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<後編>「サーチファンドの未来 ~30代CEOへの道~」Vol.3 欧州最大のサーチファンド投資家が考える、「アセットクラスとしてのサーチファンド」 ~ホセ・マルティン・カビエデス氏

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What is a good company?

構造的な観点から見たとき、良い会社とは何でしょうか?過去150回のソーシングに私が参加した中で、良い会社とは、成長と収益性の実績が証明された会社です。ですので、私たちは非常に収益性の高い良いビジネスを探し、購入したいのです。そして、私たちはすぐにそれをどのように購入するかを見極める必要があります。すなわち、良いビジネスが良い市場で経営されていること、成長している市場で、支配的なプレーヤーがいない市場で、奇妙なダイナミクスが進行中でない市場です。そのような非常に良い市場でその会社は運営されるべきです。最も重要なのは、予測可能な収入を持っていることです。一般に、B2Bサービスは契約化されています。私たちは会社の将来のビジネスの進展に、こうしたキャッシュフローの可視性を持ちたいのです。契約化された収入、リカーリング収入、そして多様なクライアントを持つことが重要です。そして、ビジネスが高い流動性を持っていることも重要です。現金から売上への転換、またはEBITDAから売上への転換は、その点で絶対に重要です。高いマージンと非常に低いCAPEXは非常に良いアセットと見なされるでしょう。概して、会社が自ら滅ぶことがないような、非常に堅牢な会社であるべきだということです。皆様は、そのような会社は稀だと考えるかもしれませんが、そうではありません。つまり、どの地理でもそれらは数千に数えられ、私の理解では日本ではおそらく数万になるでしょう。ですので、私たちは後継者問題を抱えている素晴らしい会社を探しています。ですので、後継者問題を抱えるこうした会社がが、サーチファンドが買収すべき会社のタイプです。

Key criteria

私が投資したサーチファンドの1つの話ですが、そのサーチャーは、このクライテリアにマッチする会社を1200社以上もスペイン国内で見つけることができました。私は確信していますが、皆様がこれらの特徴をフィルタリングプロセスに適用する場合、日本でもそれらを何百も見つけることができるでしょう。ですので、会社を見つけることが難しいように思えるかもしれませんが、多くの会社が存在します。私が関与した中でも最もうまくいったサーチャーの1人が、素晴らしい会社を見つけたときに私にメッセージを送ってくれたことがありました。そこには、彼が1000社以上の会社にアプローチした末に、遂に購入を決めた会社を見つけたことが、まるで素敵な宝石を見つけ恋に落ちてしまったと、綴られていました。

What makes a good deal?

 サーチファンドにおいては、良い会社を探しているだけでなく、良い取引で購入できる会社を探しています。良い取引とは価格のことで、基本的には安い取引です。私たちがコントロールできるサイズの取引ということです。ですので、私たちは大企業を購入しているわけではありません。私たちは通常、限られた投資能力を持つ投資家ですので、良い財務条件を持つ中小企業を購入する必要があります。

 また、銀行や投資家からの資金調達において、良いファイナンス条件を必要とします。これは、時に取得金額調達の一部を遅らせてでも獲得するべきである程に重要なものです。日本では、その優れた資金調達環境を活かすことができるでしょう。また、私たちは安いだけでなく、明確な売却理由を持っている、評判の良い会社を探しています。そうした宝石が見つかって、はじめて真の旅路が始まります。それは、価値創造という旅路です。

サーチファンドはミドルリスク・ミドルリターンのアセットクラスであり、平均して2倍程度のROIを持つ。
出典:IESE International Search Funds–2024 Selected observationsより

Search Funds’ value creation

 価値創造には通常3つの大きなステップがあります。

 第一に、EBITDA(利払い/税引き/減価償却前利益)を増やすための非常に明確な計画または道筋です。それには通常、4つの主要な要素があります。1つ目は簡単な勝利、すなわちローハンギングフルーツを確りと取りに行くということです。これは通常、非常に長い歴史から継承された、歴史的に最適でない運用から来るものです。会社のパフォーマンスを段階的に改善するために変更できる多くの小さなことがあります。ですので、それが第一歩です。第二歩は、先ほど述べたその業界の成長を掴むことを試みることです。第三に、良いものは残し、変えるべきものは変えるということです。必要であれば、新しい血、新しいビジョン、新しいやり方を浸透させる必要があります。最後に、さらなる将来の成長を目的とした、海外進出やデジタル化などの施策を行うことです。新しい経営陣、CEOがその謙虚なアプローチでビジネスについて学んだ後、これらの計画が開花し始めるときです。そして、私たちは5年または6年でEBITDAを2倍または3倍に増やす会社を見ています。その計画が通常どのように進化するかを見るのは素晴らしいことです。

第二は、私が魔法と呼ぶもの、すなわちレバレッジです。日本では非常に低い金利環境を有効活用できることを確信しています。これにより、十分に予測可能なキャッシュフローを持つ堅牢な会社を購入している場合、私たちは銀行に買収資金の調達依頼することができます。私の知る限り、日本におけるサーチファンド投資第二号案件においては、これによって80%以上と非常に高いレバレッジでの投資が実現しています。これは、予想される株式リターンが非常に高いことを意味します。私たちはまた、その債務を返済するために最小限のCAPEXを必要とする会社を要求します。そして、私たちは継続的な資金最適化とともに、運転資本の強化に多くの重点を置くつもりです。

最後に、安く買って高く売ることにも重点を置きます。私たちが参加し、購入した50件の取引のうち、私の平均的なエントリーポイントはEBITDAレベルで5.5倍以下であり、すでに売却した2社のうちの1社は7.5倍で、もう1社は10倍で売却されました。

First 100 days

素晴らしい計画を持ち、少しのレバレッジを加え、安く買って高く売ることで、価値創造が実現します。しかしこれは、とてつもない重労働の結果です。とあるサーチャーは、会社を購入してから、最初の1年間で何をするか計画を立てました。非常に多くのアクションを取る必要があります。この経営の過渡期は非常に重要であり、ここに時間と努力を費やすことを奨励します。

Closing

 私が過去25分間でお伝えしようとしたすべては、アカデミックの世界での研究成果や刊行物を通じて更に理解を深めていただくことができます。IESEとスタンフォードは、ケースや学術論文を執筆する分野のリーダースクールで、サーチファンドに関する研究成果をオンラインで提供しており、皆様が更なる分析を行う上で非常に有用であるはずです。これら2つの学校だけでなく、多くの他の学校からの研究成果についても、できるだけ多くの時間と努力を費やして研究されることをお勧めします。

 最後に、私たちはこのサーチファンド業界で、非常に印象的な成長を見ています。私たちIESEが実施したサーチファンドに関する2020年の調査においては、世界全体のサーチファンド活動件数に大きなジャンプがありました。その後、アジアにおけるサーチファンド案件のパイプラインを見ると、更に数字は増加しており、実際に私はオーストラリア、中国、インドネシア、インド、日本、シンガポール、タイなどのアジアの新たなサーチャーとネットワークを広げています。アジアでは多くの動きがあります。

サーチファンドは従来欧米・南米が中心だったが、アジア・太平洋地域にも広がりつつある
出典:IESE International Search Funds–2024 Selected observationsより

このアセットクラスは、あなたが掴むべきチャンスであると確信しています。そして、私はあなたに、この素晴らしいアセットに参加することを真剣に検討されることを、強く奨励します。投資家として、私が実際にリターンを享受した経験があること、またそれが今後も続くであろうと確信していることに加え、1人のプロフェッショナルとして、この革命的なビジネスに参加されることを非常に奨励します。そして、日本に数多く存在する、素晴らしい会社の事業承継という社会問題を解決しましょう。これはあなたが掴むことができる機会です。次世代の成功したCEOになるための機会です。私の全ての尊敬を込めて、サーチファンドに携われることを心から奨励します。そして、私がこの素晴らしいアセットクラスを日本に押し進めるために何かお手伝いできることがあれば、ぜひ私に知らせてください。皆様の新しい冒険での素晴らしい幸運を祈ります。お聞きいただき誠にありがとうございました。

ありがとうございました。
翻訳・編集:Co25 中畑・尾島・田中


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