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日本の中小企業活性化におけるサーチファンドの可能性-IESE Japan Search Fund Forum – IGPI グループ会長 冨山和彦氏 基調講演録

2024年4月に開催されたIESE Japan サーチファンドフォーラムでの冨山和彦氏の講演録となります。
サーチファンド(事業承継による起業の一形態)についてはこちらのページ をご覧ください。

講演者紹介

冨山和彦(とやま かずひこ)

ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年 産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年 経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。

日本の中小企業における事業承継問題

 みなさん。こんばんは。冨山です。私は3年ほど前に日本共創プラットフォーム(以下、JPiX)という会社を作ったのですが、ひょっとしたら今から考えると、自分の潜在意識の中に、アクセラレータ型サーチファンドのアイデアからインスピレーションをもらっていたかもしれません。先程Joseが言っていたのと同じクライテリアで色々な会社をサーチして買収して経営していった場合、ほぼ間違いなく上手くいくのではないかという確信がありました。地方のローカルな会社の再建などの経験も踏まえてそのように感じていました。ですので、アクセラレータ型サーチファンドをやろうという嶋津さんのことも最初から応援していました。JPiXの場合は「法人版」サーチファンドになるので、会社としてお金を集めて、適当な会社を探して買収していきます。なので、先程タイムホライズンをあまり強くしちゃいけないという話がJoseからありましたが、JPiXも同じで、場合によっては永久保有もしていくという格好をとっています。

 JPiXが買収対象として見ている企業は、ローカルビジネスで、キャッシュフローは安定しているものの中堅中小企業で、多くの場合事業承継の問題を抱えています。特に最近日本ではこの類の企業が急激に増えています。JPiXが実際に買収している企業の8割~9割は事業承継問題をきっかけとして相談に持ち込まれています。昔は、日本の中小企業は絶対にオーナーシップを手放さない傾向がありましたが、だいぶ変わってきています。日本中が少子高齢化でそもそも引き継ぐ人がいない、あるいは、やはり経営は楽ではないので、経営する意志と能力に後継者候補の方が恵まれていないと厳しいということが要因としてあります。サーチファンドというモデルで経営に臨むとしても、ある種古典的なバイアウトファンドのように、様々な投資家の期待を背負うことになります。うまくいかなかったら破産するわけではないですが、他人様のお金を預かっている以上一定のプレッシャーはありますから、その辺大変と言えば大変ですよね。そういったプレッシャーに耐えられるというのもある種の才能のようなもので、それに恵まれないと経営者というのは大変な仕事なので、親も無理やり子供に継がせようとしないケースもあり、事業承継関連の案件は非常に増えてきています。

中小企業の成長可能性の高さ

 日本における中小企業という文脈でもう一つ重要なのは、日本経済全体でいうと、中小企業、特にローカル経済がGDPの7割を占めているということです。そうすると、例えば自動車や電機メーカーなどのグローバルビッグネームは、日本経済全体への貢献度という視点で見ると意外と小さいんです。これ、アメリカではもっと小さいです。アメリカは、GAFAの時価総額が高いだけで、GDP貢献度は大してありません。なので、実態としてアメリカのGDPが伸びているかというとそうでもない。そういったこともあり、今アメリカは格差社会がひどく、今はスタンフォードの周りも治安が悪いらしいですね。自分がいた90年代前半よりも悪くなってしまいました。ということで、中小企業というのは国への経済貢献度の高い領域で、その中で日本は圧倒的に大きな市場だと考えられます。

 加えて、もう1つ大変なことは、このセクターの生産性が低いのです。一番わかりやすいのが労働生産性ですが、だいたい観光業や資格業、あるいは交通産業などの各分野それぞれのセクターごとに国際比較をすると、だいたいOECD先進国のトップに対して、日本は大体半分しかありません。おそらく観光業で生産性が高いのはスイスですが、基本的に貧乏人は来なくてもよいというスタンスなので、高い生産効率を上げられるのです。日本は他国と比較しても飲食などが安価なため、観光業に関しては大体スイスの半分です。要するに伸びしろがあるということです。先程Joseが言っていましたが、ローカルな中でちゃんとしたことが出来るのが大事なので、コツコツと地道にやるべきことをやるのが効いてくるのです。
 日本の中小企業数は今三百数十万社ありますが、三百数十万人も優秀な経営者がいるわけがないので、グッドビジネスなのにも関わらず、結果的にマネジメントレベルが必ずしも高くないという企業はごまんとあります。ということは、天才的起業家や天才的経営者でなくても何とかしようがあるビジネスがたくさんあるということです。投資は確率論なので確率論的に言うと出掛ける会社さえ間違えなければ、リターンの確率は絶対に高いです。くどいようですが、300万社というとてつもない数あり、それらそれぞれが今後どんどん事業継承していくということで、物凄くチャンスは広がっていると思います。

「30代はボスをやれ。」 / 経営者という最終意思決定者としてしか得られない経験

 もう1点、経営者になっていきたいと思ったときに、ここまで言うと多少語弊がありますが、30代を大企業で過ごすのは暗黒の10年間であり、ほぼ全く成長しないと思います。20代の新卒で入ったばかりの数年間は、どこに入社してもそれなりに成長しますが、だいたいこれは20代の半ばくらいで終わります。そこからははっきり言って暗黒の10数年です。だいぶ年功序列制はなくなりつつありますが、それでも日本の会社だと50代くらいから急に偉くなるので、下手すると暗黒の20年間となります。
 あともう1つ言っておきたいのですが、私は色々な会社の経営再建をやってきているので、実体験で申し上げると、10万人いる会社のナンバー2は所詮ナンバー2であり、ラストパーソンではないのです。ここはとても大事な問題で、よく経営者と会う時によく「●●さんは大人数の会社の経営をしたことがないから、事業部長止まりだ」などといった話をする人が必ずいますが、これは大間違いで、下に何万人いようがナンバー2はナンバー2であり、トップマネジメントではないということです。ラストディシジョンをしていない、つまり最後の意思決定をしてその結果責任が全部自分のところに被さってくるという経験をしていないのです。
 多くの人はこの立場になった瞬間に痺れます。取締役会や経営会議の皆が賛成の時は、トップの出番はありません。だいたいトップが本気でやらなければいけないときは、賛成反対が大勢分かれて、だけどどちらにするかで会社の命運が決定的に変わってしまう状況というのは、特にスモールビジネスで起きるんですね。じっと待っていたら溺れ死ぬか凍え死ぬかなので、どちらかに進まないといけないんです。CEOというのは、最後の最後にそれを決める人で、サーチャーの人はそれをやらなければいけないわけです。もちろん間違えたら引き返すことが出来るので、間違えても結構なんですが、果敢に引き返す必要があって、それも自分で決めないといけなくて、経営というのはそれの繰り返しなんです。ベンチャーの中でダメな人は、まず、悩みすぎて決められない人です。あとは、コンセンサスを取ることに一生懸命になりすぎる人ベンチャーはスモールビジネスなので決めることが最優先なのにも関わらず、コンセンサスに拘ったり、コンサルタントみたいに一生懸命スライドを作ったりします。私は元コンサルなのであまり言いたくないですが、元コンサルの人はこのパターンは多いと思います。すぐスライド入っ選択肢A,B,CのPros/Consを一生懸命分析してしまい、社員に見せて意見を仰いだりします。生成AIに聞いても曖昧な答えしか言わないときに、どれを選ぶかということが重要だということです。
 そういった意味で、暗黒の10年間を避けようと思ったら、少なくともサーチファンドはすごくいい戦略かもしれないです。そこで仮にうまくいかなくても、おそらく今の時代は皆さんに決して×はつかないです。大事なのは、どううまくいかなかったか?」という負けっぷりなんです。負けっぷりが良ければ、確実に次のチャンスがあります。そして、私もそういう人をたくさん採用してきましたので、それは心配いりません。大企業はわかりませんが、少なくともこういうプロフェッショナルな世界でやっていく一流の人間は気にせず中身を見ていて、他人がどう思うかということを気にせずに意思決定をします。基本的に欧米のこのようなリスク投資の世界は個人でやっていて、ベンチャーキャピタルといっても所詮個人やパートナーの集合体ですが、日本はまだ法人が強い国で、法人が強いうちはまだ経済成長に繋がらないと思っているんですが、ここに来てかなり帆が立ってきたので、これからこういったサーチファンドの仕組みというのは非常に大事です。

サーチファンドが日本経済にもたらすインパクト

 日本の停滞の真因は、中堅中小企業、ローカル経済ということは、中堅中小企業にもっと優位な人間がどんどん流れ込んで経営を担うということは、実はこの国全体に対するインパクトがものすごく大きいです。もう1つ、日本国の人材の流れの不幸をいうと、明治維新以来この国は、国がかりでメーカーや鉄道などの大きな会社を作って上からの近代化を行ってきたため、その中で日本中の優秀な人材を帝国大学に通わせて、先進国モデルを教え込んで会社を作るということを150年やってきたので、優秀な人が漫然と東京の大会社に集まってしまいました。だいたい勉強ができると、漫然と塾に行って、漫然と進学校に行って、漫然と典型的な東京大学に入り、そして漫然とホワイトカラーの会社に入社します。そこで漫然と生産性の高い仕事をしているかというと、半沢直樹のドラマを見るとわかるように、そういう人たちは仕事をしないで、ずっと権力闘争をしています。日本の会社で偉くなってしまうと、社内調整や社内アポイントメントなどしかやっていないような人がごまんといます。それではこの国の生産性は上がらず、優位な人が腐っていってしまいもったいないです。これから生成AIなどが出てきますが、そうなるとますますホワイトカラーはいらなくなります。
 自分たちが名門企業の再生に入る場合、基本は販売管理費に関わる人件費を半分カットしますが、そうすると、そういう企業の人は絶対に会社が回らないと言い出します。むしろ半分いなくなったほうが意思決定が早くなり合理的になり、下らない権力闘争をしなくなるので、実は全然困らないのです。なので、日本に集まってしまった人材は中堅中小企業やローカルビジネスに行った方が、日本国のためになります。

 次は、皆さんのような優秀な人材がどうやってローカル企業の再生をするのか、というのが問題です。先程言ったように、天才的な腕はほぼ必要なく、ちゃんとやるべきことをやるということが圧倒的に大切です。古典的改善・改良を行うだけでかなり良くなります。例えばバス会社だと、バスもよく空バスが走っていて、運転手としてはその方が楽ですが、ただCO2を排出して走っているだけですよね。なぜこのようなことが起きるかというと、どの停留所で人が乗っているかを把握していないバス会社がいるためです。一番有効なのはICカードで、またはQRコードなどを入れると乗降率が把握できるので、その結果を持って初めて、路線別・ダイヤ別の収支が分かります。マーケティングもそうで、一発で当てるというよりは、こういうローカルビジネスのマーケティングは、コツコツとお客さんを捕まえていって、それをリピーターにするというゲームをやっているので、ある意味すごくデータマーケティング的です。よくテレビに出て一発イベントでお客さんを呼んで、ということをしますが、あれはすぐにまねされて終わりなので絶対にダメです。ローカルビジネスはそういうことを真似できるので、実はあまり保守的ではないんですよ。私の思いとしては、とにかくこの仕組みが日本中に普及することです。

20-30代でのマネジメントへの挑戦が40代でのチャンスを生む

 まだ広大な市場にポツポツとしかプレーヤーがいない状態なので、ものすごく先が面白くエキサイティングな制度になっています。ですので、今日いらっしゃっている方でそういう思いがある方はぜひ手を挙げてもらいたいですし、皆さんが20代~30代の一番力がつくとき、マネジメントとして成長する時期にこういったことに関われることはもの凄く意味があります。仮にうまくいかなくても、また40代の時にきっとチャンスが来ると思います。実は私は42歳で、産業再生機構のトップになりましたが、その時は全くの無名でした。それまでたまたま自分たちのCDIというコンサルティング会社の経営をやっており、そこで急に抜擢されてしまったのですが、やはりビジネスパーソンとして自分が一番成長したのは明らかに30代です。

 いずれにせよ20代30代の才能と意志のある優秀な皆さんが、人の流れとしてローカルなスモールビジネスに携わることは、日本企業の再生にとって極めて重要なテーマです。また、このセクターを成長させることは、底上げ型の経済精神のため、格差縮小型の成長に繋がります。やはり日本社会の色としては、ローカルな中堅中小企業が元気になることで、より多くの雇用が生まれ、多くの人がきちんとした給料をもらい豊かな人生を送ることで、社会全体が豊かになっていくことを期待しています。持続的なシステムは世の中の人ためにきちんと機能していないと持続性がありません

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