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『足し算ではなく掛け算』で捉えるキャリア競争戦略 JERA Americas 内橋さんインタビュー

 私たちIESE日本人在校生は、自分たちのキャリアだけでなく、将来のビジネスリーダーとして日本の未来のために何ができるか考えていきたい、また日本の皆さまにも考えるきっかけを作りたいと考えています。

 今回は、IESE Alumni(Class of 2011)であり、現在は日本発・世界最大級のグローバルエネルギー会社であるJERA(ジェラ)の米国法人JERA Americas Inc.の経営企画部門にてVP of Strategic Change Managementを務められる内橋さんに「自身のキャリア」「組織マネジメントのためのMBA」というテーマでインタビューさせていただきました。

内橋さんについて

内橋 茂樹(うちはし しげき)さん

 日本IBMに1999年 新卒入社、システムエンジニア、プロジェクトマネージャー、ビジネスコンサルタントとして製造・流通業界を担当。大規模ITプロジェクトの企画・開発・運用の全領域に携わった後、グローバルプロジェクトにてJ-SOX、PMI (合併後の統合)に従事。2009年から2年間をバルセロナのIESE Business SchoolにMBA留学 (Class of 2011)。
 MBA取得後、DELLのアジア・パシフィック組織の事業企画マネージャー、楽天のデジタルマーケティング、海外事業支援を経て、社長直轄の全社KPI改革プロジェクトリーダー、データ・インテリジェンス部門責任者等を務める。人材大手パーソルでは、当時の経営陣からの特命案件にて米国パートナーと協働でHR Tech領域の新規事業開発責任者を務める
 2019年にJERA入社後は、当時CIOの元でICT部門の組織開発から、全社DX戦略・ガバナンスから、各種DXプロジェクトを推進。また、全社員5000人を対象にDX人材育成教育(JERAデジタルアカデミー: JEDI)の立ち上げをリード。現在は米国法人JERA Americas Inc.(在ヒューストン)の経営企画部門のVice President of Strategic Change Managementの役割にて、北米地域戦略を始め、各種組織横断テーマに従事。

JERAについて

 JERAは、東京電力と中部電力との包括的アライアンスに基づき、日本に国際競争力のあるエネルギー企業を創出することを目指して設立され、燃料上流・調達から発電、電力/ガスの卸販売に至る一連のバリューチェーンが一元化された国内火力発電の半分を占める発電能力と、世界最大級の燃料取扱量を誇るエネルギー会社です。JERA Americasは米州における発電事業・燃料事業の統括を担っています。

キャリアについて

Q.JERA Americasでの内橋さんの役割について教えてください。

 日本で言う経営企画部門に属し、JERAグループのビジョン・戦略と連動した北米地域戦略、及びJERAが北米で営んでいる発電・燃料事業についての事業戦略との整合した成長シナリオの策定に関わっております。
 米国は世界最大級のエネルギー資源産出国であり、最大規模のエネルギー需要地でもあり、JERA Americasはそこで安定供給、脱炭素化を両立させるべく、燃料調達から再生可能エネルギーを含む発電まで、多岐に渡る事業を営んでおります。

 『世界のエネルギー首都』と言われるヒューストンに米国本社を構えるJERA Americasは、正にJERAのグローバル化の一翼を担う組織であり、組織自体も急成長している一方で、成長痛もあります。今後の成長に耐えうる組織基盤を作るべく、業務プロセスやルール、デジタルツールに至るまで真のグローバルカンパニーに求められる仕組みづくりの真っ最中です。
 私は外資系と日系、ベンダー側とユーザー側、事業部門とIT部門と、両方の立場を経験しつつ、既に出来上がったグローバルカンパニーであるIBM、DELLや、グローバル展開・英語公用語化の真っ只中の楽天に身を置きグローバル組織づくりを実体験として経験して参りました。過去の経験全てを総動員し、米国の地よりJERAを真のグローバルカンパニーにする一助になればと考えております。

Q. JERA Americasは、日本からの駐在員だけでなく、アメリカでの現地採用も行い成長中だと思いますが、日本の強み、特長を活かしたいというコメントがありましたが、JERA Americasで就業される中で、日本人の価値をどのように捉えていますか?

 結論としては、日本人の中でも多様化が進んでおりますし、国籍は大きな意味を持たなくなっている認識ですが、一般論でいう日本人の特長は、能力の高さの均質性や、細部へのこだわりにあると感じます。日本にグローバル本社のあるJERAにおいて、言語・文化の壁を越えるだけでなく、一定レベル以上の品質を担保しつつ、細部に渡る業務遂行能力は、提供価値の1つではないかと考えます。
 加えて、これは日本人だけの組織内でも言えることですが、自分の特技・強みを明確にし、それを周囲に伝えることが大切かと思います。例えば業界知識や領域専門性等です。それにより、社内でのコラボレーション機会が促されます。

Q. そういった意味では、内橋さんはITプロフェッショナルとして複数の企業でキャリアを積まれてきたかと存じますが、例えばDXプロジェクトを成功させて来られたノウハウはどういうところにあるのでしょうか?

 成功には運の要素もありますが、失敗には必ず理由があると考えます。失敗するDXで遭遇する事象は、ビジネス課題が明確でない、経営陣のバックアップが無い、外部ベンダーやIT部門に丸投げしている(他人任せ)、等です。IT・デジタルは、あくまでビジネス課題を解決する為の『手段』ですので、DXを目的化せず、且つ当事者意識を持つことが重要と考えます。
 昨今生成AIがブームになっていますが、新しい技術のリスクを見るだけではなく、リスクを定量的に評価し、如何に取り込んでいくかが重要です。企業の競争環境において、AI・デジタルが『差別化要素』である点は、議論の余地はない中、経営者だけでなく、中間層、現場が如何にロジカルにリスクテイクを行えるかで、大きく企業の成長に差が生まれると考えます。アジャイル、クイック&ダーティ、色々な言葉がありますが、考え続けて行動を起こさないよりは、小さくても行動を起こすことが重要です。

 過去に自身の頭の整理の為にDXをD軸(デジタル度合)とX軸(変革度合)に分けて図解にしたものが以下ですので御笑覧ください。本来的にDXは高度なデジタル活用と事業創造を行う右上の象限を狙うはずなのですが、足元に引っ張られてなかなか辿り着けない内に、GAFAのような異業種がディスラプターとして参入してくるという図式です。守るものが多い程、変革が進まないイノベーションのジレンマを示しています。

Q. 新しい会社で仕事を始めた時、迅速にチームを掌握し結果を出されるために、組織マネジメントにおいてどのようなことを意識・実践なさっていますか?

 私は、キャリア初期段階でプロジェクトマネージャーを経験し、その学びを活かしております。全ての組織活動をプロジェクトと捉えることで、目的・ゴール、スコープ、時間軸、リソース(予算と人員)等をマネジメントを通じ、結果を最大化することが求められます。新しい会社であっても、今いる会社の新しいアサインメントでも、原理原則はプロジェクトマネジメントの考え方を適用しています。
 加えて、適時・適切なコミュニケーションが必要です。コミュニケーションスタイルは、個々人の特性に応じるものなので、画一的である必要はないと考えますが、私は最初の会社でプロジェクトマネージャーを務めていた頃から、メンバーとの1on1や各種レビュープロセスを通じ、チーム内の目線合わせの機会を持つよう努めています。

Q.逆に、キャリアの中で直面した最大の課題は何でしたか?それをどう乗り越えましたか?

 環境が変わる度に、社内人脈づくりや、業界・組織について学び直しはある為、それぞれにチャレンジはありましたが、一番苦労したのはある事業会社の特命案件で米国の戦略的パートナー企業役員と新規事業開発責任者として取り組んだ経験でした。社会的意義の大きなテーマで新規事業開発に魅力を感じ果敢に飛び込んだものの、事業としての具体的なゴールやスコープは定まっていなかった為、課題特定からソリューション設計まで全てにハンズオンで関わり、数社での実証研究を行いましたが、新規事業の成功確率は0.3%(1000に3つ)と言われる世界で、残念ながら市場のニーズを捉えるには時期尚早であり、短期的なマネタイズは叶いませんでした。
 事業開発責任者として、当時の組織が許容できるコスト、リスクテイクの度合を理解しつつ、撤退基準を自ら設定し、結果としてピボット(案件凍結)する判断をしましたが、新しい環境とリソース制約の中でゼロから事業を起こすことの難しさを痛感した経験となりました。

次のページでは、MBA取得の動機、若い世代へのアドバイスについて伺いました。(↓)

1キャリアについて 2MBA取得の動機、若い世代へのアドバイス

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