポイントはありましたか?

いろんなフェーズがあるんですが、1つのきっかけとして、営業職に就く「前」の話をします。

25歳でシンガポールに渡り、海外旅行傷害保険の電話対応をアウトソースで受けている会社で働いていました。「お腹が痛くなった」という方に病院を紹介したり、支払いの保証をしたり、入院になったらメディカルレポートを取り寄せて保険会社に支払いの可否を確認したりといった仕事です。

その中で時々クレームの電話が来るのですが、僕はこの対応がめちゃくちゃ上手かったんですよ。怒っているお客さんに対して、まずはトーンをなだめつつ、味方の立場に立って話を聞く。例えば「保険金が出ない」と怒っているお客さんが多いんですが、「それはおかしいですね、確かにおっしゃる通りだと思います。一緒に保険会社に確認しましょう」と伝えます。

対立構造ではなく「こちらはあなたの味方ですよ」という形に持っていくことで、クレームを解消するのが非常に得意でした。この経験を通じて、「こういう対応ができるなら、扱う商材が変わってもうまくやっていけるんじゃないか」と思えたのは、よく覚えていますね。また、特に法人営業においては、顧客企業の社内に「自分の味方になってくれる人」をつくることが重要だと言われます。IT営業の世界では MEDDIC(メディック) という有名な営業フレームワークがありますが、その最後の CはChampion(チャンピオン) を意味します。これは、顧客企業の内部で自社の提案を後押ししてくれる人物を指しており、まさに「顧客の社内で味方をつくる」という考え方を体系化したものです。

安定して良い営業成績を出すために意識していたことはありますか?

営業であるからには、ノルマは100%達成して当たり前です。やはり、できれば150%や200%を狙っていきたい。外資IT営業は売れてなんぼの世界です。

そのために意識していたのは、大幅な上振れ達成を前提として、すべてを逆算で組み上げることです。当然、戦略やパイプライン、アクティビティが必要になりますが、まずはゴールを高いところに置いて、それを必ず達成すると決める。そこから逆算して計画を作っていく。シンプルですが、これが一番大事だと思っています。

また、国による文化の違いにも配慮する必要があります。外資系企業では、本社が完成度の高いスライドを用意してくれることが多いですが、それをそのまま日本語に翻訳しただけでは、日本の受け手には必ずしもしっくりこない場合が少なくありません。なので、文化的な背景の違いを理解したうえで、メッセージがより分かりやすく伝わるように、日本のビジネス環境や受け手に合わせて資料を作り直すことが重要になります。

関連記事

1MBAと営業 2MBAと起業

マウスオーバーか長押しで説明を表示。

関連記事

Coffee Chat

最近の記事
おすすめ記事
  1. ~MBA生は営業をどう学ぶべきか? 外資IT営業の現場から見たリアル~ チャレンジャーベース株式会社 市川慶氏インタビュー

  2. ~AI時代にこそ「リアルな熱狂」を。球場の枠を超えた次世代の街づくり~ 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 小川太郎氏インタビュー

  3. ~アイデンティティなくして真のグローバル人材は育たない~ 大学院大学至善館 野田学長インタビュー

  1. LBS PE Case Competition

  2. 飯島塾長インタビュー 外(学習塾)から見たIESE part1 IESEとの出会い編

  3. 入学審査官に IESEの入学審査についてのアレコレを聞いてみました その1

TOP